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第8話 関係

 扉を出て左右を見渡してみたが、サーナとサチの姿は無かった。


 どうやら、耳をくことに時間をかけすぎたみたいだ。


 このまま二人を探しに行ってもいいかな……と、ミノーラは部屋の中をのぞき込みながら考える。


 正直な話、部屋の中の男に左程さほどの興味もない。


 彼女にとって従うべき相手はサーナであり、この男ではないからだ。


 それは、決して名づけの親だからとか、そういう理由ではない。


 この名前にちかって、断じてない。


「私はおどされているんだし、しょうがないでしょう?」


 むしろてのひらの上でおどらされているのでは?と自嘲気味じちょうぎみに思いながらも、フラフラと男のもとへと歩み寄った。


「えっと、カリオスさんでしたっけ?」


 背後から声を掛けたせいだろうか、突然の声に驚いた様子の彼は、顔だけこちらへと向けながら首を縦に振っている。


「あ、すみません。前に行きましょうね」


 ミノーラはおずおずと男の足の目の前に座る。


 椅子に座った男の膝小僧ひざこぞうが彼女の鼻先にある状態だ。


「……少し話しづらいですね」


 そうつぶやくと、彼女はカリオスのひざの上に飛び乗り、再度座り込む。


 これで、顔と顔を突き合わせている状態だ。


「えっと、アナタはなぜこんな状態になっているのでしょうか?」


 彼女の問いかけに、カリオスは首をブンブンと横に振って応えている。


 と言うか、彼女が膝の上に飛び乗った時からずっと首を横に振っている。


 どうしたのだろうか。この男は話をすることが出来ないのだろうか?と疑問を抱いた時、彼女は彼の口元をおおっている金具のことを再認識した。


「これが、話をすることが出来ない理由ですか?」


 彼にそうたずねると、今度は縦に首を振り始める。


 ブンブンと振られる首の様子を見て、ミノーラは子供たちの尻尾しっぽの動きを連想した。


「なんだか楽しそうですね? もしかして、お話しするのが好きなのでしょうか?」


 んんんんんんんんんんんんっ!? と言う意味の分からないうめき声を上げながら首を横に振るカリオス。


「ふふふ、言葉になっていませんよ?」


 その様子がおかしくて、少し笑みがこぼれてしまう。


 なんだか少しかわいいな、と思ってしまうミノーラ。


 まるで、本当に子どもをあやしているような、そんな気分。


 人間がペットを飼うのはこういう気持ちを抱くからだろうか?


 そんなことを考えていると、扉の方にサチが現れた。


 先程と同じようにサーナを抱きかかえている。


 そして浮かべる満面の笑み。


 その表情は今までの笑みと比べ物にならないほどの嬉しさが込められているようだった。


「私、ミノーラさんと仲良くなれそうだと思いました」


 笑ったままのサチはそんなことを言い放つ。ただ、何がサチにそう思わせたのかミノーラ自身は見当もついていない。


「ぶはぁ!!」


 ニコニコと笑っているサチの腕からどうにか抜け出したサーナは、サチから距離を取りつつ、ミノーラに駆け寄ってくる。


「おやおやおやおや、なんだか急に仲良さげなことになっているではないですかぁ? さすがはミノーラですねぇ。さっそく主従関係しゅじゅうかんけいを教え込んでるってことですか? だけど、それぐらいにしましょうそうしましょう! 確かに主従関係をはっきりさせるのは大事なことだと思ってますよぉ? ですけど、アタシはサチのように避けようのない痛みでしばるのはどうかと思うんです。わかります? 体だけではなく心まで同時に傷つけるその手口の悪辣あくらつな事! アタシは断固抗議する! そんなやり方はよくない! せめて逃げ道を作って痛みを感じずに済む方法で相手を縛るべきだぁ! それが愛ってものです!」


 途中からヒートアップしたのか、ミノーラではなくサチの方を指さしながら叫びだした。


 ミノーラにはいまいち理解が出来ない部分があったが、あまり追及しても厄介なことになりそうだったのでやめておく。


「私は別に主従関係をはっきりさせようなんて思っていませんよ? ただ、彼を置いて部屋を出るのは少し躊躇ためらわれたので、お話でもしようかと。それに、彼もお話が好きみたいですし」


「ではなぜ、彼の膝の上に乗ったのですか?」


 そう尋ねたのは扉のそばでいまだにニコニコとしているサチだった。


「その方が話しやすそうだったからです。なにか悪いことだったんでしょうか?」


「いえ、ただ、彼は二日間ほどずっとその椅子に座った状態なので、きっと足に触れられるだけでも結構痛いのではないかと……」


「え!? ごめんなさい。すぐに降りますね!」


 ミノーラはあわてて膝の上から飛び降りた。カリオスの様子はと言うと、深く息をいたりったりを繰り返している。


「ミノーラァ……頼むからサチのようにはならないでおくれよぉー」


 涙目のサーナがそのようなことを口にしながら抱きついてきた。その様子を見てサチが口を開く。


「私も抱きついて良いですか?」


「やめろぉ!!! その大きなものをアタシに押し付けるのはもうやめろぉ!」


 騒ぎ出すサーナをやさな目で見つめるサチを見て、ミノーラはこの二人の力関係を理解した。

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