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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第2章 狼と女王

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第17話 女王

 トリーヌに連れられて辿《たど》り着いたのは、小さな小屋だった。


 小屋と言っても、ミノーラとカリオスがようやく入ることが出来るくらい小さなものだ。


 道の先で待っていたものがそんな小屋だったため、二人は少しの間立ち止まったが、促《うなが》されるように中へと入った。


 案の定、二人が入った時点でかなりの圧迫感《あっぱくかん》を覚える。


 小屋は三方向が壁となっており、そのうちの一つに扉が付いている。


 残りの一方向は茨《いばら》による柵が設けられている。


 二人はその柵の隙間《すきま》から外の様子を伺《うかが》うことにした。


 先程までは遠巻きに様子を見ていたトアリンク族が、一斉に小屋の周りの枝へ集《つど》い、言葉を発し始めたのだ。


「よそ者だ」「こんな時に、なんて馬鹿なことを」「なぜこうも頻繁《ひんぱん》によそ者が来るのだ」「すぐに放り出してしまえ!」


 口々に語られる内容は、どうも二人の存在を疎《うと》んでいるものが多い。


 そんな言葉が飛び交う中、ミノーラは頭上に違和感を感じたため、カリオスに声を掛ける。


「カリオスさん。帽子がズレちゃったみたいなので、元に戻してくれないでしょうか」


 目と眉《まゆ》と眉間《みけん》の皺《しわ》で不服を唱えながらも、帽子を元の位置に戻してくれるカリオス。


 なんだかんだ言って、従順なのだ。


「ありがとうございます。ここ、狭いですね。早く出たいです」


「静まれ!! 今ここに、審問の儀を執り行う!」


 そんな号令があたりに響き渡ると、先ほどまで飛び交っていた言葉が森の奥へと消えていった。


 まるで、言葉が木の枝に張り付いたかのようだ。


 その号令をかけたのは、誰あろう、トリーヌである。


「しんもん? それって……」


「黙らぬかっ!!!」


 つい言葉を発してしまった彼女に叱責《しっせき》が飛ぶ。


 いまいち怒られた意味が分からない彼女だったが、トリーヌの気迫に圧倒され、尻尾と耳が項垂《うなだ》れてしまう。


 そっと背中を撫でてくれるカリオスさんにはあとでお礼をしよう。


「皆も知っての通り、先刻《せんこく》、例の人間によって女王の眷属《けんぞく》が攫《さら》われた。怒りに身を任せた女王は、全ての精霊のコントロールを失なっている。このままではこの聖樹に影響を及ぼしかねない」


 堂々とした声音で述べるトリーヌは、そこでいったん言葉を切った。


 再び訪れる静寂《せいじゃく》。


 それが、ミノーラの気持ちを落ち着かせたのか、彼女は冷静に考えることが出来た。


 まず、今の話に出てきた『例の人間』とやらが、ミノーラの目的の人物である可能性は高い。


 そして、カリオスも同じことを考えているに違いない。


 ただ、それ以外の話は、彼女にとって馴染《なじ》みのない話だった。


 しかし、それを誰かに聞いて確認をするわけにもいかず、今は考えながら続きを聞くしかないのだろう。


 そんな思考の最中に、トリーヌが口を開く。


「そんな矢先《やさき》! この人間と狼が聖樹《せいじゅ》の麓《ふもと》に現れたのだ。皆の中で人間に対する不信感が募《つの》っているのは理解している。だが、こ奴らはサーナの使いだと言い、親書《しんしょ》まで携《たずさ》えていた。ここはひとつ、こ奴らに審問を執《と》り行い、処遇《しょぐう》を決定するべきであるとワシは考える。以上であります。親様」


 そう言葉を締めくくったトリーヌは、一度大きく翼を広げたかと思うと、しなやかに折りたたんだ。何らかの作法なのだろうか。


 そのしぐさが終わるのを待っていたかのようなタイミングで、別の声があたりに響く。


「よろしい、審問を執り行います」


 その声はトリーヌの堂々とした声とは打って変わって、あらゆるものをすり抜けて耳に直接届くような、透き通った声だった。


 その声の主がどこにいるのか、様々な枝に視線を泳がせた彼女は、声が移動していることに気が付いた。


 次いで、柔《やわ》らかな羽が空気をつかむような気配を頭上に感じる。


「それでは、お二人とも出てきてくださいませ」


 そう告げた声の主は、どうやら二人の入っている小屋の上にいるようだ。


 それに気が付いた二人を急《せ》かすように、背後の扉が開かれる。


 ミノーラは我先にと小屋の外へと飛び出し、声の主を仰《あお》ぎ見た。


 真っ白な羽毛に包まれた、一人の女性。


 他のトアリンク族とは違い、まん丸でクリっとした目つきや短く丸みを帯びた嘴《くちばし》が彼女の雰囲気に柔らかさと愛嬌《あいきょう》を添えている。


 そんな彼女を見て、思わず声が漏れてしまうのだった。


「……クゥ~~ン」

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