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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第4章 狼と海の神

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第84話 雨粒

 カリオス達が異変に気が付いたのは、山の麓に辿り着いた時だった。荒れ果てた荒野を抜けきった一行が、山の麓に広がる森林に入ったその日。鳴りやむことの無い雷を耳にしたのだ。


 どうやら山の向こうは嵐のようだ。空に浮かぶ濃い灰色の雲が、それを証明する様に広がっている。当然、日光も弱くなっているため、自然と体温が奪われてしまう。


「それにしても、すげぇ嵐みたいだな。時期にこの辺りも振り出しそうだぜ。」


 使い古された山道をズイズイと昇りながら、オルタが呟いている。確かに、今に降り出してきそうな空模様だ。


「タシェル。このまま真っすぐ山を登るんですか?私、ちょっと登れる自信が無いです。」


 ミノーラが山を見上げながら告げている。つられて見上げたカリオスも、その山を登って越えるのはムリだと思えた。大きさでいえば、ミスルトゥよりも大きい。まぁ、当たり前ではあるのだが。


 同じく山を見上げていたタシェルが、苦笑いをしながら応える。


「私も登れる自信はないよ。このまままっすぐ行くと、渓谷があるらしいから、そこを通って行きましょう。だから、もうすぐ上り坂も終わるはず……」


 今度はもうしばらく続きそうな坂道に目をやったカリオスは、よくよく見れば、上り坂の天辺が少し先に確認できることに気が付いた。渓谷があるということは、川があるのだろうか。


 先の光景を予想しながら、歩みを進める。無心で歩いていると、再び空が瞬き、遠くから響いて来る重たい振動を感じた。


「うぅ……雷ってどうも、苦手です。」


「大丈夫?タシェル。」


 光と音が響くたびに、タシェルは肩で驚き、耳と目をふさいでいる。そんな様子を見兼ねたのか、先ほどから何度もミノーラが傍で励ましているのだ。


「大丈夫だぞ。タシェル。まだ嵐は遠いみたいだからな。」


「でも、私たちの目的地って、その嵐の方向ですよね。」


 ここぞとばかりにフォローを入れたオルタは、怯えた様子のタシェルの返答にしどろもどろしてしまう。ぜんぜんフォローできてないじゃないか。と思いつつ、カリオスもフォローを入れるためにメモに言葉を書いた。


「ん?『大丈夫だ。もしここに落ちたら、ほぼ確実に全員死ぬから。』……どのへんが大丈夫か分からないですよ。」


 怯えながらも、どこか苦笑いを浮かべているタシェルは、少し姿勢を低くしながら歩を進めている。


 そんな様子を見たカリオスとオルタは、お互いに顔を見合わせると、肩をすくめて歩き続ける。兎にも角にも、進むしかない。運が良ければ、どこかで雨宿りが出来るかもしれない。


 そんな都合の良い洞窟がありはしないかと、周りに視線を回しながら歩くカリオスは、ついに上り坂の終点に辿り着いた。


 しかし、それほど高い場所というわけでもなく、緩やかな傾斜の下り坂が続いているだけで、パッと見は今までと変わらない。だが、確かに渓谷のような地形に近づきつつあるようだ。


 二つの山が彼らを迎えようとしているように、腕を広げている。


「ようやく上り坂が終わりましたね。私は少し先を見てきます!もし、何か見つけたりしたら、遠吠えを三回しますので、声の方に向かって歩いてください。そうしてくれれば、私の方で皆さんを見つけますので。」


 そう言い残したミノーラは、俊敏な動きで坂道を下って行った。彼女にとって、延々と歩くのはあまり好みでは無いのだろう。


 恐らく、全力で走るのが好きなのだ。何しろ、同じような事を言って走って行ったミノーラは、多くの場合でスッキリとした雰囲気を纏って戻って来るのだ。時には、自身で狩った兎を咥えて戻って来ることもあった。


 だが、そんなことを知らない様子のタシェル達は、心配げに走り去っていくミノーラを見ている。そんな二人の様子を見て、カリオスは少し前の自分を見ている気がした。


 何しろ、猛ダッシュで走り去られてしまえば、追い付くことは到底不可能なのだ。


『大丈夫だ。少ししたら何食わぬ顔して戻って来る。運が良ければ、兎の丸焼きが食えるかもな。』


 そんなメモを二人に見せると、少し安心したのか歩調が軽くなっているようだ。気のせいかもしれないが、タシェルの周りを木の葉が舞っている気がする。シルフィだろうか?


「ちょっと待って!」


 突然そう言いだしたタシェルの言葉に、カリオスとオルタは足を止める。当のタシェルは、草むらに座り込んで、何かを手にして真剣に確認しているようだ。


「オルタさん。ドクターファーナスから貰った本を出してもらえないかな。ちょっと確かめたくて。」


 様子を伺っている男二人全く視線を向けずに、オルタへと指示を出す。オルタは、言われるがままに背負っていたリュックを下ろすと、中からぶ厚い本を一冊取り出した。


「これか?」


「ありがとう。」


 差し出された本をサッと受け取ったタシェルは、パラパラとページをめくり、手に持っている植物と挿絵を見比べている。どうやら、薬草か何かを見つけたようだ。


「あった。……強い毒性がある。過熱してあげれば減毒できるんだ。マリルタとボルン・テールの間の山道で見つけた……っと。ちゃんとメモしておかないとね。」


 よほど集中しているのか、カリオスとオルタが覗き込んでいるのにも気が付いていないようだ。手にした薬草と同じものを幾つか摘んだ彼女は、何やら入れ物に入れて、ふと顔を上げる。


 どうやら、ようやく二人に気が付いたようだ。


「あ、えっと。どうかしましたか?」


『それを聞きたいのは俺達なんだけどなぁ。まぁ、良いか。』


 カリオスがオルタに目配せをすると、オルタは一階頷いた後、タシェルに笑顔を見せる。


「何でもないぞ。それより、先を急ごう。本当に一雨来そうだ。」


 彼がそう告げるのを待っていたのか、一つ、一つと数えるように雨粒が降り始めたのだった。

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