第35話 “無視”
あの銀行強盗の事件から、ちょうど1週間が過ぎた。
そこで俺は、再び強烈な悪夢を見ることになる。こうも立て続けに衝撃的な悪夢が来られると、俺の体も持たないかもしれない……
ーーー
『どこだ……ここは?』
ぼんやりと見ていた景色が、次第にはっきりと映し出されていく。
見えてきたのは、見知らぬ道端だ。
頭上にある街灯が俺を照らす。どうやら夜の時間帯のようだ。
俺は右方向を見た。右側に見えるのは植木だろうか?
チェーンソーで刈られたと思われる、四角く綺麗に整えられた植木が、長々と道なりに伸びている。
そして、その植木の足下から膝丈くらいの高さには、赤いレンガの柄をした壁が続く。
『公園でもあるのか? 公園の外壁か? これは』
今度は反対の左側に目を向けた。
上下一車線の道路を挟み、見えるのは喫茶店、コンビニ。
これといって不思議なところは見つからない。
ここで俺はすぐに、これが夢の中だということに気付いた。
さすがに俺もこの悪夢を見るようになってから、数ヶ月はたっている。
自然な町並みですら、見分けがつけられるほどまでに成長していたのだ。
『きっと悪夢だな、これは。あ、そうだ!』
そこで俺は、昨日時計を買ったことを思い出す。
まずは日にちと時間の確認が鉄則。俺は左腕の時計を見るが……
『──あれ? ない!』
俺の腕に時計ははめられていなかった。念のため、右腕も確認するも、どちらの腕にも見当たらない。
『おかしいな……もしかして、時計を買ったのも、全部夢の話だったのか?』
すべては夢の中の記憶だったのだろうか……
一体どれが現実で、どれが夢の中の記憶なのか、段々自信がなくなってくる……
俺が道端であたふたとしていると、公園から大きめのリュックを背負った1人の男性が飛び出してきていた。
随分と急いだ様子で、男性は俺に気付いていないように思える。
俺は横にずれて道を空けようとするが、早歩きの男性は更にスピードをあげた。
このままではぶつかる!!
──そう思った瞬間、俺の体は男性には触れず、幽霊のように体をすり抜けていく。
『──えっ? ぶつからない?』
そうか……これか。勇次が以前話していた、自分視点ではあっても、夢に参加はできないってやつは。完全に俺の体は幽霊状態だ。
俺は今の摩可不思議な現象により、これが夢だと確信を持つ。
残念ながら時間こそは分からないが、とにかくこの夢の中身を検証しなければ。
きっとこれから、良からぬことが起きるに違いない。
今の急いでいた男性が怪しい……
俺はすぐに振り返るが、すでに男性は街中に消えていってしまっている。
そうなれば、公園の中に入るしかない。
俺は男性が出てきた公園の出口から、中へと足を踏み入れた。
公園の中は閑散としており、この点から考えて、夜深い時間帯の可能性が高い。
『誰もいないか……ん? あれは……』
誰1人公園内に人はいないかのように思われたが、奥のベンチに人の影を見つけた。
俺はそのベンチに目を向けると、そこには……
全身血だらけで、横たわった女性の姿があったのだ。
『うっ……これか……悪夢の原因は……』
俺はこの衝撃と共に目を覚ます。
ーーー
「はぁ……はぁ……やはり悪夢……殺人事件か!?」
よく女性を見ることはできなかったものの、左胸辺りが特に血まみれとなっていたのは確認できた。
誰かに刃物で刺されたのか?
そうなると、真っ先に思い浮かぶのは、あの急いでいた男性だ。
智を含めた俺達四人の悪夢が、それぞれ異なる視点から見ているのだとしたら、俺の夢は犯人の逃げる位置を教えてくれていたのだろうか?
とにかく、皆とすり合わせが必要だ。
俺は要点をメモし、その日は寝ることにした。
・・・
翌日の朝。
俺がスマホを見ると、早速芽依からメッセージが届いていた。
やはり俺同様、同じ事件の悪夢を見ていたようだ。
公園内での殺人事件。
どうやら芽依は、俺より詳しくその現場を目撃しているように思える。
勇次からの連絡はないが、勇次が朝遅いのはいつものことだ。いずれ返信は来るだろう。
とりあえず俺は、大学へと向かった。
──その日の夜。
あれから勇次の返信はない。
気になった俺は、グループメッセージの中を覗く。
メッセージのやり取りは、相も変わらず俺のメッセージで終わったままの状態である。
しかし、何人が見たか分かる仕組みになっている“既読マーク”。
今朝は“1人”だったに関わらず、“2人”になっていたのだ。
このグループは俺を含めて、全員で3人。
そうなると芽依も勇次も、どちらも俺のメッセージに目を通したことになる。
だが、それでも勇次からの返信はない。
「まぁ勇次は学校にバイトもあるし、忙しいだけだろう」
そう思い、特にそこまで気に留めることはしなかった。
──更に翌日。
夜になっても、あれから勇次の返信は見られない。
俺はいつでもメッセージがすぐに見れるように、スマホを常に傍に置いていた。
すると、スマホからメッセージが届いたのを知らせる音が鳴る。
俺はすぐさまスマホを開いた。
しかし、そのメッセージは勇次からではなく、芽依からのものだった。
『勇次の返信がないみたいだけど、早いところまたあのバーに集まらない? 事件の日が過ぎてしまったら大変なことになる』
確かに……それもそうだ。
てっきり勇次からすぐに返信が来るものだと思っていたから、芽依に事件の“日時”を聞いていなかった。なるべく早めに一度集まりたい。
俺がスマホ片手にそんな考え事をしていると、今の芽依のメッセージに“既読マーク”がついた。
即ち、勇次が“たった今”、このメッセージを見ているということになる。
善は急げだ。勇次の返信をのんびり待つ余裕もない。俺は勇次に電話をかけた。
──しかし……勇次が中々電話に出ないのである。
どうした? 勇次。なぜ電話に出ない……
だが、ここで俺も簡単に折れるわけにはいかない。
なにせ、人の命が懸かってるんだ。
しつこいと思われたっていい。俺はそのまま電話を切らずに鳴らし続けた。
すると、電話はそこでやっと繋がり、スマホの画面表記は『通話中』となる。
「──もしもし、勇次?」
ようやく勇次と電話が繋がった!!
そう思った、次の瞬間には……
勇次との電話は切れていた。
今の……わざとか? 意図的に切ったのか!?
しつこく鳴らさないと取らない電話……中々返ってこない返信……更に、電話に出てもすぐに切断……
これはもしかして……勇次は俺達を無視している!?




