第31話 “歯車”
犯人にもう1人仲間がいた!?
よく考えてみれば、それは安易に想像できることだったのかもしれない。
犯人からしたら、中にいる者を外に逃がしてはならない……出入り口に必ず1人は配置するであろうことを。
しかも、後から現れた最後の1人は、本物の拳銃を持っている。
「よく“あれ”を偽物と見抜いたな。そう簡単にいくつも拳銃は用意できるものでもなくてね……とりあえず、そこの学生さん。俺の仲間を離してもらおうか」
後から現れた恰幅のいい強盗犯は、明らかに勇次を見て言っていた。
服装は2人の強盗犯と全く同じであったが、ドスの利いた声色で、この人物も男であろうことが想像できる。
勇次はおとなしく言うことを聞き、寝技を解いた。
そして、立ち上がって両手をあげる。
「よし、それでいい。俺達は別に命を奪うつもりはねぇ。金さえあればそれでいいんだ」
完全に形勢逆転だ。
しかし、これ以上無理はできない。
先程まであれだけ強気だった勇次も、降参状態である。
「今のやり取りの間に、十分猶予はあったはずだ。金の準備はできているだろう?」
恰幅のいい男は、数メートル先にいる受付女性に話しかけていた。
すると、奥の方から銀行の責任者らしき男性スタッフが顔を出す。
そのスタッフはゆっくりと手前まで歩み寄り、声を震わしながら要望に応じた。
「準備……できております」
「おい、おまえ。取りに行け」
「了解です」
この男は3人の中でもリーダー格、ボスなのだろうか。
芽依の近くにいた、背の高い男を顎で使っている。
更に、恰幅のいい男に対して2人とも敬語で話しているため、犯人達の関係性が何となく透けて見える。
背の高い男が、自分達が用意していたバッグを銀行員から受け取ろうとするも……
強盗犯のボスは警戒したのか、背の高い男を呼び止める。
「いや、待て。何か仕掛けてあるかもしれねぇな。おまえは一旦下がれ」
「……はい。分かりました」
見ていない裏で、銀行員達が何をしているのか分からない。
ましてや、本当に本物の金が入ってるのかどうかすら怪しい。
その確認のために、ボスは別の者に取りに行かせることを思い付いたようだ。
「そうだな……」
きょろきょろと辺りを見渡し、ボスは1人の女性に白羽の矢をたてる。
銃口を向けて、脅しながら指名した。
「おい、そこの女」
「わ、私ですか……?」
「そうだ。おまえ以外に誰がいる」
たまたま背の高い男の近くにいたことが、災いしてしまったのかもしれない……
指名された人物は──芽依だったのだ。
芽依はそっと一歩前に出た。
ボスは芽依に命令を下す。
「バッグの中を開けて、金を確認しろ。それに、中や外に何か怪しいものがないか探すんだ。発信器でも着いてるかもしれねぇ」
「……は、はい」
芽依は重い足取りで銀行の責任者に近づき、バッグを受け取った。
そこでまた、芽依に指令が入る。
「その場で空けろ。何も怪しいことがないと分かったら、こちらへよこせ。時間は……1分以内だ」
「……はい」
芽依は言われるがままに、目を瞑りながらバッグを思いきって開けた。
犯人に『何かある』と言われると、どこか警戒していた部分があったのだろう。しかし、開けたところで特に何も起きる気配はない。大至急、バッグの中を確認する。
遠くからでも、芽依が冷や汗をかいているのが分かった。
それでも芽依は、時間に追われ焦りつつも、しっかりと中身を確認しているように思える。
俺は芽依が余計な真似をしないかだけが心配だった。
今は自分の命を最優先でいい……ここで変な正義感は要らないぞ……芽依……
無念にも、俺と勇次は固唾を飲んで、ただ芽依を見守ることしかできない。
「──終わりました。特に何もおかしいものはありません。お金もしっかり入っています」
芽依がバッグの中身を確認し終えた。
実際のところは、1分は過ぎていた。恐らく、その時間が大事だったのではなく……それは『とにかく早くしろ』という、意味合いが込められていたのだと考えられる。
「そうか。よくやった。バッグをこちらへ持ってこい」
ボスは芽依を労った。芽依はバッグを手にし、ボスの元へと一歩ずつ近づいていく。
芽依がボスの目の前まで辿り着き、バッグを手渡そうとした──次の瞬間。
ボスは思いもよらぬことを言い始めた。
「冷静な女だな。この状況下でも、取り乱すことなく淡々と仕事をこなす……こいつは使えそうだ」
「──えっ?」
「この女は人質として連れていく。おまえ達、この女を取り抑えろ」
「「はい、分かりました」」
バカな……芽依が人質として拉致される!? なんだこの展開は……
俺の悪夢にはもちろん、勇次と芽依の方にもこんな流れは全くなかったはずだ……
もはや俺達の悪夢は、予知夢として何の意味も、もたらさなくなっている。
一度狂った歯車は、取り返しのつかないところまで来てしまっていた。




