第30話 “仲間”
覆面を被った2人の男が、拳銃片手に銀行を襲っている。
銀行の女性スタッフ、一般客からカン高い悲鳴があがった。
夢の流れと同じように、背の低い強盗は目の前の銀行員に拳銃を突きつけている。
その位置は、俺の隣の3番窓口だ。しかし、銀行員は戸惑いからか、中々言うことを聞かない。
そこで芽依の近くにいる、1番窓口付近のもう1人の背の高い強盗が、別の銀行員に脅しをかけた。
「早くしろ!! じゃないと警察が来る。5分以内だ。もたもたするものなら、ここにいるやつらから1人ずつ撃ち殺すぞ!!」
強盗は振り返って背後にいる一般客に銃口を向ける。すると再び悲鳴が響き渡り、全員が一斉に伏せた。
「騒ぐんじゃねぇ!! それに勝手に動くな! 立て!! 全員立って両手をあげろ!!」
「次動くものならば、見せしめにそいつを撃つからな!!」
ここまでは完全に夢の中と同じだ。
さて、ここからどうすべきか……
俺は両手をあげながら頭を働かせていると、1人の人物が堂々と銀行の真ん中を歩いて来るのが見えた。
「おい、おまえ!! 何やってる!! 殺されてぇのか!?」
俺の近くにいた背の低い強盗は、その人物へと銃を向ける。
怯える客を掻き分け、通路のど真ん中を歩く人物とは、入り口付近のソファーに座っていた……
──勇次だ。
「やってみろよ。やれるもんならよ」
勇次は挑発しながら、強盗に向かってゆっくりと近づいていく。
あれだけ『無理はしない』と決めていたのに……めちゃくちゃだ!!
でも正直言って、この時の勇次は物凄くかっこよく見えていた。
恐怖をかえりみず、自分の見た悪夢を完全に信じきっているのだから。
少しでも記憶違いのことが頭をよぎれば、こんな大胆な行動は取れないだろう。
勇次の行動を心配したのか、後ろの客の中から声が聞こえた。
「危ないぞ! キミ! それ以上近づくな!!」
しかし、勇次は後ろを振り返ることなく、自信満々に答える。
「大丈夫だ。心配しないでください」
信じ難いまさかの勇次の動きに、犯人は明らかに動揺しているように見えた。
「イカれてんのかおまえ!? それ以上近づくと本当に撃つぞ!? 止まれ!!」
背の低い強盗の警告も、今の精神力を持ち合わせた勇次には何の効力も持たない。
「だからやってみろって。その偽物の──拳銃でよ!」
「──何!? おまえ、なぜそれを知っている!!」
核心をつかれた強盗は完全にパニックに陥っており、思わず口を滑らせた。自らが手にする拳銃を偽物と認めたのだ。
それを聞いた勇次は走りだし、強盗に向かっていく。
「誠人!! 今だ!! 取り押さえるぞ!!」
勇次が活路を開いた。勇次の勇気ある行動を無駄にはできない。ここは俺も続くしかない。
「あぁ!!」
両手をあげ、停留を余儀なくされていた俺は、勇次の合図と共に動き出す。
2対1なら、どうにかできるはずだ。
幸い相手は小柄で、体格もそんなによくない。
「観念しろ!! 強盗め!!」
勇次は全身ダイブして飛び込み、強盗を取り抑えた。
日頃鍛えていた筋肉が役に立ったのか、俺の協力なしに、ほぼ1人で強盗を取っ捕まえていた。
寝技をかけ、身動きを取れないようにしている。
「こっちは大丈夫だ!! あともう1人は頼む!!」
「オーケー!!」
ここは勇次に任せて、俺は1番奥にいる背の高い強盗のところまで走った。
俺は勇次みたいに1人でうまくやることはできないだろうが……こちらには芽依がいる。
きっと強盗は俺と勇次が仲間だと知っても、自分の背後にもう1人の仲間がいるまでは分かるまい。
女性の芽依でも、背後から虚をつけば、十分戦力になるはずだ。
俺は走りながら芽依に視線を合わせ、アイコンタクトを送った。
芽依は強盗の背後でこくりと頷いている。
強盗は他の武器を出す様子もない。
これは──行ける!!
俺がそう思った矢先……銀行の入り口の自動ドアが開き、人が来たのを知らせるチャイムが鳴った。
そして…………
今度は大きな“破裂音”が鳴り響く。
ドラマや映画でしか聞いたこのない、“あの音”だ。俺は足を止め、その音のする方角を見た。
「やるじゃないか。若造達。見たところ、学生か? だけど……大人をからかってはいけないね」
何も仲間がいたのは、俺達だけではなかったようだ。
入り口の外に、もう1人強盗犯はいたのである。犯人は全員合わせて、“3人”だったのだ。
しかも、新たに現れた男の手にする拳銃からは、煙がたっている。
先程俺が耳にした、破裂音の正体は……まさに“銃声”である。
あの拳銃は偽物じゃない──“本物”だ。
恐れていた記憶違いは、最悪な形で訪れようとしていた。




