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走りながら、夏は空を見上げる。太陽は今、そんな夏の真上にある。
それを確認して、夏は視線を大地の上に戻すと、それからは走ることに集中した。
走ることは夏の趣味だった。
イヤフォンを耳につけ、好きな音楽を聴きながらランニングをする時間は、夏にとって最も楽しみな時間のうちの一つだった。夏は今日も、耳にイヤフォンをつけている。そこからは昨日、遥と一緒に食事をしながら聞いた夏のお気に入りの音楽が流れていた。
音楽を聴きながら、夏は気持ち良く、風を切るようにして、走る。
風の中で、夏の心の中にある色々な思いが溶け出しては、消えていく。
真っ白になる。
走ってよかったと思える瞬間だった。
本当は距離や速度、それにかかった時間を記録したかったのだけど、それらはドーム内では禁止されていてどれも計測することができなかった。夏は自分の中にあるイメージと本物の肉体を重ね合わせるようにして、地上の上を走り抜けた。
息が荒くなり、それからたくさん汗をかいた。
ドームの中は永遠と思えるほど、広かった。どこまで走っても終わりが見えてこなかった。実際に訪れたドームの広さは夏の予想をはるかに上回っていた。
遠くには初めてドームの中を歩いたときと同じように、白い風車が並んで見えた。
夏は森を抜け、さらにその先に進んだ。
するとそこには大きな湖があった。
それを見て、夏は少しだけ驚いた。
湖の水面は太陽の光を反射して、きらきらと輝いていた。夏は少しだけ速度を落として、湖をできるだけ横目に見ながらそのエリアを走り抜けた。
それから夏は白い風車の立つ、なだらかな丘の上までやってきた。
風車まで続く上り坂は、それなりにきつかった。




