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だとしたら脅しは無駄か。
「はぁー」
と、ため息をついて夏は拳銃を下ろした。
弾丸も貫通しないのかもしれないな。
部屋の中を見渡してみると壁際に移動できる小さな椅子が置いてあった。初めてこの部屋に来たときはなかったものだ。夏は椅子を移動させ、雛の目の前に座ってみた。
するとこちら側と向こう側の構図がそっくり同じになった。
違いは椅子に座っているのが夏か雛かの違いだけ。
そこから夏はじっと雛の姿を観察する。
雛は、相変わらず美しかった。
姿形が整いすぎている。やはり、人間というよりは人形のように思える。瞬きもしない。呼吸もしているようには見えない。だけど、生きている。雛はアンドロイドじゃない。人間の女の子なのだ。夏と同じ人間の……。
「気持ち悪い」
夏はつぶやく。
それから立ち上がり、椅子を元あった場所に戻して、部屋を出た。通路を歩き寝室まで戻ろうとする。
すると寝室のある通路の真ん中に遥がいた。
起きている遥の姿を見て、夏は少しだけ驚いた。
「どこ行ってたの?」遥が言う。
「トイレ」
夏は遥に嘘をついた。




