第15話 “夢の意味”
※この物語はフィクションです。実在する人名や建物名は架空であり、実在のものとは関係ありません。
芽依は溜め息混じりに呟いた。
「問題は場所になるわね……」
俺達3人は悪夢の共有をし、おおよその流れは掴めた。
しかし、大事なのは肝心の場所である。場所がどこかが分からないのだ。
「それがそうでもないんだよな!」
何やら勇次は口元を緩ませている。これは何か知っているに違いない。
「もしかして勇次、場所が分かるのか!?」
「あぁ、俺の悪夢は1階ロビーだったからな。しっかりと、マンションの名前まで見ておいたぜ!」
「本当に!? やるじゃない!」
照れ臭かったのか、勇次は右手で鼻の下を擦った。
「当たり前だろ! マンション名は『スカイレジデンス』。ネットで調べたらいくつか引っかかった。手当たり次第見ていったが、恐らくこれだろう」
そう言って、勇次はスマホを差し出す。
これは物件サイトに載せる写真だろうか。マンションの外装が映し出されている。
「う~ん……こんな感じだったかしら……自信ないわね。どう? 誠人は」
「こんな綺麗だったかな? もっと古くさい建物だったと思うけど」
こういった類いの写真は、少しでもよく見せるために、修正をかけて綺麗にしてたりするものだ。
そのせいか? 違和感を覚えてしまうのは。
そもそもの問題として、俺はマンションの外装を見ておらず、この写真だけでは判別がつかない。
屋上にいた芽依も、きっとそこは同じだろう。
俺が写真を眺め、頭を悩ませていると、勇次がスマホを取り上げた。
「俺もこれだけじゃ自信なくてな。実は昨日、このマンションに行ってきたんだ。場所は千葉だから、俺の家からはそう遠くはない」
今度は勇次自ら撮った写真を何枚か見せていく。
正面玄関の外装、1階ロビー、そして──駐車場が見えるV字の廊下。
「あっ! この景色! 間違いないよ!! ここだ。このマンションだ!!」
写真と俺の中にある記憶が完全に一致した。
構造から年期の入った汚れまで、すべてが同じだ。
「私の見た廊下も、こんな感じだったと思う」
どうやら芽依の記憶とも合致しているようだ。
勇次はほっとした様子で、胸に手を当てる。
「だよな! 合ってるよな! わざわざ行ったかいがあったぜ!」
やるじゃないか、勇次。
『先輩』だなんて言って、小馬鹿にしていたけど、本当に頼りになるじゃないか。
完璧にその場所まで見つけてきて、写真まで撮ってくるなんて。
俺は大層興奮していたが、芽依は意外にも冷静だった。
「お手柄と言いたいとこだけど、それにしても、よく中に入れたわね。まさか忍び込んだんじゃないわよね?」
散々得意気に語っていた勇次が、少し焦りを見せる。
「そ、そこまではしてねぇよ! 古いマンションだったんだ。オートロックとかもないし、誰でも中に勝手に入れた。それを不法侵入と言われると困るが……細かいことは大目に見てくれよ」
「……そうね。人の命が懸かってるわけだし、よしとしましょう」
勇次はたじたじだ。
手柄は勇次にあるはずなのに、主導権は芽依に握られている気がする。
「さて、どうやって救うべきか。作戦を立てよう」
勇次が一旦、場を仕切り直す。
このタイミングだと俺は思い、それぞれ見た夢の違いについて触れた。
「俺達の夢は、各々が見ている場所が違う。もしかして俺らはそれぞれの場所で、女性を助けられる“チャンス”があるってことなのかな?」
あまり同意は得られなかったのか、芽依は聞き返す。
「チャンスね……そもそも、何でそう誠人は思えたの?」
俺には思うことがずっとあったのだ。
心の中にあったその思いを、ここで明かす。
「まだ2人よりは悪夢の経験が浅い俺だけど、もしかしたらこの悪夢には──意味があるんじゃないかと思ってさ」
「意味?」
「あぁ。悪夢のほとんどが、誰かが危険に晒される夢だ。だからその危険を、俺達が何とかして救えってことなんじゃないのか?」
ふたりは黙り、しばしの沈黙が流れた。
勇次も芽依も、深く何かを考え込んでいる。
数秒後、勇次が重い口を開く。
「そんな気持ち、いつしか消えていたよ。夢の意味なんて、考えもしなかった」
芽依も静かな口調で、勇次に続いた。
「そうね。私達、すっかりこの悪夢に慣れすぎていたのかもしれない。それを今、誠人が思い出させてくれた」
俺と違って、勇次と芽依はこの予知能力に目覚めたのは、随分前の話だ。
だからきっと、俺のように疑問を感じることもなくなってしまったのだろう。
これは悪夢との戦いだ。
俺達は、その悪夢を現実にさせないようにしなければならない。
俺達は──必ず悪夢に打ち勝たなければならないんだ。