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星が墜ちた夜から  作者: Guru
1章 悪夢の始まり
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第2話 “予知夢”

 あの朝の出来事は、一体何だったのだろうか……単なる偶然か? 


 いや──偶然にしては、よく出来すぎている。

 予知能力でもあったかのように、突然強風が吹いて、男の子の帽子が飛んだ。


──そうか! 予知能力!? まさかあれは予知夢か……?


 一瞬、俺はそう考えたが、次には『バカバカしい』と否定した。

 急に超能力にでも目覚めたなんて、おかしな話である。


 でも……待てよ……


 悪夢はここ数日間続いていた。

 仮にあれが本当に予知夢だとしたら、他の悪夢も現実として起こりうる事となってしまう。


 俺の頭の中は整理が着かず、行ったり来たりの自問自答を繰り返していた。



 結局、今日の大学の講義は何の意味ももたらさなかった。

 もはや俺の耳には、教授の喋る言葉は何ひとつ入ってきていない。

 意味があるとするならば、それ以外に雑音はないため、集中できることくらいだ。


 俺はここ数日の悪夢を思い返していた。

 やはりそこはどこまで行っても夢は夢なのか、はっきりと中身は覚えていない。

 ぼんやりと頭の片隅に記憶が残る程度だ。


 ましてや中身は悪夢。

 自然と脳が、記憶を消し去ろうとしている。


 ただし、その中でも強烈に印象に残る夢がひとつだけあった。

 それは数日前に見た、妹の沙織が夜分に襲われる悪夢だ。俺はその夢に引っ掛かった。 

 気のせいだと高を括り、もしあの悪夢が実際に引き起こってしまえば、もう取り返しがつかない。念には念をである。

 

 間違いなら間違いでいい……沙織が心配だ。


 俺は講義中にも関わらず、すぐさまスマホで沙織にメッセージを送った。


『今日の夜、予定はあるのか?』


 正直、その日が今日とは限らない。

 昨晩見た悪夢は、たまたま翌日の朝に起きただけかもしれないのだ。

 それを考えると、別の日に起こる可能性だってある。


 メッセージを送った僅か数分後、沙織から返信があった。


『部活終わりに友達と夜ご飯食べに行く予定だよ。急にどうしたの? 珍しいね』


 あいつ……今授業中だろ? 何やってんだ……


 まだ時刻はお昼前で、沙織は確実に高校の授業中である。

 別にお昼休みに返信すればいいものを……


 そこに少し苛立ちを覚えるも、自分も人の事は言えないはずなのは……もちろん分かっている。完全に自分の事は棚にあげている状態だ。


 俺はお構いなしに、再び講義中(・・・)に、沙織に返信を入れた。


『今日は早く帰ってこい。理由は聞くな。何でもだ』


 きっと何事かと思っていることだろう。

 でも滅多にない兄からのメッセージだ。普段、よほどの用事がない限り、連絡を取ることはないからな。

 きっと黙って言うことを聞いて、おとなしく帰ってくるに違いない。




・・・




 先に家に着いていた俺は、沙織の帰りをひたすら待っていた。

 時刻はもうすぐ7時。特別遅い時間というわけではないが、この日ばかりは気になってしまう。


 初めは高校まで迎えに行こうかとも考えたが、さすがにこれは過保護がすぎるだろう。


 俺は落ち着かず、家の中をうろうろと歩き回っていた。

 すると、玄関の扉が開く僅かな音を、俺の耳は捕らえる。



「ただいまー」


 帰ってきた。

 無事に沙織が帰ってきたのだ。


 走って俺は玄関まで出迎える。


「やっと帰ってきたか! よかった……心配したんだからな!」


 沙織はムッとした顔を見せて、カバンを俺に投げつけてきた。

 咄嗟の反応で、俺はカバンを抱えるようにして受け取る。


「おっと! 随分、乱暴だな」


「当たり前でしょ。何が心配したよ……そんな子供じゃないんですけど」


 沙織は靴を脱ぎ、でかい足音を鳴らしながら家の中へと入って行く。


「それで? 理由もなく何なのよ? 友達と約束してたのに……友達怒らせちゃったじゃない!」


「いや……その……」


 とてもじゃないが、理由は言えない。

 信じてもらえるわけはないし。


 ましてや、あの夢が現実に起こるかどうかは誰にも分からないのだ。黙ることしかできなかった。


 沙織は俺をリビングの中に入れないように、わざと勢いよく扉を閉めた。軽い嫌がらせである。

 どうやら沙織は相当怒っているように思える。


 でも、こんな仕打ち、可愛いもんだ。

 何事もなかった……沙織は無事だったんだ。


 今はそれだけで十分だ。黙って俺が嫌われていれば、それでいい。

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