第21話 思惑
一瞬の衝撃を感じた後、謎の浮遊感を覚えながら目を回していたカリオスは、背中に広がる激痛で覚醒した。
目を開けると、そこには先程まで自分がいたはずのコロニーがある。
しかし、以前見たものとは様子が違う。
まるで木の実から伸びる氷柱のように、幾本もの蔦がカリオスの目の前まで伸びているのだ。
それが何を意味するのか、彼には理解できなかった。
しかし、彼のそばでゲラゲラと笑っている小さな男は、全ての事情を知っているようだ。
「こないだの兄ちゃんとは違って、少しばかりビビりだなぁ? えぇ? 大丈夫さ! 兄ちゃんは死んじゃいねぇ! さぁ! そろそろ出発しようぜ! 時は金なり木に実りってなぁよく言ったもんだぜ!」
『そんな諺聞いたことないぞ……まぁ、良いか』
耳元で延々とはやし立ててくる男を見ていると、なんだかどうでもよくなってくる。
取り敢えずは生きて降りることが出来たということで納得することにした。
「おっと、あぶねぇあぶねぇ」
そう声に出した小さな男がパチンと指を鳴らすと、先ほどまで氷柱のように伸びていた蔦がゆっくりと昇り始めた。
『蔦が……どうなってんだ?』
「自分達が作ったこの木を自在に操れない訳はないだろうがよぉ。まぁ、こまけぇ説明は中に入ってからだ! ほら、早く根元まで走らんかい!」
色々と突っ込みたいところが多すぎではあるが、今はこの男に従うべきだとカリオスは判断する。
肩に小さな男をのせ、幹の根元へと小走りで駆け寄る。コロニーへ上る前にも思ったが、森が丸々一つ育ったかのような大きさだ。
「ちょいと待ってな、兄ちゃん。いまから開けるからよぉ」
『は? 何を言って……』
肩から飛び降りた男に向かって疑問を投げかけた瞬間、カリオスは自身の目を疑った。
小さな男が地面に着地する直前。
木から伸びた蔦によって、男は掬い上げられた。
かと思うと、そのまま小さな男を飲み込むように、木の幹へと潜り込んでいったのである。
数多の大樹が寄り集まって一本の巨木を作り上げているとはいえ、その表面には隙間など見当たらない。
ほんの一瞬、彼がこの巨木に食われたのかと焦りを感じたカリオスだったが、次の瞬間にはそれさえも吹っ飛んだ。
ミシミシと音を立てながら曲がり始めた大樹が、カリオスの目の前に大きな隙間を作ったのだ。
「はよぉ入らんかい!」
そう促されるまで呆然と立ち尽くした彼を誰が責められるだろうか。
『どうなってんだこれは……木の中に、森が広がってんのか?』
隙間から中を覗き込んだカリオスは、その光景に圧倒される。
先程まで幹だと思っていたのはただの壁でしかなく、その壁の中にうっそうと茂る森が広がっているのだ。
しかも、植物だけではなく、シカやリス、小鳥と言った動物や蝶などの虫も生息している。
そろそろと中に入り、地面や近くに生えている木々を触ってみるが、どれもカリオスのよく知るそれらと変わりないものだった。
唯一違う点と言えば、そこにある植物全てがうっすらと緑色の光を発しているということぐらいだろう。
「感動しただろぉ? ここはかつて麗しの森と呼ばれていた土地だったんだぜぇ! まぁ、俺らのご先祖のそのまたご先祖の時代だがなぁ! そして、何を隠そう! 俺らこそが本物のトアリンク族ってな訳だ!」
頭が痛くなってきた。
『つまり、なんだ? この聖樹の中がミスルトゥってことなのか? それで、コロニーにいた彼らは偽物のトアリンク族で、あんたら小人が本物のトアリンク族って事か?』
「てめぇ! 俺らは小人じゃねぇって言ってんだろうがよぉ! ……お?」
カリオスのぼやきにすかさず突っ込みを入れた男が、何かに気が付いたのか口を閉ざした。
そんな男の視線の先を、カリオスは追う。
「これはこれは、ご無事で何よりです。貴方は私の事を覚えているか? そうだな、きっと覚えているだろう。加害者と被害者では後者の方が物覚えが良いらしい。だからと言って、私を憎まないでくれよ? きちんと謝罪はしたのだから。まぁ、そんなことはどうでも良い。それよりも、なるべく急いでくれないか。談笑する時間も縁も無いのだから」
『お前は!』
そこにいたのは、あの時、広場でカリオスを拘束した一団のリーダー。
この男のせいでカリオスはサーナに捕まり、拷問を受け、挙句の果てにこき使われている。
沸々《ふつふつ》と煮えたぎる怒りと共に、彼は自身の中でモヤモヤと感じていた疑問の一つが吹き飛んでいくのを感じる。
『あの伝令は、こいつが出したのか。くそ、ってことは、最初から踊らされていたのか? っていう事は、あの女もグルだな』
カリオスの想像の中でサーナがニヤニヤと笑っている。内心穏やかではないとはこのことであろう。
「自己紹介が遅れたな。私はバートン。そこのトアリンク族の男はダンガンだ」
「おうよ! 俺がダンガンだ!」
何事も無かったかのように話を進めるバートンを睨みつけてみるが、左程効果は無い。
やはりここでも、彼にできることなどなく、ただ肩を落として毒を吐くしかないのだ。
『はぁ……。これも全て思惑通りなんだろうなぁ』




