第32話 “背後”
このままではまずい……芽依が人質として強盗達に連れていかれてしまう。
何をされるか分かったもんじゃない。
ここはもう、命に替えてでも芽依を救い出さなければ。
きっと勇次も同じことを考えていたのだと思う。
とにかく気を付けなければならないのは、拳銃を持つ強盗のボスだ。
心拍数は高まり、自分の胸の鼓動が聞こえるような気がした。
タイミングを見計らい、決死の覚悟で飛び出そうとした──その時。
ボスの後ろにいたガタイの大きな一般客の男性が、突如として動いた。
その動きが目に入った俺と勇次は、思わず足を止める。
すると、次の瞬間。男性はボスの背後から、拳銃を手にする右手に手刀をかました。
不意をつかれたボスは、どうすることもできず拳銃を落としている。
拳銃は床をすべり、こちらに運はあったのか、男性の足下付近で止まった。
「誰だ!? 余計な真似をしやがるのは!!」
ボスは振り返り、上着の内ポケットからナイフを取り出す。
さすがはリーダー格。用意周到だ。武器の仕込みを怠らない。
怒り狂ったボスは、躊躇なく男性を切りつけにかかった。
しかし、その男性は物怖じしない様子で、完璧に動きを見切り、ナイフをかわす。
そして、ボスの伸びた右腕を掴み、そのまま一本背負いを決めたのだ。
鈍い音と共にボスの全体重が床に乗り、振動がこちらにまで響き渡る。
ボスはその衝撃により、今度は手にしたナイフを床に落とした。何が起きているのか、さっぱり事態を把握できていないことだろう。
更に、男性はその後の動きも迅速で、床に落ちていた拳銃を握り、ボスに銃口を向けた。
明らかに只者ではない……
一体、この男性は何者なんだ!?
恐らく銀行内の全員が、そう思ったところで、男性は声を張り上げながら身分を明かす。
「警察だ!! 銀行強盗の容疑にて、現行犯で逮捕する!!」
驚いた俺は、自然と声を出してしまっていた。
「──警察!?」
何でこんなところに都合よく警察が……
その理由を明らかにしたいところだが、今はそれどころではない。
男性は懐から警察手帳を取り出して開き、犯人に見せつけている。
どうやらはったりでもなく、本当に警察官──刑事のようだ。
刑事はひとまず芽依を救出させる。
「そこの女性。強盗犯から離れなさい」
「はい……」
芽依に近づいていた2人の強盗は観念したのか、芽依に余計な手出しはしなかった。
芽依がこちらへ近づいてくる。俺と勇次は芽依に駆け寄った。
「芽依!! 怪我はないか!?」
「……えぇ、大丈夫。私は無事よ」
まさに一瞬の出来事とは、この事を言うのだろう。
一般客の中に紛れていた刑事のおかげで、俺達は難を逃れ、3人の強盗犯は逮捕される形となった。
・・・
このあと銀行はすぐに立ち入り禁止となり、数台のパトカーや、多くの警察関係者で溢れた。
俺らは事情聴取のため、その場に残らされる。
あまりに衝撃的な出来事すぎたのか、俺達の会話は弾まない。
特に芽依が心配だ。恐怖のあまり、ショックを受けてなければいいのだが……
俺らが無言で棒立ちしていると、先程の刑事がこちらへと近づいてきていた。
「君達、ちょっといいかな? 私の名前は“現田”。警部補をしている。詳しく話を聞かせてもらいたい。署まで来てくれ」
「はい……」
無論断れる訳はなく、俺達は刑事の指示に従うしかなかった。
俺は人生初の事情聴取を、警察署の中で受ける事となる。
・・・
場所は警察署内にある、6畳ほどの狭い部屋で行われた。中にはテーブルと椅子だけが置かれており、部屋の中には2人の刑事がいる。
俺達3人は別々に事情聴取が行われるわけだが、なぜか俺のところには、現田刑事が来ている。
俺は緊張しっぱなしでソワソワしていると、心の準備もままならないうちに、事情聴取は始まりを告げていた。
「早速だが、始めさせてもらうよ。まずは、キミの名前と職業は?」
「俺──いや、私は知念 誠人と申します。大学生です」
「いつも通りの口調で大丈夫だ。そんなに緊張しなくてもいい」
「は、はい……」
そう言われても無理だ……
この現田という刑事……俺の対面に座っているが、とてつもない凄みがある。
勇次と並んだ時に、勇次より背は高かったし、身長は180センチを優に越えているだろう。
肌は黒く、坊主とまではいかないが、スポーツ刈りくらいの髪の短さ。
恰幅のよかった強盗犯を、簡単に投げ飛ばすほどのガッチリ体型だ。
刑事と知っていても尚、見た目だけでは怖いくらいまである。
これでは事情聴取でなく、取り調べをされている気分だ。
何でも自白してしまいそう……追い込まれる犯人の気持ちがよく分かる。
「キミはあの銀行で何をしていたんだ? どうやら友達2人を引き連れていたみたいだが」
「俺は保険のことを聞きに、銀行に。別支店ですが、元々あの銀行を利用していたんです」
「その用件を……わざわざ3人で?」
「はい。そうです」
何だ……やはり疑われている気がする……
確かあの人も、ずっと銀行内にいたんだ。
俺達の動きも、全部把握しているのだろう。
俺がびくびくしてるのが見て取れたのか、現田刑事は俺に優しい言葉を投げ掛ける。
「別にこれは取り調べではない。キミには拒否する権利もあるんだ。私としては事件について、知っていることを話してくれれば助かるのだが……それだけは覚えていてくれ」
これが取り調べではないだと?
嘘つけ! 俺達も共犯なんじゃないかと、疑っているんだろ!?
どうしたらいいものか……これは面倒なことになったな。




