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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第3章 狼と精霊術師

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第59話 殺気

 ミノーラ達がドクターファーナスの診療所で歓談していると、マーカスの部下が怪我人を背負って訪ねてきた。


「旧坑道で発見した被害者の一人です。まだ十数人はいます。ドクターファーナス。治療をお願いしてもよろしいでしょうか。」


 廊下の真ん中で事情を説明する男にドクターファーナスが答える。


「モチロンよ。ほら、早くそちらの部屋に運んでちょうだい。ミノーラちゃん。カリオスさん。ごめんなさいね。ちょっと立て込んできたから、お話はまたの機会にしましょう。」


「分かりました!私たちも何か手伝いましょうか?」


「私も何か手伝います!ドクターファーナス!」


 タシェルも話を聞きつけたようで、マーカスの部下をベッドへと誘導しながら会話に混ざってきた。


 ドクターファーナスはその提案にニッコリと笑みを浮かべた後、マーカスの部下を指差し、指示を出した。


「ありがとう。助かるわ。それじゃあ、あなたは隣町の診療所に向かって事情を説明してきてもらえるかしら。たぶん、私だけでは人手が足りないわ。そして、旧坑道の入り口前に臨時の診療所を作るから、取り敢えずはここまで運ばなくて大丈夫と伝えておいてちょうだい。」


 男がその指示を聞き、頷いているのを確認すると、続けてミノーラへと指示が出る。


「ミノーラちゃんには連絡係をお願いするわね。まず、旧坑道に行って重傷者と軽傷者の人数を確認してちょうだい。その後、軽傷者と重症者を分けて寝かせるためのスペースを確保するように伝えてもらえるかしら。さいごに、シーツとかを持っていくのに人手が必要だから、何人か寄越すように伝えて頂戴。出来そうかしら?」


「分かりました!人数確認とスペース確保と人手の調達ですね。」


 ミノーラの返事を聞き、深く頷いたドクターファーナスはカリオスとタシェルへと目をやると、指示の続きを始めようとした。


 その時、低い足音が響いたかと思うと、オルタが部屋から顔を出した。


「俺も何か手伝います。」


「身体は大丈夫なの?さっきも言ったけれど、無理はしないで頂戴ね。それじゃあ、カリオスさんとタシェルさんとオルタさんには私の手伝いをお願いするわ。今からさっきの彼の応急処置をして、すぐに旧坑道へと向かいます。都度お願いすると思うから、よろしくね。」


「分かりました。」


 タシェルのその返事を皮切りに、それぞれが動き出した。


 マーカスの部下とミノーラはすぐさま診療所を出ると、旧坑道へと向けて走り出す。彼女は無性に話しかけたくなったが、それは我慢した。事態が落ち着いてからにしたほうが良い。


 それよりも今は、一秒でも早く旧坑道に向かうのを優先しよう。


「すみません。先に行きます。」


 人ごみを掻き分けながら走っている男に対し声を掛けると、ミノーラは返事も待たずに全速力で駆け始める。しかし、普通に道を走っても思うように走れない。


「うぅ……人が邪魔で走りにくいですね。あ、別に道を走る必要はないんでした。」


 走りながら辺りを見渡し、目的の物を見つける。それは、薄暗い路地。当然路地は影となっている場所が多いわけで、それはつまり、彼女にとっては全てが道になると言う事。


 急いで路地へと駆け込んだ彼女は、すぐさま建物の壁を垂直に駆け上がった。そうして屋根の上へと辿り着いた彼女はそのまま勢いに任せて駆ける。


「確か、あっちの方でしたね。」


 オルタを運んで歩いて来た道を思い出しながら、屋根の上を駆ける。道なりに進む必要が無いため、かなりの近道になりそうだ。


「あ、ありました!旧坑道の入口!」


 マーカスの部下たちが数人、怪我人と思われる人々を運び上げてきたところのようだ。その様子を確認した彼女は、先ほど屋根へと上ったのと同じような路地を見つけ、屋根から降りる。


 しかし息を吐く間もなく、旧坑道の入口へと向けて走った。そんなミノーラに気が付いたのか、彼らは一旦怪我人を地面へと寝かせると、ミノーラへと向けて手を振ってくる。


「ドクターファーナスからの伝言です!重傷者と軽傷者の人数をそれぞれ教えてください。それと、臨時の診療所をここに作るそうなので、けが人を重傷者と軽傷者に分けて寝かせておいてください。最後に、ドクターファーナスの診療所に数名人を寄こしてほしいそうです。」


「分かった。私がマーカス隊長に伝えに行こう。」


 部下の一人が告げ、全員が動こうとしたその時、ミノーラの背後から何やら男の声が聞こえた。


「おいおいおいおい!これはどういう事だぁ?」


 振り向くと、不思議な格好をした男がこちらへと歩いて来ている。背丈はオルタと変わらないくらいか。筋骨隆々としたその男は、上半身はベスト一枚に、ダボダボとしたズボンを履いていた。なんとも不格好だ。


「あー、おめぇらは、何だったか?……あれか、治安維持局ってやつか?ってこたぁ、バレてんのか。クソ面倒くせぇじゃねぇか。やめてくれよぉ。」


 そんなことを言い放つ男は、全く遠慮することなくミノーラ達へと近付いてくる。その様子に危機感を感じたのか、マーカスの部下たちは臨戦態勢をとった。


「お?やる気か?やめてくれって。おれはやる気ねぇんだよ。楽させてくれよぉ。楽に殺すのが楽しいんだからよぉ。」


 ミノーラも体勢を低くし、いつでも反応できるように身構える。背後で駆けていく足音が聞こえたため、部下の一人はマーカスを呼びに行ったようだ。


「この男はウルハ族だ。ミノーラ殿、気を付けてください。」


 背後の男が忠告してくれる。その声が聞こえたのか、ウルハ族の男が声を掛けてくる。


「あ?その犬に話しかけてんのか?おいおい大丈夫かよ。」


「犬じゃなくて、狼です。あなたは何をしに来たんですか?さっき殺すとか言っていましたが、どういう事ですか?」


 ムッとしたミノーラがいら立ち交じりで声を掛けると、ウルハ族の男は驚きと喜びを綯い交ぜにした声を上げた。


「おいおい、マジかよ!?犬が喋ってやがる。これは面白れぇ!喋る狼の断末魔ってどんなんだよ!聞きてぇな。なぁ、聞かせてくれるか?いや、聞かせろよ?」


 その言葉を皮切りに、ウルハ族の男のさっきが爆発的に増加したのを感じる。ミノーラは全身の毛が逆立つのを感じながら、その男と対峙した。

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