4話 龍の珠
「何だこれ?こんなの書いてあったか?」
大人と子供の目線は違うもので、秘密基地としてこの場所の全てを知っている気になっていた俺にとってもこの文字は初めて見るものだった。
例え気づいていたとしても、小学生だったあの頃の自分には読めなかっただろうし、意味も理解できなかったと思う。
スマートフォンのライトを当ててみると黒い石壁に金色の文字で書かれていることがわかる。
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次元ノ扉開ク刻
龍神ノ導キニ依
古ノ伝承ノ地へト誘ワレン
汝其レヲ望ムカ否カ
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「ん〜、龍神様には何か時空間的な力があるってことか。古の伝承の地って何処だぁ?」
他に何か書かれていないか周りの壁も探すが祠の真裏の此の部分だけのようだ。
あと調べていないのは、祠の中のみ。
祠というのは神の庫で神庫、宝の倉で宝倉が語源のようだし、何か入っている可能性はある。
だが、神罰が下るなんてことはないのだろうか…
そういえば父親に叱られた時も…
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洞窟の中で遊んでいた俺を引き摺り出す。
「彼処には入るなと何度も言ってるだろう。罰が当たって神隠しにあうんだぞ。みんなに会えなくなってもいいのか?」
力任せに連れ出した割に、蹲み込み目線を合わせて優しくそれでいて強く訴えかける父。
「龍神様はそんなことしないもん!」
「そんなことはわからないぞ?龍神様が出てきて喰われちまうかも知れないぞ?」
二度と勝手に入らないよう怖がらせようとするが…
「そうなったら逃げるから大丈夫だもん!」
「聞き分けのないことを!とにかく、此処はこの神社の神聖な場所なんだ。子供が入って遊ぶような所じゃないんだ。」
「いやだ!ここは秘密基地なんだもん!」
ーーーゴン!
最後には鉄槌が下った。
「いたいよ〜」
「お前が言うことを聞かないからだ!お父さんも怒ってるけど、きっと龍神様も怒ってるぞ!!」
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叱られた際の拳骨を思い出し、頭を撫でる。
それは偶然にも先程、天井にぶつけた箇所だった。
「あれってもしかして親父の拳骨?30歳にもなってまたこんな所に入ったから…ハハ」
苦笑いをし、覚悟を決める。
祠は南京錠で施錠されている。
しかし、俺にはひとつ思い当たる物がある。
「確かこの中にーーーーあった!」
昔この場所で拾った鍵だ。
クッキーの入っていた金属製の宝箱に仕舞ってあったのだ。
少し緊張しながら鍵を差し込む。
錆びているのか入り辛いが押し込むと入った。
後は回すだけ。
もし、あの頃から南京錠が変わっていなければーーー
ーーーガチャ!
鍵があいた。
意外と呆気なくあいてしまった…
これ以上は止めておくかという考えが頭を掠めたが、折角鍵をあけたのだ。壁のあの文字の事も気になる。
そして何より、酔っ払っていた…。
夕方から和輝、瑠美同級生夫婦と5時間も居酒屋で過ごした後、1時間以上神社の境内で独り飲んでいたのだから当然の結果だろう。
ゆっくりと腕を伸ばし、観音開きの小さな扉を開く。
其処には緋色でまん丸の水晶の様な物が、小さな座布団の上に載せられ置かれていた。
「龍の珠…?」
緋い珠の手前左右に蝋燭立ての様な部分がある。
宝箱から子供の頃ここで使っていた蝋燭と、昔父親からくすねたライターを取り出して火を灯す。
すると蝋燭の火が緋い珠の中を通り奥側から出て、そのまま祠の後ろから出て壁に文字を浮かべ始めた。
漢字の様にも見えるが、アラビア語の様でもある特殊な文字が何らかの図形を描くように壁一面に拡がってゆき、天井・背後・足下全てそれらに包まれてしまった。
「え……?」
言葉にならなかった。
驚きを超えて上も下も周りをキョロキョロと見渡す。
「どうなってるんだ?」
ーーーゴクリ。
自分が引き起こしたにも関わらず原理が全くわからない。蝋燭の火の光が緋い珠の後ろから一本の光になって出てきたことはなんとなく理解できるとしよう。
恐らく光の屈折だ。しかしーーー
「文字に円形の図形って…これじゃまるでーーー」
魔法陣だった。
本日は二度投稿できました。
お読みいただきありがとうございます。
やっと異世界が見えて来ましたね。
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