第9話 “思い出”
俺は久しぶりに心の底から笑っていた。
ここのところ、ずっと悪夢に悩まされ続けている。
ある意味、これだけでも悩みは解消されるかもしれない。
昔の友人と会って、一緒に酒を飲む。
これは何よりの一番の薬だ。
3人の昔話は盛り上がりを見せるが──ここで“芽依”の話をしておこう。
よく小学生の時に集まっていたメンバーでの紅一点。唯一の女性である。
“吉川 芽依” 20歳
神奈川県在住で、都内の大学に通っている。
身長160センチ。髪はロングで、ほんのり明るい色。
そこまで派手に茶色く染めてもないし、かといって真っ黒でもない。いい塩梅である。
スタイルは……細いとだけ言っておこうか。あとは想像に任せる。
趣味はピアノにドラマ鑑賞。やはり恋愛ものが好きらしい。
頭もよく、誰にも気さくで……
──って、なんだこりゃ。パーフェクトヒューマンか? 欠点を探したい。
・・・
楽しい飲み会は、早くも1時間が過ぎていた。
3人が昔話に花を咲かせていると、やはりあの話が出る。
このメンバーが集まると、これは決まって出てくる話題だ。
ちょうど酔いも回り、3人ともいい気分。この話になるのも、時間の問題であっただろう。
勇次が口火を切った。
「やっぱ俺達の思い出と言えば、あれだよな! あの──“流れ星”の話」
「出た……またその話?」
芽依は少し呆れ気味で、半笑い状態だ。
「いいじゃねぇか! 俺達の小学校の頃の大切な思い出だ! なぁ、誠人。おまえだって、未だに覚えてるだろ?」
「あぁ、もちろんだ。あんな奇妙な出来事、忘れるわけないよ」
俺達は小学校の時。不思議な体験をした。
確かその日は、みんなで遊園地に行ったんだ。
そして、その帰り。
俺達は、それは大きな大きな──流れ星を見た。
大人になって思い返してみても、あれほど大きな流れ星を見た記憶はない。生涯一のでかさだ。
俺達はそれぞれ願い事をする。
流れ星が落ちるまでに、3回願い事を唱えると、その願いは叶う──よくある定説だ。
皆一斉に目を瞑り、各々が心の中で願い事を唱えていると……
突然、まばゆい光に包まれた。
眩しい……暖かい……
そんな印象を受けたのは覚えている。
だが、次の瞬間。
俺の記憶は消えた。
消えたというよりは、眠りについたという方が正しいか。
目を覚ますと、なぜか俺は家のベッドの上にいたのだ。
これは夢の出来事なのか……?
俺は自分の記憶を疑った。
みんなと遊園地に遊びに行って、その帰りに流れ星を見ていたはずなのに……
どうして気が付いたら、家で寝ているのか……
きっとリアルな夢だったのだろう。
その時はそう解釈したが、翌日。
学校でみんなに、この話をすると……
一緒に遊園地に行った全員が、全く同じ話、同じ体験をしていたのだ。
やっぱりこれは、夢なんかではない? 現実にあった出来事なんだ!!
そう心踊らせ、帰宅して真っ先に母親に、この話をする。しかし……
『何言ってるの。遊園地なんか行ってないでしょ。あなた昨日は家に居たもの』
『──えっ……そんなはずは……じゃあ、でっかい流れ星は?』
『さぁ……それも知らないわねぇ……もしそんな大きな流れ星があったのなら、ニュースになってそうだけど……テレビも新聞にも、そんな記事なかったわよ』
『だったら、なんだったんだろう……昨日のあの記憶は……』
『夢でも見てたんでしょ? 素敵な夢が見れて、よかったじゃない』
それはただの夢……
すべてはそう片付けられてしまった。
しかも、これも自分だけの話ではない。
他のみんなも同じだった。
誰も遊園地に行ったと答える親はおらず、学校の誰に聞いても、そんな流れ星なんかなかったと答える……
これは俺達しか知らない記憶。
俺達だけが信じる記憶。
これは──誰にも言えない、俺達だけの大切な思い出となった。