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第4話 絶句

 目が覚めたのはあまりにも唐突とうとつだった。


 何らかのきっかけがあったわけでもなく、意識が明確になるまでに時間がかかった訳でもない。


 その唐突な覚醒かくせいは、混乱こんらん焦燥しょうそうを一度に運んできたようだ。


「ここは……どこなのでしょうか?」


 彼女は重たい頭を上げ、自分の置かれた状況を確認する。


 なにやらせまい空間の中に閉じ込められているようだ。とはいえ、外の様子が分からないわけでは無い。


 床と天井は一枚の板なのだが、壁と呼べるものはなかった。その代わりに、一定間隔いっていかんかくで棒が並んでいる。


 それが、人間の使う“おり”と呼ばれるものだと彼女は知っている。


 彼女が一匹入る程度の小さな檻。そこまで理解できれば、自分がとらわれているということもすぐに気が付く。


「? ……殺されなかったということかしら?」


 明らかに殺されそうな状況で意識を失なったため、今の状況がいまいち掴めていない。


「私を捕まえたのは……誰?」


 自問じもんしておいてあれなのだが、彼女には心当たりが一つしかない。もちろん、仲間を殺していたあの人間だ。


 あの時の光景。思い出した途端とたんに、彼女は体が強張こわばるのを感じる。


 無風むふうの森の中で繰り広げられていた惨劇さんげき。仲間たちのしかばねの中たたずむ男の姿。不思議なことに、彼女はその男の顔を明確に思い出すことが出来なかった。


 そして、一つの疑問を思い出す。


「あいつは本当に人間なのでしょうか?」


 彼女と意思の疎通そつうを取っていたあの男。それに加え、圧倒的なまでの強さを目の当たりにした彼女が抱く、当然の疑問。


「まぁ、考えてもしょうがないことですね」


 そんな結論を出した彼女は、辺りの様子を観察することにした。


「私と同じように捕まっている方は……いない」


 檻の外を見回してみるが、彼女の入っている檻とほぼ同じものがいくつかあるだけで、それ以外には何もない。


 明かりも無いため、かなり暗いのだが、彼女にとって左程暗いと感じるほどではなかった。


「出入口はあそこ?」


 彼女は檻から数メートル離れた壁を見つめる。かすかにではあるが、この空間の外から風が入ってきている音が聞こえる。


 そのかすかな音を聞き分けたことを誇るように、彼女は得意げに鼻先を舐め、後ろ足で耳をく。


 耳の奥のむずがゆいところにあと少しで届きそうになったとき、出入口の外から新たな音が響いた。


 少しずつ彼女のいる場所へと近づいてきたその音は、どうやら足音のようだ。しばらく音が止んだかと思うと、出入口が音もなく横へとスライドし、何者かのシルエットが浮かぶ。


「およ? 目が覚めてるみたいですね? どうです? 理解できてます? もし、理解できるなら、鼻先を地面に当ててみてくださいな」


 その言葉を聞いた彼女は、驚きとともに期待を込めて、三度地面に鼻先を当てた。


「おほぉー! 理解できてるみたいですね! いやはや、あの状況でアナタだけ息があったと聞いたので、もしやとは思っていたのですが……。彼には感謝しなくてはいけませんねぇ。感謝して、感謝して、感謝した後に殺す必要があるのですが、それはまぁ、置いておきましょう」


 手をたたき、喜びを表現しながら飛び跳ねるその人物を、彼女は見守るしかなかった。


 ただ、自分に危害を加える様子はないため、なんとなく安心している。


「さてさてさてさて、ふー、興奮のしすぎはよくないですね。自嘲じちょうしましょうそうしましょう。あたしの名前はサーナ。天才技鉱士てんさいぎこうしのサーナと言いますよろしくですぅ」


 そうして自己紹介をした彼女はおもむろにこちらへと近づき、何の躊躇ちゅうちょもなく檻を開け放った。


 突然開け放たれた檻を見て、彼女は一瞬、狼狽うろたえるが、ソロソロと檻から足を踏み出す。


 もちろん、サーナへの警戒けいかいは怠らない。危害を加える様子が無いとはいえ、人間なのだ。彼女が理解できないことをする可能性は十分にある。


「あなたにはすこーし手伝って貰いたい事があるのです。もちろん、お礼はしますよ? あれ? そんなに警戒しないでくださいよぉ。せっかく意思の疎通ができるんですから。おや? 意思の疎通と言えば、アナタは話すことはできないのですか? あちゃー、そういえば、開放するのは意思の疎通ができることを確認してからでしたね。はい、しゃべってくださいお願いです」


「そんなこと……」


 全く、予期していなかった自身の声。


 聞き取った自分の耳には、自信がある。だからこそ、彼女は絶句ぜっくした。


 そんな彼女の様子を見て、サーナはニンマリと笑みを浮かべた。

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