第11話 “前へ”
信じられないことが起きた。
俺だけじゃなく、勇次も芽依も──ここにいる全員が悪夢と言う名の予知夢を見ていた!?
俺のテンションは上がりっぱなしだった。
「勇次! これだよ! 俺が言ってた悩みって!」
「悩み……?」
やっぱり……こいつ、完全に忘れてやがるな。
「元々は俺の悩みを聞いてもらう会だったじゃねぇか! まさに俺の悩みが、この悪夢だったんだよ!」
「おぉ、マジか!!」
ようやく勇次も思い出したのか、勇次の瞳孔が開く。
今日はこの話は止めておこうと思っていたけど……
同様の悩みをもった芽依が、俺の代わりに打ち明けてくれた。
「ねぇ、誠人はその悪夢、いつから見るようになったの?」
「俺はつい最近だ。この1週間くらいの話だよ」
「そう……私なんて2、3ヶ月前からよ。困っちゃうわ……」
「そんなに前から!?」
俺が芽依の発言に驚いていると、勇次が突然、左手を前に差し出し、手のひらを広げた。
もう片方の手にはビールジョッキを持ち、何か言いたそうな顔をしている。
「ふっふっふ。驚くのは早いぜ? 誠人。どうやら俺の勝ちのようだからな。俺なんて半年以上も前からだぜ!」
なぜか自慢げに語り、したり顔を決める勇次。
「競ってどうする……」
「違うの!?」
「違うだろ! でもそんな前からなら、何で俺に一言言ってくれなかったんだよ!」
唯一このメンバーでは、俺と勇次は連絡をこまめに取り合っていた。
水くさい。話してくれてもよかったのに。
ずっとおちゃらけていた勇次の声のトーンが下がる。
「それはよ……言えなかったんだよ。おかしなやつと思われるのが怖くてな……」
「勇次……」
そうか。“それ”もみんな同じか。
みんな同じ悩み、同じ恐怖を抱えていたんだ。
それぞれ悪夢が始まったタイミングこそは違えど、俺達3人は──同じだったんだ。
とてもじゃないが、これが偶然とは思えない。
芽依はこの悪夢を、“あの事”と結びつけ始める。
「あの“流れ星”から10年は過ぎた……正確に言えば、11年くらいかしら? その事と何か関係があるのかな?」
そんな芽依の見立てに対し、普通ならば
『まさか!』、『そんなわけないだろ!』
そういった類いの言葉が飛んでもおかしくない。だか、俺と勇次は否定しなかった。
むしろ、何か超常現象なことでもない方がおかしいとすら思えていた。
俺達は間違いなく予知夢を見ている。
決してこれは、勘違いなんかじゃない。
「10年の時を皮切りに、各々が力に目覚めたってか? 無くはない話だ。そうかもしれねぇな」
勇次はそう言い切った。俺も同調する。
「あの不思議な出来事が起きた時に、一緒にいた俺達が、超能力のような力を身に付けている……か」
俺ら3人は、勝手にそう結論づけた。
きっとそうだ。そうに決まっている!!──と。
正直、理由なんて何でもよかった。
全身に鳥肌がたつほど気持ち悪い事柄に、それなりの理由をつけたかっただけなんだと思う。
『もうそういうことにしよう』
俺を含めた3人とも、そう思っていたに違いない。
きっかけ探しなんか必要ない。“後ろ”を見てても仕方がないのだから。
俺達は、これからも起こり続けるであろう悪夢と、ちゃんと向き会わなければならないんだ。
だから──“前”を見るべきなんだ。
同じ悩みと同じ力を持つ俺達には、やるべきことがある。
「ねぇ、メッセージの3人グループを作って、私達、悪夢の共有をしない?」
「それいいね! じゃあ俺が、そのグループを作るよ!」
芽依、ナイスアイデアだ。俺は早速スマホを手に取った。
「何かあったら、先輩の俺に頼るといいだろう!」
まーた勇次が何か言ってらぁ。
でも、実はちょっとそこは期待している。
俺はこの力に、まだまだ目覚めたばかりのぺーぺーだ。
何かあったら、頼みますぜ。先輩ども!
この日は、これにて解散。
こうして、俺達は自分達の悪夢、予知夢を共有することとなった。
※ここで1章は終了です。次回から本格的に事件が発生していきます。
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