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星が墜ちた夜から  作者: Guru
3章 知念青年の些細な事件簿
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第25話 “告白”

「誠人! どういうことだ!? ちゃんと説明しろ!」


 だめだ。こうなった勇次はもう止められない。

 俺が答えるまで、しつこく聞いてくることだろう。


 だがここで、騒ぎたてる勇次の姿に気付いたのか、店の責任者らしき人物が勇次を呼び戻す。


「おーい! 武藤! いつまで喋ってる。いい加減にしろよ!」


「は、はい! すみません! 今戻ります!」


 勇次は謝罪した後、もう一度こちらの方を向いて俺を睨み付ける。


「あとできちんと説明しろよな。誠人」


 勇次の目は完全に血走っていた。バイト中に見せる顔じゃないだろ……


 勇次がいなくなるや否や、俺は芽依に白い目を向ける。

 その視線に気付いた芽依は、慌てて両手を合わせて謝った。一気に酔いも醒めたようだ。


「ごめん、誠人! 私、余計なこと言っちゃったね。つい口が滑っちゃって……」


「ほんとだよ……」


 まぁ悪いと思ってるならよしとするか。

 それにもう言ってしまったことだし、今更どうこう喚いても仕方がない。


「さて、どうしたらいいものか……」


 俺と芽依は悩み、思いにふけていると、隣のテーブル席に新たに座ったサラリーマンが注文を頼んでいた。


「“はっちゃん焼き”ひとつで」


「はい、かしこまりした。はっちゃん焼き入りましたーー!!」


 男性定員の厨房へと叫ぶ大きな声が、店内に響き渡る。

 俺はこの光景にデジャブを感じた。


「はっちゃん焼き……妙に引っ掛かるな」


 俺はすかさず、その謎の“はっちゃん焼き”と呼ばれるメニューを探す。

 すると、通常メニューとは別の厚紙1枚の特別メニューが出てきた。


「これか。なになに……」



 “8”の付く日は、名物はっちゃん焼きがお得!

 通常298円のところ、なんと“88円”!!



「どうしたの? 誠人。今から焼き物食べるの? 私もうデザート頼もうかと思ってたくらいなんだけど……」


 芽依は俺に話しかけていたが、ある事に気付いた俺は必死になっており、今はそれどころではなかった。


 俺は周りのテーブルを見渡す。

 今日は“18日”だ。その“8”の付く日である。

 ほぼすべてのテーブルといっていいほどに、その名物のはっちゃん焼きは頼まれていた。


「──これだ!! 俺が見た景色は!! まさにこれと同じだったんだ!!」


「えっ? どうしたの!? 1人で突然、大きな声出してさ」


 俺は芽依を置き去りに、勝手に1人で自己解決していた。

 俺がこの前見た悪夢は、肝心の“日にち”がいつなのか分からなかったわけだが、この光景により、はっきりとした。


 間違いなくあの夢にあった日は──今日だ。


 夢ではみんな同じメニューを頼んでいた。異様なほどに。

 それもそのはず、今日に限っては超お得メニューだからだ。

 

 ということは……今日、勇次があの子に告白すれば、うまくいくことになる。


 その答えが出たタイミングで、ちょうどいいことに俺の横を勇次が通った。


「勇次!! ちょっといいか? こっちに来てくれ!!」


「あぁっ? 俺は今忙しいんだよ。また怒られるだろ。あとにしろよ」


「いや、メニューについて聞きたいんだけど」


「ったく……それならいいけどよ」


 そう言って、渋々勇次は注文を取るハンディー片手に、こちらへとやって来る。

 勇次が俺の手にする、はっちゃん焼きのメニュー表の存在に気付いた。


「あぁ、“はっちゃん焼き”のことか。今日は安いからな。おまえらも頼むのか?」


 念のため、内情を詳しく知ってるであろう勇次に問いただす。


「これ、何なんだ? やっぱり、18日の今日はよく出るのか?」


「そりゃそうだよ。だから平日の火曜の夜だってのに、今日はお客さんで賑わってんだ。はっちゃん焼きってのは、うちの居酒屋『はっちゃん』にちなんだネーミングで、実際は単なるたこ焼きなんだけどよ。でもこれがうまいん──」


 中々勇次のはっちゃん愛が止まらない。

 耐えられなくなった俺は、話の途中で今日の本当の目的を勇次に告げた。


「勇次!! そんなことより、おまえは今日“あの子”に告白しろ!!」


「はっ? 何言ってんだ……誠人……」


「出てきたんだよ。俺の夢におまえと、今日のこの光景が!! しかも、その告白は成功する!! あの子なんだろ? おまえが一目惚れした相手ってのは!」


 俺はあの可愛らしいショートカットの店員さんを指差した。


「な、なんでその事を……」


「やっぱり。おまえとは付き合いが長い。それくらいは分かるさ」


「でもよ、まだあの子とは知り合ったばかりで、ようやく連絡先を聞いたところで……」


 突然の告白となったことに動揺しているのか、勇次はうだうだと文句を垂れている。


 告白とは──勢いだ!! そうだろう? そうに決まってる。


「関係ないだろ、そんなの。俺だって本当は負けを認めたくないんだ……勝ちを譲るぜ。勇次」


「誠人……」


 ずっとデザートを選びながら黙って聞いていた芽依が、メニュー表からひょっこりと顔を出し、一言告げる。


「頑張って! 勇次! 勇気出して!」


「芽依まで……」


 俺達がそんなやり取りをしていると、完璧なタイミングであの子は、先程のサラリーマン達とは反対側の、隣の席へとやって来た。

 そこにいた客は帰ったばかりのようで、テーブルの上を片付けている。


 すると、勇次と俺達の関係性に気付いたのか、女の子の方から勇次に話しかけてきてくれたのだ。


「あら、勇次さんのお友達だったんですね!」


 条件は──すべて整った!!


 芽依は女の子に軽く会釈をしていたが、俺は女の子に見えない位置で、勇次の体を指でつつく。


 行け……勇次!! 今だ!!


 その合図を察してか、勇次は女の子の前へとそっと移動した。

 そして──


「あの……」


「……はい?」


 女の子は顔をあげ、勇次の顔を見た、その時。

 勇次は“男”を見せた。



「好きです。俺と付き合ってください!!」



 言ったーー!! とうとう言ったーー!!

 バイト中? そんなの関係ねぇ。

 恋は四六時中、営業中だ! この野郎!!


 芽依も興奮していたのか、手に力が入り、メニュー表をぐしゃぐしゃにしていた。


 これで無事、俺と芽依の極秘任務は成功した。






──そう、思われたのだが……



「……無理です。ごめんなさい」


 女の子は断りの言葉と同時に、深々と頭を下げる。


「へっ?」


「私、付き合ってる人がいて……」


「えっ? マジ? 誰!?」


「そ、その……」


 女の子は気まずそうに、勇次の後方に視線を向けた。

 勇次と一緒になって、俺達もその方向を見ると……



 そこには受付時に対応してくれた、細身の男性店員さんの姿が。

 女の子と目があった男性店員は、爽やかな笑顔を見せる。


 それに釣られるようにして、女の子も照れ臭そうに、はにかんで笑った。

 俺はこの女の子の顔に、再びデジャブを覚えた。


「あっ! この笑顔……」


 

 ごめーーん!! 勇次!! 俺が見たのは、この時の笑顔だったーーー!!!



 勇次はあたふたとし、揺るぎのない事実と知りながらも尋ねる。


「もしかして……その付き合ってる彼氏って……」


「は、はい。そうです。他のスタッフには内緒ですよ?」


 そう言って恥ずかしそうにしながら、そそくさと女の子は立ち去っていった。



「さぁ、お会計だ。行こうか。芽依」


「そうね、デザートはまた今度にしましょう」


 俺達は何事もなかったかのようにその場を去ろうするも、やはりそれは無理があったようだ。


「待て……待てよ……おまえら!! ふざけんな!! 誠人!! 芽依!!」


「「ご、ごめんなさーーい」」




 この数日後、勇次は入ったばかりのバイトをすぐに辞めたのは、言うまでもない。


 どうやら俺の夢は、俺のというより──勇次の悪夢だったようだ。


 俺と勇次のどちらが先に彼女ができるか……

 この争いは、まだまだ長く続きそうである。

 これにて、3章は終わりです。次の章からは、またシリアスな話に戻ります。

 おもしろければ、ブクマ、評価の星を入れていただけると作者のモチベがあがります。よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初に比べて、文が長くなっているのがいいですね。 最初の数話は読みやすさ重視、今は伝えたい重視。 こういう技術もあるのですね。 [一言] ツイッターのフォローありがとうございます。
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