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夏はすでにドームに覆われた緑色の大地の上を自分が走る姿をきちんとイメージしており、コースの目星もつけていた。ドームで借りたこの靴も靴底がきゅっきゅっと気持ちの良い音を立て、走ることに支障はなさそうだったし、運動用の予備の服もリュックの中にちゃんと用意してあった。
準備は万全だ。
あとは遥の許可されもらえれば、夏は今すぐにでも走り出すことができた。
「あるよ」間をおかずに遥が言う。
「え? あるの?」予想外の答えに夏が大げさに驚いた。
「うん。あるよ。ついてきて」
遥が言う。
二人はキッチンでカップを洗って、それから移動を開始した。
夏は遥がどこに向かっているのか見当もつかなかった。
ただ遥は地上には向かわなかった。
遥は真っ白な今朝、降ったばかりの雪で作ったかのようなスロープ状の階段を降りて、地上ではなく地下に向かった。
そこに体育館のような広さを持つ空間があるのだろうか? 夏はそんなことを考えた。雪で埋もれた冬の体育館。
今までよりもひと回り大きなドアの前で遥が立ち止まる。
ドアが開き、二人はその部屋の中に入る。
するとそこは体育館ではなかった。
不思議な青色の水が世界の半分を占めている、不思議な、不思議な海だった。




