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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第3章 狼と精霊術師

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第62話 心配

 クロムと対峙しているマーカスは、情報を引き出すために話をしてみることにした。


 十中八九、失踪事件に関わりがあると思われるが、今のとこ証拠はない。少しでも何か掴んだ上で拘束したいものだ。


「クロム。そこのウルハ族の男とはどういった知り合いなのでしょうか?詳しく聞いてみたいのですが。教えてもらえるだろうか?」


「あぁ、その男ですか?知らない人ですよ。話したことも無い。そして、貴方と話をするつもりは毛頭ない。このまま退散させてもらいますね。これが、私からの回答です。では。」


 全く話を聞くつもりの無いクロムは、とぼけた答えを告げると、そのままウルハ族の男へと歩み寄り、軽々と肩に担いだ。しかし、体格差がありすぎるため、肩に担ぐと言うより、腕を担いだという方が正確だ。


「このまま逃がすとでも思っているのか?」


「はぁ、しつこいですね。私は貴方の相手をしたくないのですよ。いや、貴方は相手にしなくてもいい。ここは私が退くと言っているのですから、大人しくしていてはどうですか?」


 そういったクロムは、マーカスではなく、別の何かへと視線を移した。その視線を追った先には横たわっているミノーラがいる。


「あなたと私が戦って、私が勝てるかどうかは置いておきましょう。あなたは今この状況で争う事の意味を考えたほうが良い。圧倒的に不利な状況ですよ?」


 旧坑道入口前のちょっとした広場。周囲には一般市民の住居が建ち並んでいる。旧坑道の入口付近ではマーカスの部下たちが傷付いたミノーラを介抱しながら、守りを固めている。


 確かに、この状況は彼にとって守るべき者が多すぎた。


「それでは。」


 マーカスが状況の再確認を行ったのを見計らったのか、クロムはウルハ族の男を持ったまま空へと上がって行き、どこかへと行ってしまった。


「……不甲斐ない。だが、今は追跡よりも優先するべきことがある。」


 飛び去ったクロムの姿が見えなくなると、彼はすぐさま踵を返してミノーラのもとへと走った。


「ミノーラ。大丈夫か?すぐにドクターファーナスがここに到着するはずさ。もうしばらく辛抱してくれたまえよ。それと、一人でよく頑張ってくれた。」


「マーカスさん。ありがとうございました。おかげで助かりました。今は私よりも坑道内の救助に向かってください。」


「ははっ!心配しなくとも、全員既に近くまで連れてきているのさ。もうそろそろ坑道から出てくるはずだよ。この私に掛かれば、これくらい簡単な事であるからな。」


 そんなマーカスの言葉に薄く微笑みを浮かべたミノーラは眠りについた。少し疲れたのだろう。起こさないようにそっとその場を離れた彼は、すぐに臨時診療所の準備を進めることにした。


 坑道から失踪していた人々を担いで出てくる部下たちに指示を出し、症状別で並べて寝かせていく。


 しばらくそういったことをしていると、見覚えのある面子が走ってくる。


「マーカスさん!遅くなりました!」


 ずっしりと重そうなバッグを抱えて歩いているタシェルと、様々なものを乗せた荷車を押すカリオスと大男。


 ようやく到着した彼らを迎えて、いよいよ本格的に治療が開始されるだろう。


「ドクターファーナスはどこに?」


 荷物が到着したのは良いのだが、肝心の医者が見当たらない。そんなマーカスの疑問に答えてくれたのはタシェルだった。


「今歩いてこちらに向かってます。この荷台を置いたら、オルタさんが迎えに行く手筈になっています。」


「オルタ?あぁ、貴方がオルタですか。ドクターファーナスを頼みましたよ。彼女がいないと、誰も治療を始められないからな。あぁ、すまない。私はマーカスだ。」


 荷台を置き、息を整えている様子のオルタに対して、マーカスは声を掛ける。よっぽど重たかったのか、それとも傷が痛むのか、オルタは荒い息をしながら答えてくれた。


「分かっている。俺はオルタだ。すぐに連れて来る、少し待っていろ。」


 そういうと、彼は元来た道を全速力で戻って行った。その様子を見ていたマーカスは、周辺住民のやじ馬が増えてきていることに気が付く。


 それもそうだろう。先程まで戦闘が繰り広げられていたのだ、危ないから隠れていた人々も、戦闘が一旦収まったのだから、様子を見に来るのもうなずける。


 部下の一人にやじ馬を遠ざけるように指示を出した彼は、次にカリオスへと視線を移す。


「カリオス。少し話がある。ついて来てくれないか。」


 短く切り出したマーカスは、カリオスからの返事は待たずに、ミノーラのもとへと歩き始めた。


 そんな彼の進行方向に倒れているのを見つけたのだろう。カリオスは、マーカスの横を走り抜けると、ミノーラの傍に座り込んだ。


「すまない。私がもう少し早く助けに入れていれば、ミノーラはケガせずに済んだはずなのだが。そのうえ、彼女を襲った男には逃げられてしまった。次こそは必ず捕まえてみせる。だが、今は治療が先決だ。彼女は初めに直してもらおう。」


 彼の言葉を聞いたカリオスは、軽く頷いた後、ミノーラの頭を一撫ですると、すぐに立ち上がった。


 この二人の関係性が良く分かっていないマーカスだが、少なくともカリオスは、ミノーラの状態を心配したようだ。心配した理由も考えも良く分からないが、悪い事ではないだろう。


 そうであるならば、彼がするべきことは決まっている。心配させてしまうような結果を作ってしまった不甲斐なさを、挽回しなければ。マーカスはそんなことを独白した。

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