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星が墜ちた夜から  作者: Guru
3章 知念青年の些細な事件簿
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第23話 “愛想笑い”

 昨夜俺は悪夢を見た。

 そう、これは間違いなく悪夢なんだ。

 

 勇次に彼女ができるなんて……どうか、予知夢よ外れてくれ!


 とにかく悪夢のこととなれば、話せるのは勇次か芽依しかいない。

 勇次本人に話す前に、一度芽依に相談したいな。これは。

 俺は芽依個人にメッセージを送ることにした。


『悪夢についての悩みがあるんだけど、聞いてくれないか? 芽依の都合のいい日にでも会おう。飲み代は全部俺が奢るから』


 数時間後、芽依から返信があった。

 基本いつも、グループメッセージを介して芽依とは連絡を取り合っている。

 俺個人からメッセージが来るなんて、疑問に思ったことだろう。


『何で私にだけ? 勇次は誘わなくていいの? 悪夢の話なら、勇次もいた方がいいと思うんだけど……』



 ダメだダメだダメだ!!! 本人の勇次を呼んでどうする!!

 ここは芽依には、『勇次には内緒で』ってことを、釘を刺しておかねば!!



 その事を俺はしっかりと芽依に告げ、今週土曜の夜に俺達は会うことになった。




・・・




──土曜の夜。

 都内の安めの居酒屋にて。



「それで? 何? 悩みって。わざわざ勇次には内緒でって話だけど」


 乾杯の飲み物が届くや否や、芽依は本題を急いだ。早速ではあるが、すぐに俺も悩みを打ち明ける。


「それがさ……勇次に彼女ができるみたいなんだ……」


「──はっ? それだけ? そのためだけに呼んだの!?」


 俺の悩みを聞いた芽依は、明らかに怒っていた。

 『その程度で悩みって……』

 そう言いたそうな顔をしていた。


 しかし、それ以上に俺は、悲しげな表情を見せていたんだと思う。

 悲痛、嘆き……あらゆる悲しみの表情が、顔全面に出ていたのかもしれない。



「……わ、分かったからその顔やめてくれる?」


 突如として始まった、怒りと悲しみのにらめっこは、俺に軍配があがった。


「伝わったか? 俺の悲しい気持ちが……」


「えぇ、十分過ぎるほどにね。だから今日は事前に奢るとか言ってたのね……何か嫌な予感がしてたのよ」


 そこで読み切れないのがいけなかったな。芽依。今日はとことん付き合ってもらうぜ。


 俺は夢の内容を芽依に伝えることにした。


「場所は居酒屋かなんかかな……多分、勇次の新しく始めたバイト先なんだと思う」


「あぁ、勇次引っ越したんだっけ? 誠人の家の近くに」


「そうそう。勇次は居酒屋のバイトって言ってたから、ほぼ間違いない。それに勇次は店員になってたし」


「じゃあもう決まりじゃない。それで、そのあとは?」


「そしたら客として来ていた俺の席の前で、勇次は突然、ショートカットの女の店員に告白するんだよ!」


「なにその現実離れした展開……仕事中でしょ!?」


 そう言った後に、芽依は自分の言葉をすぐに訂正する。


「いや、勇次ならそれもありえるか……」


「そう! そうなんだよ!」


 やはり芽依も、同じことを思ったか。

 普通に考えれば、ありえない話だが、これが勇次だと……どうも否定できない。


 俺はテーブルに顔を(うず)めるようにして、思い出したくもない悪夢の続きを語った。


「そして……その告白を受けた女の子は、恥ずかしそうにニコッと笑うんだ……カップル成立。俺は絶叫と共に、悪夢から覚めた……」


「はぁ、そうですか……」


 芽依は溜め息をついた後、俺に疑問をぶつける。


「てかさ、これって悪夢なわけ?」


「やっぱり……違うかな? 俺にとっては、悪夢みたいなもんなんだけど……」


「う~ん……判断しづらいけど、確かに私も稀にあるのよね。悪夢以外が予知夢になるやつが」


「マジか!!」


 衝撃の事実だ。

 芽依いわく、俺らの予知夢は何も悪夢だけではないらしい。

 大概は悪夢みたいだが、ごく稀にそれ以外が存在するようなんだ。


 しかし、しかしだ!

 そうなると、ますます俺の昨夜の夢が、現実味を帯びてきたということになってしまう。


 俺が顎に手を当て考え事をしていると、芽依はきつく俺を叱りつける。


「思うんだけどさ、この際、悪夢かどうかなんてどっちでもいいじゃない。あなた勇次の友達でしょ? 親友でしょ? だったら素直に彼女ができることを喜ぶべきなんじゃないの? 競ってるのか何なのか知らないけどさ……」


 今の芽依の言葉は、ぐさりと俺の心に突き刺さった。


 俺は──我に返った。


 確かにそうだ。俺は何をしていたんだ……

 ここは親友である勇次を祝福してあげるべきなんだ! 悔しいけど。


 勇次の喜びは、俺の喜びでもあるはず。

『おめでとう』と声をかけてあげるべきなんだ! 悔しいけど。



 まだ完璧に受け入れることはできなかったが、ここで俺に名案が浮かぶ。


「そうかもな。芽依の言う通りだ! だったら、逆にこういうのはどうだろう? 俺の悪夢を、俺が正夢に──現実のものにさせてあげるんだ!」


「……どういうこと?」


「だから、俺があえて夢と同じシチュエーションを作ってあげるんだよ! 俺が勇次の店に客として行き、同じ場面を演出する!」


「なるほど! それは名案ね!」


「よし、そうと決まれば早速勇次にバイトのシフトを聞こう!」


 俺はスマホを取りだし、勇次にメッセージを打った。

 すると、芽依は小さな声のトーンで、俺に尋ねる。


「ねぇ、その場に私って居てもいいのかな? そういう話なら、ぜひ私もその場に居合わせたいんだけど……」


 俺は今メッセージを打ってる最中で、あまり芽依の質問をしっかり聞くことができていなかった。適当に言葉を返す。


「う~ん……夢の中だと、確か俺は1人で店にいたんだよな。だから俺1人の方が確率はあがるんじゃ──」


 まだ話してる途中にも関わらず、芽依は俺の話を遮り、もう一度同じことを尋ねた。


「ねぇ……誠人……私もいたら変なのかな? 大丈夫よね? 私がその場にいても。ねぇ?」


 様子がおかしいと思った俺はスマホから目を離し、芽依の顔を見る。


「──!!」


 か、完全に芽依の目が据わってやがる……

 行きたいんだ。どうしても。見たいんだ芽依も。勇次の告白の瞬間を……


 忘れてた……芽依の趣味のひとつである“ドラマ鑑賞”を。しかも好きなジャンルは“恋愛”。こんなもってこいの話はない。



「い、いいと思うよ! 芽依も一緒に行こうか! ははっ!」


 俺は教科書に載せてもいいほどの、完璧な愛想笑いをした。

 週末の賑わう居酒屋の中で、なぜかこの時だけは静かに感じていた。

 

 『ははっ!』、『ははっ!』……

 俺の愛想笑いが、店内全体に何度も響き渡る……


 そんな気がしたのは、俺だけでしょうか?

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