第41話 “覚悟”
芽依の推理が冴え渡る。
こういう時こそ、芽依の地頭の良さが活かされていく。
俺はどうすればこの事件を防げるかを考えていた。
何としてでも未然に防ぎたい。俺はコーヒーカップに着目する。
「そういえば、すぐそこの出口の先に、喫茶店があるんだよな。そのコーヒーはそこの商品なのかな?」
「今まさに私達が飲んでいるコーヒーが、そこで買ったものなんだけど……」
芽依はベンチの上に置いていたコーヒーを手に取り、まじまじとカップを眺めた。
「私が夢で見たカップと、ちょっと形が違うのよね。これこそ記憶違いかしら?」
「だいぶ細かい違いだな……」
「私が見たカップは無地の透明だった気がするの。こんな柄なんかなかった気がするけど……」
俺達が手にするカップは透明の容器に、でかでかと喫茶店の店の名前が刻印されていた。
これを見間違えることはなさそうだが……
「それとも別の店のものなのか? 喫茶店の隣はコンビニがあって、他には…….喫茶店なんか近くにあったかな?」
「コンビニ……あ! もしかしてそっちじゃない? 最近コンビニにもコーヒーって売ってるし!」
ここ数年で一気にブームとなり、どこのコンビニでもコーヒーを置くようになっていた。
俺はあまり利用したことはないが、コンビニに行った際に見た覚えがある。確かコンビニコーヒーのカップは無地だった気がする。
勇次がいないせいもあってか、どうも俺達は記憶違いを恐れ、何かと夢の相違の理由をすべて“記憶違い”と決めつけている節があるようだ。
見つけられるものがあるならば事前にしっかりと探し、あらかじめ潰しておく必要がある。
「じゃあそのコーヒーはそこのコンビニで買ったものか。それなら俺が犯人がいつ来てもいいように、コンビニ前で張っておこうか?」
「いえ、コーヒーの種類は分かったとしても、そこのコンビニで買ったかどうかは分からないわ。睡眠薬の効き目は飲んでからある程度時間がかかるはず……だから買ってきたのは別の場所のコンビニかもしれない」
「それもそうか……じゃあやっぱり、危険だけど現場を抑えるしかないのか?」
「そうかもしれないわね。犯行に及ぶ直前──それが一番捕まえられる確率が高い。ただ……その分、危険は高まるけど……」
そうなんだよな……それが何よりの懸念材料だ。
できることなら、もうこれ以上芽依に嫌な思いをさせたくない。
その思いが強すぎたのか……
俺は本来聞いてはならないことを、芽依に聞いてしまっていた。
「その……芽依は怖くないのか? 前回の銀行強盗の時も、あんな危険な目に遭ったばかりなのに……」
芽依は深い溜め息をついて、呆れながら答えた。
「誠人まで勇次みたいなこと言わないでよ……そりゃ怖いわよ。怖いに決まってるでしょ」
「じゃあ、やっぱりやめた方が……」
「それをやめてって言ってるの!! 怖くてやめるんだったら、最初から来てないわよ。この前の事件で、怖い体験は十分した……もうこれ以上怖いことなんてないはず……そう考えれば、多少の怖さなんて平気だわ!!」
凄い……やっぱり芽依は強い子だ。
もしかしたら俺が不安だったのは、芽依のことじゃなく、“自分のこと”だったのかもしれない。
俺は自分の身に加え、芽依を守りきる自信がなかったんだ。
相手は凶器を持つ殺人犯。何を仕出かすか分かったもんじゃない。
でも、それを知ってて俺達は“ここ”に来たはずだ。勇次の警告も受け入れずに……
覚悟が足りなかったのは俺の方だった。
それに気付いた俺は、すぐに芽依に謝罪した。
「そうだよな……変なこと言ってごめん」
「えぇ。謝らなくて大丈夫よ。もうネガティブなこと言うのはやめてよね。もう私と誠人しかいないんだから。これ以上は……もう……」
「あぁ、もう言わないよ。絶対」
だめだ。芽依を悲しませてはいけない。
これ以上は……絶対に。
だから俺は今回の事件を必ず未然に防いでやる。
そして芽依を無事に守りきり、悪夢に打ち勝ってやるんだ!!




