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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第3章 狼と精霊術師

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第73話 未熟

「全員そろっているな!よし!それでは始めよう。適当な椅子に座ってくれ。」


 治安維持局の建物に到着したタシェルたちは、少し広めの会議室に通される。そこでは既にカリオスとマーカスとオルタが椅子に腰を下ろしていた。


 どうやら彼らはタシェル達を待っていたようで、部屋に入ってきたのを見るや否や、マーカスが立ち上がり声を掛けてくる。


「何が始まるんですか?」


 タシェルが抱いていた疑問を代弁してくれたのは、ミノーラである。タシェルはマーカスに言われるまま、そこらに並べられていた椅子に腰かけ、マーカスの返事を待った。


「この場にいる全員に話を聞きたかったのさ。主に、昨日の件と、ミスルトゥの件。」


 ミスルトゥ?昨日の件は分かるけれど、なぜここでミスルトゥが出てくるのだろう。接点の無い話に思えたタシェルだったが、それを口にはしなかった。誰かが聞いてくれるだろう。


「さて、まずは昨日のことから話をしていこう。時系列順にまとめていきたいのだが、タシェル、君はなぜ監禁されたんだい?」


「それは……。」


 チラッとハリス会長の方へと視線を泳がせたタシェルは、バッチリと目が合ってしまう。非常に話しにくい。だが、今はそんなことを言っている場合では無いだろう。


「……私は、シルフィにお願いして、街の人達の会話を盗み聞きしていました。」


「タシェル!なんて馬鹿な事をっ!」


 ハリスの厳しい叱責が響き、とっさに体を縮めたタシェルは、叱責の続きが聞こえないことに違和感を抱き、そっと目を開ける。どうやらハリスの叱責を制止したのはマーカスのようだ。タシェルの目をじっと見つめながら、少し冷たい口調で続ける。


「それはあまり褒められた趣味では無いね。まぁ、今は良いでしょう。それで?続きを話しては貰えないだろうか?」


「は、はい。昨日、その盗み聞きをしたときに、薬が出来てるとか、感染源を作り出して街に蔓延させるとか、お金の話とかが聞こえてきて、今日の朝急いでハリス会長に事情を話しに行こうとしたんですけど。会長はいなくて、代わりにハーム副会長が居ました。そして、ハーム副会長に事情を説明したら、気絶させられて、気づいたら牢屋にいました。」


「なるほど、その時、ハリス会長は外出をしていたと。」


「そうだな。少なくとも朝は街にいなかった。それは一緒に調査に行った人間に聞けば分かるだろう。」


 どうやら納得した様子のマーカスは、続いてオルタへと目を向ける。


「オルタ。君は何やらクロムから小瓶を三つ渡されていたね。あれは何だったのかな?そして、誰に貰ったのかな?」


「一昨日……だったか?クロムに貰った。酒場でだ。その時は確か、薬だと言ってたはずだ。」


「薬と言ってたんだな。ということは、クロムはその薬の入った瓶をもって逃げたということになるな。」


「そうだな。」


「では、なぜオルタは捕まったんだい?」


 マーカスの単純な問い掛けに、オルタは頭をひねりながら答える。


「良く分かっていない。ただ、クロムに着いて旧坑道に入ったら、タシェルさんが捕まってる牢屋に辿り着いて、よくわからないうちに意識が飛んで……拷問を受けた。その先はあまり良く覚えていない。気が付いたらドクターファーナスの診療所にいた。」


 あまり思い出したくないことなのか、話をしながら、オルタの顔色が見る見るうちに暗くなっていく。タシェルは、自身の経験を重ねながら、同情する。


「ふむ、つまり、クロムとハームが手を組んでいたのは確実のようだね。」


 オルタの話をまとめるように、マーカスが告げる。確かにその通りなのだが、それはあまりに淡泊な感想では無いだろうか。


 そんなことを考えていたタシェルは、ふと思った。クロムとハームは何がしたかったのだろうか。ここまでの話を整理すると、クロムとハームが手を組んでいて、クロムは薬と感染源を作る役割。では、ハームは?何をする役割だったのだろう。


「マーカス。これ以上は、やめた方が良い。」


 タシェルは思考の途中で耳に響いて来た声に、一瞬驚きつつも、声の主を見つめる。立ち上がり、鋭い視線でマーカスを睨んでいるハリス会長が、続けて言葉を発する。


「彼らが知るには、少し早すぎる。」


「そうでしょうか?ここにいる全員が当事者だと私は思うのですがね?少なくとも、カリオスは何やら感づいているみたいですが……。仕方ありませんねぇ。ミノーラ、タシェル、オルタ。三人は一旦部屋を出てもらえますかな?」


「え、何でですか?どういう意味ですか?」


 突然退室を望まれたミノーラが声を上げる。タシェルも声を上げようと思ったが、ハリス会長と、なによりドクターファーナスの鋭い視線に圧され、口を噤んだ。


「俺には、良く分かんねぇが。取り敢えず出ればいいんだな?」


 どうやら一番聞く耳があったのはオルタのようだ。マーカスの指示通りに会議室の扉へと向かい、歩いていく。


 その様子を見たタシェルとミノーラは、仕方なく後について部屋を出た。


「何で私達だけ出されたんでしょうか?」


 釈然としていない様子のミノーラが、タシェルに尋ねてくる。正直、タシェルにもわかっていない。ただ、何らかの理由があるはずだ。


「分からないけど。多分、私たちはまだ知るべきじゃないことがあるのかも。どうして知るべきじゃないのかは、分からないけど。きっと、マーカスさんとハリス会長とドクターファーナスには、何か思うところがあったのよ。」


「カリオスさんは知っても良いのに?どうして?」


「さぁ。」


 二人は先に出て行ったオルタを見つけると、傍に歩み寄る。治安維持局の廊下に置いてある椅子に座って、ただ壁を眺めているオルタは、二人に気が付くと、思い出したように呟いた。


「俺は、本当に未熟なんだなぁ。多分、マーカス達には分かるんだ。俺はバカだから、分かんねぇけど。」


「何が分かるんですか?」


 ミノーラの疑問にオルタは首を傾げながら答える。


「分かんねぇ。」


 タシェルはどこか寂し気なオルタの隣に腰を下ろし、彼の手をそっと握った。彼女のその行動に彼があからさまに動揺しているのが分かる。


「良いじゃないですか。分からなくても。こうして元気になってるんですから。あれだけのケガをしていたのに、不思議なくらいですよ?ミノーラも、まだケガは万全じゃないんでしょう?少しゆっくりしなきゃ。」


「はい!ありがとうございます!」


 床に座ったミノーラが後ろ足で耳を掻きながら答える。本当に分かっているのだろうかとタシェルは苦笑いするしかなかった。

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