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「そんなことはないよ。私たちは、きっとまた会えるよ」遥が言う。
その言葉は夏の期待した通りの答えだった。
とくんと一度、夏の心臓が高鳴った。
「本当に?」
夏は遥の話に興味を持った。
ごろんと寝返りをして夏は遥に目を向けた。
「うん。本当」
「でもさ、私は死後の世界を信じていないんだよ? 不敬なものだよ? それなのに出会えるの?」子供のような声で夏が言う。
「うん。出会える」にっこりと笑い遥が言う。
「夏が信じていなくても私が信じている。だから私があっちに行ったらさ、きっと夏を見つけてみせる」
「私を?」
「うん。夏を」
遥は優しいな、と夏は思った。
「そのとき、私はどうなっているんだろう?」
「どうって?」
「見た目とか、記憶とか、思いとか」
夏は考える。
でも、どうしても死んだあとの自分の姿というものをうまくイメージすることができない。
「そんなの、どうにでもなるよ」遥が言う。
「どうにでも?」夏が言う。
「そう、どうにでも。夏の好きなようにしていいんだよ」
私の、好きなように?
「誰も怒ったりしない。誰も不可能だなんて言わないよ」
そうかもしれない。
そういうことも、ありなのかもしれない。
夏は考える。
深く、深く、考える。
「それにもしさ、死後の世界を信じていない夏がさ、そこでだよ、抜け殻みたいにからっぽになった肉体だけを放り出してさ、どっかに消えちゃってたとしてもさ、大丈夫だから、安心して」
「安心?」
「そう。安心」と遥は言う。
「私が夏の体を保護して、どんな方法を使ったとしても、夏をそこに連れ戻してみせるよ。そして、また二人で一緒に遊ぼう。今度は今みたいに誰もいない世界で、二人だけで暮らそう」
私を置いてどっかにいなくなったのは遥のくせに、と夏は思う。
でも、その言葉は嬉しかった。
「うん。そうだね」
だから夏はそう言った。
気分の良くなった夏は空を見上げて、ボートの中で軽く背伸びをした。
抜け殻。
その言葉は、夏に雛を連想させた。




