2
「はぁ~」
と、そこまで考えたところで瀬戸夏は小さなため息をついた。
ま、別にいいんだけどね。だから私はこうして遥を追いかけているわけだしさ。
そう思って夏は笑う。笑ってから、あ、私ってまだ笑えるんだと少しだけ驚いた。
あの日、なんの前触れもなく、急に私の前からいなくなった遥。からっぽになった遥の机を見たときの感情を私は今でも忘れることができない。
その日の夜、夏は悔しさで涙を流した。
自分のためではなく、誰かを思って流した初めての涙。その涙のあとは今もはっきりと夏の頬の上に残っている。目には見えなくても、ううん、目には見えないからこそ、より一層、それがはっきりと感じられた。その涙のあとを乾かすために、夏は今日まで生きてきたのだ。
「よし。じゃあ、気合をいれて会いに行きますか」
そんなことをつぶやいて、瀬戸夏は再び、舗装された道の上を力強い歩調で歩き出した。
目的地はすぐそこだ。
そこまでたどり着けば、長かった私の旅は終わりを告げる。
それが今から待ちきれない。
木戸遥のことを追い求める旅の途中、夏は遥に初めて出会ったときのことをよく思い出していた。それは夏の内側にあって、もっとも輝きを放っている思い出だった。




