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なんで人間は死ぬのだろう?
そんなことを夏は考える。
この世界に絶望するからだろうか? それとも人間が嫌いになるからだろうか? それとも、それが神様の決めた人間の運命だからだろうか?
夏は余計なことばかり考えている。
きっと体が疲れているからだと思う。
夏の体に溜まった疲労は、夏から生きる力を奪おうとしている。
夏はぎゅっと自分の体を抱きしめた。
悲しい思いが、夏の心の中に溢れ出している。
眠れない。
こんなにも夜は暗いのに、……全然眠れない。
だから夏は、なぜ私は夜中に、こんなことを考えているのだろう? と考えてみる。
きっと夏が遥と違って、暇を持て余しているからだろうと思う。
……一生懸命に頑張っている人は、一生懸命に生きている人は、きっとこんなことを考えたりはしないはずだから。
そんなことを夏は思う。
雛ちゃん。
頭の中で、そう呼びかけても返事はない。
夏は再び、雛の姿を見失ってしまったのだ。
もう一度雛に会いたいと夏は強く思う。
夏は笑っている雛の顔を思い出す。それから人形のような雛の顔を思い出す。
すると、夏の胸はとても強く、とても深く、痛んだりした。泣かないと決めたはずなのに、今すぐにでも泣きそうになる。
私は弱い。
夏は思う。
私はずるい。
夏は思う。
夏は目を開けて闇を見る。
暗く、静かな夜だ。
夏の隣には大きなベットの中で、安らかな顔をして、ぐっすりと眠っている遥がいる。
夏が顔を近づけると、
「すぅー、すぅー」
と、遥のかわいい寝息がちゃんと夏の耳に聞こえてくる。
夏はその音を聞いて遥を思う。
それからしばらくして、夏は遥を起こさないようにそっとベットの中を抜け出した。眠ることを諦めたのだ。
夏は足音を立てないように、静かに歩いて部屋を出る。
そしてあてもなく無音の研究所の通路をぶらぶらと歩いてみた。
明かりは夏の頭上にある照明だけ。
あとは全部が真っ暗な世界。
真夜中のお散歩。
少し歩けば、眠くなるかな?
そんな気軽な気持ちで始めた行動。
でも、どことなく、どきどきする。
夏は歩く。
知らない場所。
自分のまだ行ったことのない場所を目指して、ただゆっくりと歩いていく。




