第24話 “救世主”
俺は勇次にバイトのシフトを聞いた。
芽依と行ける日にちを合わせ、翌週の火曜の夜に店へ行くことになった。もちろん勇次には内緒で。
俺には芽依達と違って、まだ悪夢の日にちを割り出すことはできない。
とりあえず様子見だ。視察とでも言うべきか。
・・・
──火曜の夜。
勇次のバイト先、居酒屋『はっちゃん』にて。
外で待ち合わせしていた俺と芽依は合流し、一緒に店内へと入った。
「いらっしゃいませー! お客様、何名様でしょうか?」
元気のいい声で、店員さんが俺達を出迎える。ここは運良く、勇次とは別の細身の男性店員さんが対応してくれた。
「2名です」
「かしこまりました。席にご案内しますね」
ばったり入り口で勇次と出くわすものなら、俺達を追い返し兼ねない。まずはよかった。
何事もなく、居酒屋内に潜入する。
俺は歩きながら店内を軽く見渡した。
間違いない。夢の中と同じ景色だ。
平日の火曜の夜だというのに、随分と店内は繁盛し、賑わっているように思える。
席に案内され、椅子に腰かけた俺達は、早速呼び鈴を押す。
「とりあえず、何か適当に頼むか」
メニュー表を見ながら待っていると、間もなくして女性スタッフが注文を取りに来てくれた。
「ご注文ですか?」
やって来たのは、ショートカットの可愛らしい女の店員さん……この子だ!!
この子が勇次の彼女となるはずの相手。
恐らく勇次が一目惚れしたという、女の子だろう。
俺は芽依にアイコンタクトを送った。
芽依はまじまじと女の子を見る。
そんなに見なくても……見定めているのだろうか。
飲み物とつまみを数品頼み、女の子が去ったところで、俺らは感想を言い合う。
「確かに可愛らしい子だったな。勇次が一目惚れしたのも分かる気がする」
「そうね、あの子が勇次の彼女ね……意外だわ」
「いや、そうと決まったわけじゃないから!」
ここに来て俺は必死の抵抗だ。
実際にこの目で見たことにより、余計悔しさが増してしまっている。
「まだそんなこと言ってるの誠人? もういい加減負けを認めなさいよ」
「嫌だね。まだ分からないからな。俺の逆転勝利があるかもしれないだろ! それに人の事言うけど、芽依こそどうなのさ!?」
「私は…………」
芽依は言葉に詰まった。
そういえば芽依の恋愛事情を、面と向かって聞いたことがなかった。
はっきし言って、芽依は美人だ。彼氏がいたって不思議ではない。
しかし、ここ最近……あの悪夢の一件以来、俺らと会ってばかり。
考えてみれば、何週も連続で俺らと週末を共に過ごしている。
散々黙った芽依は、ぼそりと呟いた。
「……いたのよ。彼氏。私にも」
「──えっ?」
「でも別れちゃった。この悪夢の話をしたら、それ以降疎遠になっちゃってね……私のことが気味悪く見えたのかも……」
これはやってしまった……
何となくで聞いただけなのに、芽依を傷つけてしまった……
思い出させてはいけない心の扉を、俺はこじ開けてしまったのだ。
俺は悪夢を恨んだ。
何なんだこいつは……芽依から大切ものを奪っていきやがって……
許さないぞ、俺は。
でも──今は悪夢より、何よりも自分の事が許せなかった。
芽依が寂しそうな、辛い顔をしている……
悪気はなかったとは言え、そんな顔にさせたのは何を隠そう、俺なのだから。
何て声をかけてあげればいいのか、俺には分からなかった。だから、とりあえず素直に頭を下げた。
「その……ごめん」
「いいのよ。いつかは話すことだったし」
嫌な空気が流れる。気まずい雰囲気が漂い続ける。
だが、やはりここで“ヤツ”は現れた。
俺にとってヤツは救世主──いや、まさに神そのものと言えるだろう。
「お待たせしました! お客様──って、えぇーーっ!! おまえら!! 何でここに!?」
──勇次だ。
勇次が料理を運びに、俺達の席へとやってきたのだ。
驚く勇次の姿を見た芽依は笑っていた。
さすが勇次。本当に助かった。おまえはいつでも最高のタイミングで現れてくれる。
「驚いたでしょ? 勇次の働く姿を見たくてね。こっそり遊びに来ちゃった!」
「誠人の仕業だな? やけにしつこく俺のシフトを聞いてきてたのはこのせいか!」
「わりぃな。事前に言ったら断られると思ってよ」
「当たり前だろ! 恥ずかしいったらありゃしねぇよ!」
すっかり店員であることを勇次は忘れ、大声をあげている。
その弱味に付け込み、芽依は強気に出た。
「おやおや。今日は私達、お客様ですよ? お客様にそんな態度でいいのかなー?」
「くそっ! だから嫌だったんだよ!」
捨て台詞を吐いて、勇次は踵を返す。厨房へと消えていった。
「あぁーおもしろかった。あの勇次の慌てっぷり!」
「だな! 最高だった。ドッキリ大成功だ」
良かった。いつもの元気な芽依の姿だ。
マジで今度飯奢るからな勇次。恩に着る。
・・・
それから1時間半が過ぎた。
視察と言いつつ、俺と芽依は普通に飯を食っている状況だ。これといってすることもない。
お客さんもだいぶ少なくなってきている。
ご飯時も過ぎ、ピークは去ったのだろう。
少し暇になって余裕ができたのか、勇次は仕事中にも関わらず、俺達のテーブルへとやってきた。
「どうだ? 楽しんでるか? 2人だけの飲み会はよ」
「──勇次。大丈夫なのか? 仕事中に」
「まぁな。今は人も少なくなったし、平気だよ」
「なぁに? もしかして、嫉妬してるの私達に!?」
芽依が勇次を茶化す。顔も赤く、少し酔っているのかもしれない。
「そりゃそうだろ。俺抜きで楽しみやがってよ。俺も仲間に入れろよ!」
意外にも素直に認めた勇次に、芽依は驚いた様子だった。
向こうは俺達と違ってシラフだ。テンションが違うのも当然のことかもしれない。
そして、まさかのこの場面で、芽依は口を滑らす。
それは勇次には『言わない』って約束だったのに……やはり酔っていたのだろう。芽依は判断を誤った。
「いいじゃない! それくらい別に! 勇次にはこれから彼女ができるんだから! 楽しいこといっぱい待ってるでしょ!」
「彼女……? 何の話だ?」
「め、芽依!!」
勇次が俺の方を見る。
その反応速度は、間違いなく光の速さを越えていた。
「どういうことだ!? 説明しろ! 誠人!!」
やっべ~……どうしよう。これ……




