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童話(対象年齢:小学校中学年~大人まで)

雨の精としずく

作者: Kobito

 雨が降り続きます。

 雨の精は、今日は南天なんてんの葉っぱに座っています。

 白装束しろしょうぞくに、水色の薄絹うすぎぬ烏帽子えぼしをかぶった、小指の先くらいの可愛らしい子供で、手にはユリノキの種で作ったしゃくを持っています。

 南天の枝先に、たくさんの赤い実が実って、そのひとつひとつに、水晶玉のような雨のしずくがぶら下がっています。

 しずくの中には、向かいの通りの家並みや、庭のすみの柿並木が、すっかり逆さまになって映っています。

「あの家には、逆さまに人が住んでいて、さかさまにご飯を食べて、逆さまの夢を見ているにちがいない。」

 雨の精はそうひとり言を言って、しだいに大きくなったしずくが、南天の実から離れて根方ねかたの水たまりに落ちるのを見送りました。

「水たまりの家は、しずくの家と形が同じだけども、ずいぶん大きい。そして、やっぱり逆さまだ。だから、しずくの家の人は、手ぜまになったしずくの家ごと、水たまりの家に引っ越したのだ。」

 そう言っているうちに、南天の実からは、また一しずく、雨粒がこぼれて、水たまりに落ちました。

 雨の精は、南天の実にぶら下がったしずく、一つ一つに映った小さな家を見て、

「何軒引っ越しても大丈夫。水たまりの家では、一部屋が一つの国くらい大きいもの。」

と言いましたが、ちょっと小首をかしげると、

「もし、水たまりの家が、空き家じゃなかったら困るな。そういう時は、しずくの家の人たちは、『ちょっと屋根裏を間借りします。』と断わったり、近所に手ごろな空き家がないか、あっせん所を訪ねて回ったりするかもしれない。」

と付け加えました。

 雨の精は、自分の思い付きが気に入ったので、足をぶらぶらさせて、南天の冷たい葉っぱをゆらしました。

 すると、しずくの家の何軒かが、それならと、まとめて水たまりに引っ越しました。


おしまい



ずいぶん昔に書いた作品です。もう、いつ書いたのかさえ、忘れていたくらいです。

でも、読み返すと、すごく丁寧に、心を込めて書いているのが伝わって来ます。

忘れっぽいと、自分の作品を他者の作品のように新鮮に楽しめるのが良いですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まるで詩を読んでいるような心地になれました。 雨の精も「思い付き」も可愛らしくて良いですね^^ 雨が楽しくなりそうです。
[良い点] 企画より拝読いたしました。 雨のせいが可愛いですね。 脚をプラプラとさせてそんなことを考えているのが、ほっこりします^^
[良い点] 素敵な童話ですね。 雨の精が心にちりつもった埃を洗い流してくれたようです。
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