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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第3章 狼と精霊術師

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第75話 伽話

 重たくなってしまった空気にうんざりしたのか、マーカスが手を一度だけ叩き、その場にいる全員の顔を伺った。カリオスは、そんなマーカスの気持ちに応えるように、軽く頷いた。


「考え込んでいても仕方がないものね。マーカスさん、ここには甘いお菓子とお茶は無いのかしら?続きのお話はみんなでお茶でも飲みながらゆっくり話しましょう。もちろん、ミノーラちゃん達も一緒に。もうあの子たちに聞かせたくないお話は終わったでしょう?」


 ドクターファーナスの提案で、一旦休憩をすることになったため、取り敢えず、部屋から出たカリオスは、すぐにミノーラに見つかった。


「カリオスさん!もうお話は終わったんですか?」


 そう言いながら駆け寄ってきたミノーラは遅れて着いて来るタシェルとオルタを振り返り、言葉を続ける。


「カリオスさん!私、行きたいところがあるんです!さっきタシェルに教えてもらったんです!もしかしたら、私と同じような混色の動物と会えるかもって!」


 いったい何の話を聞いたらこれほどまでにミノーラが興奮するのだろうか。まるで飼い犬に遊びをせがまれている気分になってしまう。自身の太ももに掛けられたミノーラの前足をそっと地面に下ろして、彼はメモでタシェルに質問をする。


『いったい何の話をしたんだ?』


「すみません、ミノーラがこんなに喜ぶとは思っていませんでした。カリオスさんは知りませんか?ここから南方にある港町で昔から言い伝えられているお伽噺がありまして。その中に言葉を話す亀が出てくるんです。その話をしたら、ミノーラがその亀に会いたいって言いだしちゃいまして。」


『言葉を話す亀……確かに混色の可能性はあるのか。お伽噺ってことは、会える可能性はないだろうな。ただ、何かの手掛かりはあるかもしれないな。』


「ねぇ、カリオスさん!次はその港町に行きましょう!きっと会えますよ!」


 期待に胸を膨らませている様子のミノーラに、なんと言葉を贈ろうか思案していたところに、マーカスとドクターファーナスがやってくる。二人とも、ミノーラの声を聞きつけてやって来たようだ。


「あらあら、どうしたの?ミノーラちゃん。そんなにはしゃいじゃって。なんだかミノーラちゃんを見ていると、私も若返った気分になっちゃうわぁ。ありがとうねぇ。」


「本当ですか!?私にそんな力があったなんて知りませんでした。私もドクターファーナスといると楽しい気分になれるから、きっと相性が良いんだと思います!」


「あら、嬉しい事言ってくれるわねぇ。」


 これがガールズトークという物なのかもしれない。カリオスがそんなことを考えていると、マーカスが隣へとやって来た。


「ミノーラがいると、賑やかで良いな。なぁ、カリオス。この際だからその港町に行ってみると良い。私は行ったことないが、案外ミノーラなら何かを見つけるかもしれないぞ。」


『自慢の耳と鼻でか?』


 書き殴ったメモを見せながら、マーカスの反応を見る。どこか冗談交じりの空気を作ろうとしたカリオスだったのだが、想定以上にマーカスは真面目な顔でミノーラを見つめていた。


「そうだな。真面目な話……と言いながら、これは私の勘でしかないのだが……。彼女は何かを成し遂げるような、そんな予感がしている。」


 楽しげに話しているミノーラとドクターファーナス。その様子を微笑ましく見ているタシェルとオルタ。彼らには、今のマーカスの言葉は耳に入っていないようだ。大した意味を持たない、些細な会話。根も筋も通っていない薄っぺらい言葉。


 なぜマーカスがそんなことを言うのか分からないが、カリオスが考えても分かるまい。隣で物憂げにミノーラを眺めているマーカスの横顔を、カリオスは見ているだけで、それ以上会話を続ける気にはなれなかった。


 そんな彼の意図を察したのか、マーカスがミノーラ達に向かって告げる。


「よし、そろそろ休憩は終わりだ。みんな部屋に戻ってくれ。お茶は私が持っていきますので、少々お待ちを、ドクター。」


「分かったわ。よろしくね。」


「分かりました!行きましょうタシェルさん!オルタさん!」


 先ほどの部屋へと向かって駆けて行くミノーラ達の後ろ姿を見つめていると、ふとマーカスがこちらを振り返った。


「カリオス。何をしている。速く来い。今から始める話は、君がいないと進められないんだぞ。」


 そう告げたマーカスはそのまま部屋へと入って行ってしまう。その様子を見ながら、カリオスは『ついに来たか』と思った。


 恐らく、というかほぼ確実に今から話すのはミスルトゥの件についてだろう。カリオスは強く確信していた。


 正直、話したいことなどない。いつかけじめをつける必要があるとは考えているが、今、ここで、この人達にではない。かと言って逃げるわけにもいかない。


 意を決したカリオスは、一歩を踏み出し、そのまま部屋へと入り、中に全員そろっているのを確認して、扉を閉めた。


 扉が閉まり少ししてからマーカスが話し始める。


「では、これからの話を始めよう。」

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