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星が墜ちた夜から  作者: Guru
5章 正義のヒーロー
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第40話 ”推理”

 芽依に言われた“デート気分”の言葉が、まさに図星だった俺は気合いを入れ直した。


「そうだな……あの事件の日が今日かも分からない。ちゃんとしなきゃ」


 芽依はいつにも増して真剣な表情で、メモを取り続けている。


「そうよ。ただでさえ勇次がいないんだから……何が起きるか予測ができない」


 芽依はメモを取り終えると、人が近くにいないことを再度確認した後、悪夢の話を始めた。


「私が見た夢では、女性だけがこのベンチに座っていたの。その後男性が来たんだけど、女性はとても眠たそうな表情だった」


「それだけでコーヒーに睡眠薬でも入ってるんじゃないかと思ったのか? 単に眠いだけじゃなくて?」


「いえ、理由はそれだけじゃないわ。女性は突然、手にするカップをベンチの下に落とした。カップが持てなくなるほど眠くなるなんて……おかしいと思わない?」


「確かに。それは不自然かもな」


 カタカナの“コ”の字に似た、3つのベンチが配置されているが、俺達は今、その事件の起きるであろう場所──“コ”の下の横線に位置するベンチに座っている。


 この位置は、後ろはすぐに道路となっており、道路側からは高い植木によって公園内を見ることができない。

 その後ろの道路とは、俺が夢の中で歩いていた道路のことだ。


 そして、このベンチがある位置は公園の端に当たる部分のため、死角となるところが多い。

 対面のベンチの裏には、何本かの大きな木と花壇が並び、それらがうまく邪魔をして、向こう側からこちらは、あまり見えてこないのだ。

 昼ならまだしも灯りの行き届かない真夜中では、更に視界は悪くなるであろう。


「夜になって人がいなくなれば、この場所は絶好の隠れ場所になりそうだな。犯人はそれを知っててここにおびき寄せたのか?」


「きっとそうね。じゃなきゃこの場所は選べない。そして、さりげなく睡眠薬が入ったコーヒーを手渡し、女性が眠りに入ってから犯行に及んだ」


 なんだか今回の事件は、色々と推理をしていく必要があるようだ。

 その犯行までの過程を辿っていけば、どこかで女性を救えるポイントがあるはず。


 とりあえず俺は、自分の知りうる情報を芽依に話した。


「たぶんだけど、俺はその犯人の男性を見ているんだ。男性は急ぎ足で、後ろの道路の方の出口へ逃げていったよ」


「本当!? 私、あまり犯人の顔を見ていないのよね……まさに刃物で女性を刺す瞬間を見てしまったわけだけど……男性は深く帽子を被ってて、顔がよく見えなくて……」


 また衝撃的な場面を芽依は見てしまっているのか……

 思えば、以前の飛び降り自殺の瞬間も芽依が目撃しているし、嫌な役回りばかり芽依に背負わせている気がする……


 芽依がショックにより、トラウマを植え付けられないかが心配だったが、それと同時に俺は、自分の悪夢との相違点を見つけていた。


「あれっ……? 俺が見た男性は、帽子なんか被ってたかな? 被っていなかったような……」


「もしかして、それが記憶違いなのかしら? それとも……ねぇ、誠人。他に男性はどんな服装だったか覚えてる?」


 俺は悪夢のことを思い返した。

 男性は急いでおり、すぐに立ち去ってあまり直視はできなかったが、これといって特徴的な格好をしていた覚えはない。今の時期相応の普通の服装だ。だからこそ、あまりに記憶に残っていないとも言える。


「う~ん……確か下はジーンズに、上は半袖シャツだったような。最近は蒸し暑い日もあるし、おかしな点は特にないよ」


「──半袖? おかしいわね」


「えっ?」


「私が見た男性は、この時期には目立つくらいの“厚着”をしていたのよ! 特徴的だったから、はっきりとそれは覚えてる。間違いない!」


「じゃあ……やっぱり俺の方のが記憶違いだったのかな?」


「いえ、きっとそうじゃないわ」


 芽依は神妙な面持ちで、ペンを走らせた。


「もし刃物で女性を刺そうものなら、返り血を浴びてしまうはず……確か男性はリュックサックを背負っていた」


「──そうだ!! 男性は大きめのリュックを持っていた!! その大きさが分かるくらいに、パンパンに膨れあがっていたな!!」


「ということは……返り血を浴びた服を男性は脱いで、リュックにしまったのね! もしかしたら刃物もそこに入れたのかもしれない!!」


 これで俺が見た犯人の逃走時と、芽依が見た時の服装の違いにも辻褄が合う。


「それで間違いなさそうだな。そうなると、ますます計画殺人の可能性が高まってくる」


「そうね。どういう関係性かまでは分からないけど、2人は顔見知り。公園に呼び出し、睡眠薬で眠ったところで女性を殺害したんだわ!!」

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