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星が墜ちた夜から  作者: Guru
4章 悪循環
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第30話 “仲間”

 覆面を被った2人の男が、拳銃片手に銀行を襲っている。

 銀行の女性スタッフ、一般客からカン高い悲鳴があがった。


 夢の流れと同じように、背の低い強盗は目の前の銀行員に拳銃を突きつけている。

 その位置は、俺の隣の3番窓口だ。しかし、銀行員は戸惑いからか、中々言うことを聞かない。


 そこで芽依の近くにいる、1番窓口付近のもう1人の背の高い強盗が、別の銀行員に脅しをかけた。


「早くしろ!! じゃないと警察が来る。5分以内だ。もたもたするものなら、ここにいるやつらから1人ずつ撃ち殺すぞ!!」


 強盗は振り返って背後にいる一般客に銃口を向ける。すると再び悲鳴が響き渡り、全員が一斉に伏せた。


「騒ぐんじゃねぇ!! それに勝手に動くな! 立て!! 全員立って両手をあげろ!!」


「次動くものならば、見せしめにそいつを撃つからな!!」


 ここまでは完全に夢の中と同じだ。

 さて、ここからどうすべきか……


 俺は両手をあげながら頭を働かせていると、1人の人物が堂々と銀行の真ん中を歩いて来るのが見えた。


「おい、おまえ!! 何やってる!! 殺されてぇのか!?」


 俺の近くにいた背の低い強盗は、その人物へと銃を向ける。

 怯える客を掻き分け、通路のど真ん中を歩く人物とは、入り口付近のソファーに座っていた……



──勇次だ。



「やってみろよ。やれるもんならよ」


 勇次は挑発しながら、強盗に向かってゆっくりと近づいていく。


 あれだけ『無理はしない』と決めていたのに……めちゃくちゃだ!!

 

 でも正直言って、この時の勇次は物凄くかっこよく見えていた。

 恐怖をかえりみず、自分の見た悪夢を完全に信じきっているのだから。

 少しでも記憶違いのことが頭をよぎれば、こんな大胆な行動は取れないだろう。


 勇次の行動を心配したのか、後ろの客の中から声が聞こえた。


「危ないぞ! キミ! それ以上近づくな!!」


 しかし、勇次は後ろを振り返ることなく、自信満々に答える。


「大丈夫だ。心配しないでください」


 信じ難いまさかの勇次の動きに、犯人は明らかに動揺しているように見えた。


「イカれてんのかおまえ!? それ以上近づくと本当に撃つぞ!? 止まれ!!」


 背の低い強盗の警告も、今の精神力を持ち合わせた勇次には何の効力も持たない。


「だからやってみろって。その偽物の──拳銃(オモチャ)でよ!」


「──何!? おまえ、なぜそれを知っている!!」


 核心をつかれた強盗は完全にパニックに陥っており、思わず口を滑らせた。自らが手にする拳銃を偽物と認めたのだ。

 

 それを聞いた勇次は走りだし、強盗に向かっていく。


「誠人!! 今だ!! 取り押さえるぞ!!」


 勇次が活路を開いた。勇次の勇気ある行動を無駄にはできない。ここは俺も続くしかない。


「あぁ!!」


 両手をあげ、停留を余儀なくされていた俺は、勇次の合図と共に動き出す。

 2対1なら、どうにかできるはずだ。

 幸い相手は小柄で、体格もそんなによくない。


「観念しろ!! 強盗め!!」


 勇次は全身ダイブして飛び込み、強盗を取り抑えた。

 日頃鍛えていた筋肉が役に立ったのか、俺の協力なしに、ほぼ1人で強盗を取っ捕まえていた。

 寝技をかけ、身動きを取れないようにしている。


「こっちは大丈夫だ!! あともう1人は頼む!!」


「オーケー!!」


 ここは勇次に任せて、俺は1番奥にいる背の高い強盗のところまで走った。


 俺は勇次みたいに1人でうまくやることはできないだろうが……こちらには芽依がいる。

 きっと強盗は俺と勇次が仲間だと知っても、自分の背後にもう1人の仲間がいるまでは分かるまい。

 女性の芽依でも、背後から虚をつけば、十分戦力になるはずだ。


 俺は走りながら芽依に視線を合わせ、アイコンタクトを送った。

 芽依は強盗の背後でこくりと頷いている。


 強盗は他の武器を出す様子もない。

 これは──行ける!!



 俺がそう思った矢先……銀行の入り口の自動ドアが開き、人が来たのを知らせるチャイムが鳴った。

 そして…………


 今度は大きな“破裂音”が鳴り響く。

 ドラマや映画でしか聞いたこのない、“あの音”だ。俺は足を止め、その音のする方角を見た。



「やるじゃないか。若造達。見たところ、学生か? だけど……大人をからかってはいけないね」


 何も仲間がいたのは、俺達だけ(・・)ではなかったようだ。

 入り口の外に、もう1人強盗犯はいたのである。犯人は全員合わせて、“3人”だったのだ。


 しかも、新たに現れた男の手にする拳銃からは、煙がたっている。

 先程俺が耳にした、破裂音の正体は……まさに“銃声”である。

 あの拳銃は偽物じゃない──“本物”だ。


 恐れていた記憶違いは、最悪な形で訪れようとしていた。

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