表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏(旧)  作者: 雨世界
62/87

62

 雛の部屋を出たあとで、夏は一人で泳ぎに出かけた。

 雪のように白いスロープ状の階段を降りて、一人で不思議な海までやってきた。

 階段を降りた先にある真っ白な更衣室まで移動して、そこにあるロッカーを開けると、まるでこの夏の突然の行動を予測していたかのように、そこには白い水着が一着だけ、置かれていた。

 その水着はどうやら夏がこの前着用した水着と同じもののようだった。

 同じデザインの水着が何着もあるのかもしれないけれど、夏はなぜかそんな気がしていた。きっと遥が夏の水着を洗濯して、いつでも泳げるようにとロッカーの中に置いておいてくれたのだと思った。

 その隣にはさも当然のように白いタオルも置いてある。

 夏はふう、と一度ため息をついてぼんやりとした眼差しでそれらを見る。

 水着を手にとって空中に広げながら、夏は洗濯機の中でくるくると回る水着の様子をイメージした。

 少しだけ水着を眺めてから、夏は着替えをすることにした。

 銀色の拳銃を入れたホルスターを置くと、ロッカーはかたん、と冷たい音を立てた。

 下着も脱いで、生まれたままの姿になった夏は、水着に着替えをして、それから海まで移動すると、そのまま、どぼん、という音を立てて勢いよく、水の中に飛び込んだ。

 瞬間、世界が変わった。

 水は生温かくて気持ち良かった。

 自然と夏の顔は笑顔になる。

 水の中に潜り、軽く泳いだあとに、夏は水面から顔を出して、そこから空に浮かぶ偽物の月を見つめた。

 しばらくの間、夏はそうやってぼんやりとしながら海の上に浮かんでいた。

 不思議な海の浮力は、普通の海の浮力よりも、少しだけ力が大きいような気がした。

「なにしてるの?」

 遥の声が聞こえた。

 はじめは幻聴かと思った。

「夏。そんなところでなにしているの?」

 声は鮮明に聞こえた。

 夏は体を動かして視線を声の聞こえる方向に向けた。

 するとそこには遥がいた。

 遠くのほうで小さな遥が夏に向かって手を振っている。

 夏は泳いで遥のいる場所まで移動しようとした。

 移動しようとして、自分が今、思っている以上に疲れている、という現象に初めて気がついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ