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その日、久しぶりに木戸遥は夢を見た。
それは随分と懐かしい夢だった。
場所は遥が通うことをやめてしまった学園。
その中の三階の端っこにある日差しの差し込む音楽室の中。
そこには学園の制服を着ている遥がいて、そして黒いグランドピアノを真剣な眼差して弾いている遥と同じ制服姿の夏がいた。普段何気なくおしゃべりをして過ごしていると忘れてしまうこともあるのだけど、こうして優雅にピアノを弾いている夏は、確かに正真正銘の瀬戸家のお嬢様だった。
遥は椅子に座っていて、夏の奏でるピアノの音を静かに聞いている。
おてんばでいつも大地の上を走り回っているというイメージのある夏だけど、こうして奏でるピアノの音を聞いてると、本当はひどく繊細な感情を持っている子なんだな、と遥は感じた。
音がか弱い。
夏の音はとても美しかったけど、繊細すぎて、弱すぎて、地面の上に落として仕舞えば、一瞬で壊れてしまいそうな雰囲気がした。
聞いている人を不安にさせる音。
それがいかにも夏らしかった。




