第17話 女王
トリーヌに連れられて辿り着いたのは、小さな小屋だった。
小屋と言っても、ミノーラとカリオスがようやく入ることが出来るくらい小さなものだ。
道の先で待っていたものがそんな小屋だったため、二人は少しの間立ち止まったが、促されるように中へと入った。
案の定、二人が入った時点でかなりの圧迫感を覚える。
小屋は三方向が壁となっており、そのうちの一つに扉が付いている。
残りの一方向は茨による柵が設けられている。
二人はその柵の隙間から外の様子を伺うことにした。
先程までは遠巻きに様子を見ていたトアリンク族が、一斉に小屋の周りの枝へ集い、言葉を発し始めたのだ。
「よそ者だ」「こんな時に、なんて馬鹿なことを」「なぜこうも頻繁によそ者が来るのだ」「すぐに放り出してしまえ!」
口々に語られる内容は、どうも二人の存在を疎んでいるものが多い。
そんな言葉が飛び交う中、ミノーラは頭上に違和感を感じたため、カリオスに声を掛ける。
「カリオスさん。帽子がズレちゃったみたいなので、元に戻してくれないでしょうか」
目と眉と眉間の皺で不服を唱えながらも、帽子を元の位置に戻してくれるカリオス。
なんだかんだ言って、従順なのだ。
「ありがとうございます。ここ、狭いですね。早く出たいです」
「静まれ!! 今ここに、審問の儀を執り行う!」
そんな号令があたりに響き渡ると、先ほどまで飛び交っていた言葉が森の奥へと消えていった。
まるで、言葉が木の枝に張り付いたかのようだ。
その号令をかけたのは、誰あろう、トリーヌである。
「しんもん? それって……」
「黙らぬかっ!!!」
つい言葉を発してしまった彼女に叱責が飛ぶ。
いまいち怒られた意味が分からない彼女だったが、トリーヌの気迫に圧倒され、尻尾と耳が項垂れてしまう。
そっと背中を撫でてくれるカリオスさんにはあとでお礼をしよう。
「皆も知っての通り、先刻、例の人間によって女王の眷属が攫われた。怒りに身を任せた女王は、全ての精霊のコントロールを失なっている。このままではこの聖樹に影響を及ぼしかねない」
堂々とした声音で述べるトリーヌは、そこでいったん言葉を切った。
再び訪れる静寂。
それが、ミノーラの気持ちを落ち着かせたのか、彼女は冷静に考えることが出来た。
まず、今の話に出てきた『例の人間』とやらが、ミノーラの目的の人物である可能性は高い。
そして、カリオスも同じことを考えているに違いない。
ただ、それ以外の話は、彼女にとって馴染みのない話だった。
しかし、それを誰かに聞いて確認をするわけにもいかず、今は考えながら続きを聞くしかないのだろう。
そんな思考の最中に、トリーヌが口を開く。
「そんな矢先! この人間と狼が聖樹の麓に現れたのだ。皆の中で人間に対する不信感が募っているのは理解している。だが、こ奴らはサーナの使いだと言い、親書まで携えていた。ここはひとつ、こ奴らに審問を執り行い、処遇を決定するべきであるとワシは考える。以上であります。親様」
そう言葉を締めくくったトリーヌは、一度大きく翼を広げたかと思うと、しなやかに折りたたんだ。何らかの作法なのだろうか。
そのしぐさが終わるのを待っていたかのようなタイミングで、別の声があたりに響く。
「よろしい、審問を執り行います」
その声はトリーヌの堂々とした声とは打って変わって、あらゆるものをすり抜けて耳に直接届くような、透き通った声だった。
その声の主がどこにいるのか、様々な枝に視線を泳がせた彼女は、声が移動していることに気が付いた。
次いで、柔らかな羽が空気をつかむような気配を頭上に感じる。
「それでは、お二人とも出てきてくださいませ」
そう告げた声の主は、どうやら二人の入っている小屋の上にいるようだ。
それに気が付いた二人を急かすように、背後の扉が開かれる。
ミノーラは我先にと小屋の外へと飛び出し、声の主を仰ぎ見た。
真っ白な羽毛に包まれた、一人の女性。
他のトアリンク族とは違い、まん丸でクリっとした目つきや短く丸みを帯びた嘴が彼女の雰囲気に柔らかさと愛嬌を添えている。
そんな彼女を見て、思わず声が漏れてしまうのだった。
「……クゥ~~ン」




