80 ……早く、そこから逃げて。
空想世界の考察
世界とは頭の中にある。
頭の中とはつまり、世界(再構築)、そのものである。
幽霊は自分の頭の中にいる。(だから他人には見えない)
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……早く、そこから逃げて。
穏やかな日。静まり返った放課後の教室の中。そこにいるのは二人の女の子。色は赤。夕焼けの色。二人は開けっ放しにした窓のそばに並んで立って、いつものように会話をする。気持ちの良い風が教室の中に吹き込んでいる。カーテンは揺れている。女の子たちはお互いの顔を見つめ合う。
空を見たいとは思わないの?
夢を見るってどういうこと?
遥の夢って、いったいなんなの?
私の夢は宇宙船を作ることだよ。自分で設計した宇宙性を作って、それに乗って宇宙をずっと旅行するんだ。
夏の夢はなに?
私の夢は、友達を見つけることだよ。
友達?
うん。友達を見つけて、そのことずっと、一緒にいることだよ。
遥は夏の目を見つめる。
友達ならもう見つかってるよ。私、夏の友達でしょ? そう言って遥は笑う。
うん。そうだね。と、成長した夏は思う。
そこで瀬戸夏の気分はとても悪くなった。
気持ちが悪くて、夏は吐き気を覚えて、口に手を当てて体をくの字に曲げた。
大丈夫? 遥が言う。
……全然、大丈夫じゃないよ。夏は心の中で遥にそう返事をした。
瞬間、遥は消えて、夏のいる世界は真っ暗な闇になった。
暗い、海の底のような闇の中で夏はうずくまって思考する。
遥。
遥はどうして私に嘘をつくの?
お願い。
お願いだから、
私に嘘をつかないで。
夏の思考は混乱する。
これは現実ではない。
これは夢だ。
悪い、夢。
だからもう、悪い夢は終わらせて、とても気持ちのよい、目の覚めるような夢を見ようと夏は思った。いつものように遥を思い、その遥に邪魔をされ、夏の夢は空の中で宙ぶらりんになって、誰もいないのに、風に揺れるブランコのように、ゆらゆらと揺れて、曖昧なまま、朝を迎えることになるのだろうな、と夏は思っていた。
でも今回は違った。
それは夏の心の片隅に、遥だけではなくて木戸雛という名前の女の子がきちんと形と輪郭を持って、存在していたからだった。




