2話 青春
第1話に引き続き、和輝・瑠美とのお話です。
早く転移した後を書きたい気持ちもありますが、もう少し地元に帰ってきた龍司を描きたいと思っております。
「だぁ〜からぁさぁ〜!!龍司も瑠美のこと好きだったんだろ〜?はっきり言っとけって!」
「もう酔い過ぎだバカズキ。瑠美、そろそろこいつ連れて帰れ。」
和輝の前に置かれた焼酎のグラスを水のグラスにすり替えながら瑠美に言う。これで3度目だ。
「流石に最近ここまで酔ったりしなかったんだけどね〜。ほら、和輝!帰るよ〜」
小さな港町の居酒屋なのでこんなことは日常茶飯事なのだろう。店員さん達は気にした素振りは見せないが、飲み始めてもうかれこれ5時間になる。
東京ではハシゴする事はあっても、5時間も同じ店で飲んでいるなんて考えられなかった。次々お客さんが入ってくるし、殆どの店が2時間制だ。
「ちゃ〜んとこいつが言うまで帰らね〜」
「だからさっき言っただろ。そんなことないって。」
「嘘だ。」
すり替えられた水を一気にあおり和輝が俺を睨みつける。
「何回繰り返すんだよ。好きだったって言うまでやるのか?」
「ごめんね。龍司。帰ってきて早々こんななっちゃって。」
「いや、いいよ。でも、なんでこんなに疑うの?何か知ってる?」
「え?いや…その、なんて言うか…あの……」
「何?」
「高3の時のさ…アレよ。ね!」
「ん?高3?なんかあったか?」
「え〜!?覚えてないの?最低〜!」
瑠美が急に怒り始めたが全く身に覚えがない。
だが確かに思春期の健全な男子だ。好きな気持ちが全然なかったと言えば嘘になるだろう。
しかし告白した記憶もなければーーーあっ
「は〜?意味わかんね〜よ。」
「あ〜!思い出したね。」
「な!」
二人が俺の顔を見てニヤニヤする。
「なんだよ。」
「顔に出やすいの変わんないね〜。」
俺が思い出したことで機嫌が治ったのか瑠美がケラケラと笑う。
「いや、あれは…」
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高校最後の夏。俺は瑠美と二人で神社に来ていた。
御神籤を引いて大吉が出たら何でも言うことを聞くっていう条件で瑠美が大吉を引いた。
なんとも罰当たりな賭けだ。
それで瑠美が言った内容は、俺が大吉だったら何を言うつもりだったかを言えと言うものだった。
予想の斜め上を行く指示に思考が固まり、なんとか導き出したのがーーー
「膝枕して」だった…
その後、理由を根掘り葉掘り聞かれ何となく好きだったとかなんとか言ったような言わなかったような…
でも付き合ったりはしていないわけで。
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「ほらなぁ〜!好きだったんじゃね〜か。」
和輝が得意げに言うが…何がしたかったんだ?
そして、もう瞼が完全に閉じている。
「で、ご褒美に膝枕してあげたんだもんねぇ〜?」
いや、瑠美も何処をどう話してた…?
「まぁ、青春のワンシーンみたいなもんだろ。」
「忘れてた癖に」
「いや、ずっと覚えてて18歳のあの時の太もも柔らかかったなぁ〜とか言ってる方がよっぽどだろ!!」
「それキモいよ?龍司。」
「わかってるよ!」
「嫌じゃなかったんだよ?」
「え?」
「でも残念でしたぁ〜。もうあたしは和輝の妻ですから!」
指輪を見せつけるように左手をパーにして突き出す。
「わかってるよ!全くお前ら夫婦は。てか、その亭主が泥酔してるぞ。」
「え!?いつの間に?」
「問い詰めて満足したんだろうな。何がしたかったのか。」
「ん〜龍司の為だと思うよ?」
「え?」
「和輝気にしてたもん。俺でいいのかって。付き合う時に散々言われてさ。良いから付き合うって言ってんのに。」
「そっか。いい奴だよなホント。筋肉バカで、猪突猛進なのに繊細っていうか。思いやりが深いよな。」
「相思相愛だね〜。不倫だぞ?」
「そういうとこお似合いだよ。お前ら。」
ーーーケラケラと笑う瑠美。
二人が親友でよかった。俺にはこんなに素敵な帰ってくる場所があったんだ。そう思えた。
起きる気配のない和輝を背負い車に乗せる。
二人は店で呼んでもらった代行に任せて歩いて帰ることにする。
街灯の少ない田舎の道は真っ暗だ。
それでも、月が充分照らしてくれる。
歩きかけてふと思い付く。
「コンビニで酒でも買って、神社で夜桜と洒落込みますか。」
お読みいただきありがとうございます。
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