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第3話 捕縛

 カリオスがくだんの青年と出会った広場に戻ったのは、しっかりとクラミウム鉱石を採取さいしゅした後だった。


 当然、それなりに時間がっているため、空は薄明はくめいが広がりつつある。


 あの遠吠えの後、青年のことが気がかりだったかと言われれば、そうでも無かった。


 言ってしまえば、出会って間もない赤の他人を心配するほど、カリオスは出来上がった人間ではない。


 岩壁いわかべにつるはしを打ち付け、掘り出した鉱石を集めること数時間。疲労と眠気が青年との会話のことなど忘れさせた。


 そうして、帰路きろについた彼は、中継点ちゅうけいてんである広場を見たと同時に、青年のことをふと思い出したのだ。


「もう出発したみたいだな……」


 完全に鎮火ちんかした焚火たきびの跡を見るに、出発からそれなりに時間が経っているようだ。


 そこまで確認すれば、もうここに用はない。


 あの青年が狼の群れにでも襲われたのかと考えていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。


 もしそうならば、彼の持っていた荷物などが周囲に散らばっているはずだ。自身を納得させながら周囲を見回していたカリオスは、一つの異変に気が付いた。


 彼は、落ちていたそれに近づき、拾い上げる。


「ウサギ?」


 息絶えたウサギが一羽、焚火と森の中間あたりに転がっていたのだ。


「この方角は……」


 あまり深く考えたくはないが、首元を食いちぎられたウサギの死骸しがいと、それが落ちていた方角が、採石場と真逆の方角――つまり、遠吠えの聞こえてきた方角――だという事実が、彼の想像力を駆り立てる。


「つまり、あれだ……関わらないほうが良いってことだ」


 消極的で保身的な考え。この世界で生きていくためには、必要な考え方だ。


 そうして、再び家へと足を動かしかけたその時、彼は何やら騒がしい音を聞きつける。


 それは、上空から聞こえてきた。


「総員!! 確保!!」


 突然のことで、彼は何一つ対処することが出来ない。上空に注意を向けた時には既に取り囲まれ、体の自由を奪われた状態で地面に組み伏せられる。


 地面で顔を打ち、全身を抑え込まれた状態で初めて、両腕を背中に固定されていることを自覚する。


 そうして、彼を地面に抑えつけているのは見たことのない衣服を着た男達だった。


 ただ、噂には聞いたことがある。王都には治安維持ちあんいじを目的とした戦闘集団が存在し、特に王家直属のヤバい組織があるのだと。


 混乱と驚愕きょうがくで現状を把握できていなかったカリオスだが、少しづつ観察することが出来るようになってきた。


 男たちの人数は七人。あるいは、姿を見せていない者がいる可能性はある。ゆえに、最低七人と言うべきだろう。


 恐らく戦闘を生業なりわいとしている彼らだが、意外と軽装だ。身を守るための胸当てや籠手こてなどは全く装備していない。


 かといって、カリオスが着ているような一般的な衣服でもない。


 皮のジャケットのようだが、背中や腕にかけて赤く光る線が織り込まれている。カリオスはその光を見たことが無い筈だが、どこか親しみを感じる。


 その他に、男たちに共通している物が一つあった。


 それは、頭をおおっているフードだ。全員が顔の上半分を隠すほど深くかぶっているため、同じ姿に見える。なんともチグハグな格好。


 そうして、悠長ゆうちょうに観察を続けていた彼は、男たちのリーダーと思しき人物によって現実へと引き戻される。


「まずは、突然の乱暴とこれから続く乱暴、そして、終わることのない乱暴を謝罪しておこう。申し訳ない」


「ちょっと待ってくれ、俺が何したってんだ!?」


 男によってあまりにも強引に突きつけられた未来が、カリオスにとって想像もしたくない未来であることは想像に難くない。


 だからこそ、容易に予想し、実感できる。


「こうして俺が拘束されるのは明らかにおかしいだろう!?」


 何をしていたわけでもない、先ほどまで仕事にいそしみ、帰宅途中だったのだ。それだけでこのような仕打ちを受けるいわれはない。


「ここにいた事。それが貴方の罪だ」


 淡々と告げるこの男に、そんな理由はありなのか!?と彼が叫びそうになった時、彼を取り押さえていた男が言葉を発する。


「この男、クラミウム鉱石を持っています」


 その言葉を聞いた男たちは一斉にカリオスへと視線を投げた。しばしの静寂。クラミウム鉱石を持っていることがそんなに悪いことなのだろうか。


「何に使うつもりだ」


「何って、俺は技鉱士だ。クラミウム鉱石を持っていても全くおかしな話じゃないだろう」


 彼がそう言うと、男たちは顔を見合わせる。


「なんだよ」


 自身の身の上を明かしたことを後悔し始めた彼だったが、それは遅すぎた。


「少し眠っていてもらおう」


「!?」


 特に衝撃が走ったわけでもない。まるで、眠りにつくように、彼の意識は遠ざかっていく。


 何もかも、時間にさえも置いて行かれる感覚の中、カリオスは意識を失った。

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