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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第2章 狼と女王

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第35話 因縁

「よっぽどショックだったみたいですね。でも大丈夫ですよ。私はそのことを誰かに告げ口したりしないわ。もちろん、条件はありますけれどね?」


 ミノーラが戦意喪失したのを見て取ったのだろう。影の女王は、優し気な表情で微笑みながら、歩み寄ってきた。


「くそっ!イヌッコロ!てめぇ今更あきらめてんじゃねぇ!あれが全部てめぇの責任なワケねぇだろうが!」


 ミノーラの耳元で怒鳴っているドグルの声が、不思議と遠く聞こえる。遥か遠い海の嵐のように、何事もなく過ぎ去ってしまう。


 家族と家を奪われた?仇を討つ?先程自身が言った言葉を反芻し、とめどない虚しさを覚える。


 どの口が、それを言うのだろう。


 きっと、沢山の方が家族を亡くし、家をなくしたというのに。


 きっと、沢山の方に恨みを抱かせ、因縁を与えるというのに。


 皆の元に戻るのが怖い。何事も無かったかのように、逃げ出したい。理由なら幾つでも思いつくのだ。


 そうすればきっと……


 きっと、彼らは、私ではなくお互いを恨んでいくのだろう。


 つい先ほど、トリーヌとドグルが見せたように。


 また何も言えず、一人その場を去る事しかできないのだろうか。


「おい!くそっ!イヌッコロ!……ミノーラ!てめぇ!いい加減にしやがれ!てめぇのさっきの遠吠えは何だったんだ!俺らがみっともないマネしてた時に、おめぇは何を感じたんだ?あれは俺の気のせいだったっていうのか?くそっ……っ!?」


 ミノーラに向かって伸びてくる影を大樹の枝で払いのけ、声を掛け続けていたドグルだったが、到底全てを捌ききれるわけもなく、体の自由を奪われる。


 それでも、ミノーラは動けずにいた。


 しかし、微かに聞こえたドグルの言葉に、彼女の中の何かが引っかかる。


 みっともないマネ?


 彼は彼ら自身の行動をみっともないと思っていたのだろうか。とてもそうは思えなかった。全力で相手に怒りをぶつけていたように見える。


 なぜだろう?


 どうして彼らは怒りを抱いたのだろうか。それは当然、コロニーが落ちたことが原因だろう。もっと言えば、家族と家を奪われたからだ。少なくともトリーヌはそうだろう。


 ではドグルは?


 トリーヌにあの惨状の原因を作ったと疑われたから、怒ったのだ。


 つまりそれは、トリーヌ達に起こったことが惨劇なのだと、酷くて辛くて哀しい事なのだと、ドグルが認識していることになる。


 そんな酷いことを、自分がするわけがないだろう、と。そう主張しているのだ。


 だとするならば、本当に彼らは憎しみ合っているのだろうか?恨み合っているのだろうか?手を取り合い、共に歩む道を、友になる道を歩んでいけるのではないだろうか。


 それを自覚しているからこそ、みっともないマネと言ったのではないだろうか。


 ふと、目の前の情景に意識が戻る。


「そろそろ、意識がはっきりしてきましたか?私は待ちますよ?あなたが良い返事をしてくれるまで。」


 ミノーラに語り掛ける影の女王は、とても穏やかな表情をしている。しかし、その奥に、全く身動きの無い小人が一人、転がっていた。


 ふつふつと、何かがミノーラの中で湧き起こり始める。自然と顎に力が入り、姿勢を低くする。


 何がきっかけだったのかは分からない。ただ、ミノーラが一つ気づいたのはカチッという小さな音が、彼女の首元、すなわち首輪から聞こえてきたことだった。


 その音が鳴ると同時に、彼女は放たれた矢のように飛び出した。


 同じく放たれた無数の影が、彼女の自由を奪おうと迫りくる。避けることなど考えず、全身全霊で駆ける彼女は、大量の影を巻き込みながら、一直線に、女王の元へと突き進む。


 少しずつ体を侵食され始めているのを感じるが、この勢いを止めることはできないようだ。


 あと数歩と言うところまで近づいた時、女王が後ずさった。


 それを見て取るや否や、女王の喉元目掛けて飛び掛かり、食らいつく。


 案の定すり抜けてしまったミノーラが、再び飛び掛かろうと女王の方を振り返ると、そこには首の無い女王の体が、膝から崩れ落ちた状態で残っていた。


 しばらくはそのままの状態が続いたが、何かが尽きたのだろう、ゆっくりと、女王の体が霧散していく。


「え、は?何が……は?」


 少し離れたところで様子を見ていたレイラが、呆けた様子で呟いている。しかし、しばらくすると、彼女の体も霧散を始めた。


「は!?は!?は!?ちょ、おか…し……いだろ…………」


 そんな言葉を残し、消えていく。


 残されたミノーラは、息を整えながら同じく呆然とする。


「……なにが、起きたんでしょうか?」


 言葉にすると、余計に頭が混乱し始めた。いまはそれどころではないと言い聞かせ、ドグルの元へと駆け寄る。


「ドグルさん!大丈夫ですか?」


 うつ伏せで全く動かないドグルに声を掛けながら、鼻先で仰向けに寝かせる。どうやら命は落としていないようだ。


「う……イヌッコロ……か?」


 そんなことを言いながら薄目を開けたドグル。この気持ちをどうやって伝えたらいいのか分からなかったミノーラは、これしかないと思い立ち、ドグルの顔面を思いっきり舐める。


「うわ!おい!やぶぇ……やめろぉ!」

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