第26話 “悪夢慣れ”
いつぶりだろう……これほど胸騒ぎのする悪夢を見たのは。
俺は1人暮らしを始めたばかりだった。
どれだけうなされようとも、途中で起こす者は誰もいない。
良くも悪くも、この悪夢を見続けなければならないのだ。
おおまかに夢とは、主に2パターンに分けられるのをご存じだろうか?
まず1つ目は、自分そのものが夢の中に登場し、自分が夢の中で動き回る──“自分視点”
次に2つ目は、まるで神様の立ち位置にいるかのように、“外から”夢を見下ろすような──“第三者視点”
この2つだ。
言い回しは、それぞれ異なることもあるだろうが、俺はこう分類する。
そして、今回はその1つ目に相当される“自分視点”の悪夢だった。
舞台は偶然にも、先日利用したばかりの 銀行である。
ーーー
『手をあげろ!! ここは俺達が占拠した!! 貴様、このバックいっぱいに、ありったけの金を詰めろ!!』
──銀行強盗だ。
覆面の2人組が、拳銃片手に銀行員を襲っている。
2人は同じ全身黒の服装、同じ覆面を被っており、見分けがつかない。
見分けをつけるとするならば、2人の背丈くらいだろうか。
背の低い強盗は、目の前の銀行員に拳銃を突きつけるも、銀行員は戸惑っていた。
身の危険と正義感。それらを天秤にかけていたのかもしれない。
もう1人の背の高い強盗が、別の銀行員を急かせる。
『早くしろ!! じゃないと警察が来る。5分以内だ。もたもたするものなら、ここにいるやつらから1人ずつ撃ち殺すぞ!!』
強盗は振り返り、背後にいる一般客に銃口を向けた。
いくつもの悲鳴が銀行内に響き渡る。そして、その悲鳴と共に皆が一斉に伏せた。
『騒ぐんじゃねぇ!! それに勝手に動くな! 立て!! 全員立って両手をあげろ!!』
『次動くものならば、見せしめにそいつを撃つからな!!』
背の低い強盗が続いてそう言った後に、俺はこの出来事が夢の中であることに気付いた。
さすがに俺も“悪夢慣れ”してきていたのかもしれない。
幸い、この銀行の場所は分かっていた。
つい先日、大学の友人の家に遊びに行った際に利用したことがあったからだ。
店内の内装から物の配置まで全く同じ。ここは埼玉県の、とある銀行で間違いないだろう。
あと知りたいのは日にちと時刻だ……俺は強盗の忠告を無視し、移動を開始した。
なぜかは分からないが、俺は銀行の端にあたる、4番窓口の椅子に腰をかけている。
ここからでは中央にある時計が見えない。
そのため、ゆっくりと立ち上がろうとするも……
『おい、貴様!! 何をしている!! 手をあげろ。殺されてぇのか?』
──強盗に見つかってしまった。
背の低い強盗は、俺の隣の窓口のカウンター前に立っていた。だから俺が動いたことに、すぐに気が付いたのだ。
どうしてだろう……夢だと分かっても、こうも恐怖心が生まれてしまうのは。
どこか心の中で「これは本当に夢なのか?」
そんな疑心が拭いきれていないせいなのかもしれない。
万が一、これが現実だとしたら大変なことになる。
しかし、俺は勇気を振り絞った。
いつまでも俺は“あいつら”に頼ってばかりではだめだ。
これは夢……これは悪夢だ……!!
そう何度も自分に言い聞かせ、俺は震える体を動かす。
そして、俺が移動したことにより、ついに店内の時計の針が見える!!
──といったギリギリのところで、俺は再び強盗に見つかってしまった。
『貴様!! 動くなと言っただろ!? 仕方ねぇ……多少の犠牲は付き物だ』
背の低い強盗は、俺のほぼ目の前まで移動し、俺の顔面に銃口を向け……引き金を──引いた。
ーーー
「うわぁぁっっっ!!!」
俺はここで目を覚ます。
布団が湿るほど、全身に汗をかいていた。
とても短い夢だった気がする。僅か、ほんの数分の出来事であったはず。
だが、自らの命が懸かるこの体験が、物凄い長い時間のように感じていた。
「もしかして俺……やっちまったのか?」
目を覚ました俺は、ふと冷静に思う。
銀行の場所を掴めたはいいが、結局時計の針は見えておらず、時間や日にちといったものは何も分からないまま。
俺が余計なことをしたばかりに、強盗に狙われてしまったのだ。
あのままおとなしくしてれば、もしかして夢の続きをもっと見れたんじゃないか……?
ひとつの判断、ひとつの選択が命取りとなる。
結局俺は、いつも同様、“あいつら”に頼るしかなかった。




