1話 帰省
初めて連載小説を書きます。
子供の頃からのアイデアを元に、好きな世界観だったりで描いていく予定です。
楽しんでいただける作品を作りたいので、誤字などございましたらご連絡いただけるとありがたいです。
バスに揺られてあの日とは逆の景色をボーっと眺める。
上京して12年。
それ程の時が流れたにも関わらず何も変わらない田舎町。
夢に焦がれて、若気の至りで、若しくは映画かアニメの影響だったのかギター1本持って東京へと旅立った18歳は、大学を出て就職し、それなりに働いて気づけば30歳になっていた。
夢こそ叶わなかったが運は良い方で、縁もゆかりもない大都会でちゃんと食っていけたのだから後悔はない。
緩やかな坂を登りきり実家まで徒歩20分の最寄りのバス停に着いた。バスを降りると海からの潮風が髪を撫で、俺の帰りを迎えてくれたようだ。
道路に沿って少し重い足取りで実家へと向かう。
10分程歩いたところで山崩れ防止の石積みの壁が途切れ、階段が現れた。
「懐かしいな。挨拶して行くか。」
石を積んだだけの不揃いな階段を登っていく。
「きっつ…こんなにきつかったか?」
独り言を言ってしまうのは長かった独り暮らしのせいだろう。
20段程登った所で弱音を吐いたが、なんとか登りきり鳥居の前に辿り着く。子供の頃よく遊んだ想い出の神社だ。
快晴の空に満開の桜が映えてこじんまりとした神社ながらも風格を感じる。
鳥居の下でお辞儀をし、手を清めようとしたところ先客の鴉が水浴び中だった…。
「おい…」
気を取り直して神前へと向かう。
この神社は龍を祀っているそうで、黄金色の龍の絵が飾ってある。
二拝二拍手そしてーーーーー
「ただいま。ーーー夢は叶わなかったけどさ、色々ついてたし、やっぱ龍神様のおかげかな?これからまたこっちに住むことにしたからよろしくお願いします。」
帰ってきた。そう実感した。
しっかり頭を下げて背を向けまた歩き出す。
すると突然強い風が吹いた。眼下に広がる港町からの潮風ではなく、後ろから。
煽られた桜が花弁を散らして海へと飛んでゆく。
「おかえりってことかな?」
振り返って戯けてみるが、30歳。
恥ずかしくなり黙って階段を降り、家路を急ぐことにする。
実家に着くと玄関先に男女2人が待っていた。
「おせーよ龍司。バスとっくに着いてただろ?どこ行ってたんだよ。」
どうやらかなり待ったらしく筋肉隆々短髪の男が開口一番文句を言う。
「そうだよ。仕事休んで来たんだからさぁ〜」
顎下までのショートヘアの女も玄関先のベンチに座りむくれている。
「悪い悪い。神社寄ってたんだよ。帰ってきたんだから挨拶しとかないとさ。」
「やっぱ当たった〜今日は和輝の奢りね〜」
「なんだよ!賭けてたのかよ。しょうがないなお前ら。ご馳走さまです。」
「瑠美はいいとしてなんで龍司にまで奢らなきゃいけねぇんだよっ」
「何奢って貰おっか〜。龍司なに食べたい?」
「そうだな〜。やっぱ魚かな。あっちじゃうまい魚全然ないんだよね。」
「わぁ〜でた東京かぶれだ!笑」
ケラケラと笑う瑠美。
「お前ら俺の話聞けって!!!」
和輝が必死に訴えるが、無視して家の鍵を開ける。
「じゃあ、荷物置いてすぐ出るから待ってて。」
俺はガラガラと横開きのドアを開けて入っていく。
「わかったぁ〜車エンジンかけて待ってるね。和輝!くるま〜。」
「俺は瑠美の召使いじゃーーー」
和輝が言いかけたところで荷物を置いて出てきた俺が声をかける。
「しょうがないだろ?俺たちの姫と結婚したんだからよ。お熱いねぇ〜」
「おい、龍司!もう30だぞ?姫って歳か?笑」
弄られて咄嗟に口走った和輝が慌てて隣を見る。
「それ、どういう意味?」
怒った瑠美が和輝に詰め寄る。
しかし、身長180cm程ある和輝と150cm程しかない留美。
いやぁ、いい絵だ。
お似合いの夫婦だと思う。
「夫婦漫才やってないで行くぞ〜」
「お前のせいだからな〜!」
文句を言いながら急いで車へと逃げる和輝。
せめてもの償いに俺は助手席へと向かった。
「早く行こうぜ。長旅で腹減ってんだよ。」
緩やかな下り坂を軽自動車で走り出した。
異世界に転移せず1話目終了となりますが、バックグラウンドからしっかり書いていきたいと思いますので、お付き合いいただけると幸いです。