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第四章 深まる謎と、本当の始まり②

 「ソウゴさん、ソウゴさん。そろそろ着きますよ。起きてください。」

 優しい少女の声が、俺の耳元で鳴っている。いつまでも聞いていたいと思えるような、澄み切った声だった。俺はぼんやりとする頭を左右に振りながら、目を開いた

 「ん?……ああ、もう到着か。」

 「はい、もうすぐお城です。」

 「まったく、だらしないったらないわね。私たちがこれから誰に会うか、本当にわかっているのかしら。」

 相変わらずの厳しい口調に、俺は苦笑いを浮かべた。この声にも、もう慣れたもんだ。

 「わかっているよ。これから女王さまに謁見するんだろう?」

 そう。阿久津を捕まえて数日。俺たちはファブラの女王の元へと向かっていた。異世界からの犯罪者及び追跡者(もちろん俺のことだ)について、そしてその犯罪者の一人を捕まえたことを報告するためだ。

 俺たちは今、馬車に乗っていた。城の方で用意をしてくれたらしく、本部の目の前に止まっていた。なかなか豪華な装飾の施された、立派な馬車であった。わざわざそんなものまで準備してくれるなんて、気の利いた城である。馬車なんてガタガタして大変そうだと思っていたが、予想以上の乗り心地の良さのためか、思わず眠ってしまっていた。

 「あっはっは。今ならどれだけ眠ったって問題ないさ。だけど、陛下の前で眠るのだけは勘弁しておくれよ。」

 「もちろんです。ベルナルダさん。」

 俺の返事に、ミアはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。それを見て、ヴェロニカはクスクスと笑っている。

 「今回は阿久津を捕まえたっていう功績が認められたから馬車まで用意してくれたんだ。いつもはこんなことないからねえ。」

 「そうですよね。」

 そもそも、女王と謁見ができるなんてこと自体、恐らくは珍しいのだろう。これは、俺にとっては大きなチャンスだ。女王に賀東たちの危険性を強く伝えることができれば、俺の追跡もやりやすくなるはずだ。

 馬車が速度を落とし、止まった。窓からは城門と城を囲う堀が見えた。

 「到着致しました。」

 御者が顔を出し、俺たちにそう言った。

 「さて、行くよ、あんたたち。堂々と胸を張って、舐められないようにね!」

 言われるまでもない。俺は胸を思い切り反らして見せた。それを見て吹き出すミアとヴェロニカ。うむ、自分らしくないことをしてしまった。少しテンションが上がりすぎているようだ。これなら謁見中に眠ってしまうこともないだろう。


 城の中も、俺の予想以上にきらびやかであった。大理石でできた床や壁、そこら中に置かれた豪華な調度品。広間の真ん中には巨大なシャンデリアが吊るされていた。栄えている国の城とは、こうも立派なものなのか。

 そんな中を、俺たちは城の使いのものに連れられて進んで行った。巨大な階段を登り、長い廊下を歩く。壁には絵画が何枚も並んでいた。そこに描かれているのは、歴代の王様たちか。

 「到着いたしました。謁見の間でございます。」

 その言葉とともに、使いのものは仰々しくお辞儀をした。目の前には大きな両開きの扉。ここから先は俺たちだけで進め、ということなのだろう。

 慣れた様子でベルナルダが扉をノックした。返事はすぐだった。

 「入りなさい。」

 凛とした美しい声だった。

 「失礼します。」

 ベルナルダを先頭に、俺たちは部屋へ入っていった。

 謁見の間も、極めて豪勢な部屋であった。赤い上質な絨毯がひかれ、左右には兵士たちがずらりと並んでいる。部屋の奥は一段高くなっており、そこには大きな金色の椅子が二つ並んでいる。その左側の椅子に、女王と思われる人物は座っていた。

 ベルナルダは女王の前まで進んでゆき、片膝を立てて跪いた。俺たちもそれに習い、三人横並びに跪いた。

 「よく来たわね。」

 「招かれればどこにだって参上いたしますよ、女王陛下。」

 「あなただと本当にどこにでも現れそうで怖いわね。それで、そこの三人が犯罪者を捕まえたって言う?」

 「そうです。『猟犬』の一員であるヴェロニカ・レジェス、ミア・ヒロン、そしてオニヅカソウゴです。」

 「そう、三人とも顔を上げなさい。」

 この時、俺は初めて女王の顔を見ることができた。そこにいたのは、俺と大して変わらない年の頃と思われる少女だった。美しい銀色の髪の毛を腰まで伸ばし、大きな目は青く澄んでいる。そしてとんでもなく小顔だ。座っているにも関わらず、スタイルの良さは一目瞭然であった。ヴェロニカも美人だが、女王は彼女とは異なるベクトルで美しい。見たものをハッとさせる力が、その容姿にはあった。

 「女王として、まずはあなたたちに感謝するわ。凶悪犯を捕まえてくれてありがとう。これ以上放置していたら、どれだけの被害が出たかわからなかったわ。」

 思っていたよりも砕けた口調の女王さまである。

 「それに伴って、あなたたちに褒賞を与えます。」

 そう言うと、女王は椅子から立ち上がり、段の際まで歩いて来た。それと同時に、部屋の隅から黒いローブを着た男が何か盆のようなものを持って近づいてきた。男は女王の前までやって来ると、恭しくその手に持った盆を差し出した。その上には、小さなメダルのようなものが乗っていた。

 「三人にはこのメダルを与えます。一人ずつ来なさい。まずは、ヴェロニカ・レジェス。」

 まずはヴェロニカが、次にミアが受け取りに行った。ヴェロニカはそうでもなかったが、ミアは緊張しているのか手と足が同時に前に出てしまっている。これは少々以外であった。可愛いところもあるではないか。後でからかってやろうか、いや、危険だやめておこう。

 「最後に、オニヅカソウゴ。」

 遂に、俺の番がやって来た。ミアの面白ウォーキングを見たおかげで、俺自身の緊張はだいぶ解れていた。さっと立ち上がり、スムーズに女王の元へ向かう。途中でミアの苦々しそうな顔が視界にに入った。

 「ファブラ女王、ソフィア・ファブラより、褒賞を与えます。」

 そう言うと、女王は俺の首にメダルをそっとかけた。俺は深々とお辞儀をした。こう言う時、なんて言えばいいのだろうか。「ありがたき幸せ」とでも言っておくべきなんだろうか。所詮俺は一般市民の、しかもまだ未成年である。その辺のマナーはよくわからなかった。

 顔を上げると、女王は俺の顔をまじまじと見つめていた。

 「オニヅカソウゴ。変わった名前ね。ベルナルダから報告は受けているわ。あなたが門から現れた異世界人ね。」

 「……その通りです。」

 「ふむ。」

 それから数秒間、女王は手を顎に当てて俺の顔を観察していた。これだけの美人に見つめられると、どうにも落ち着かない。今になって心臓の鼓動が早くなってきた。

 「そんなに覇気のある顔には見えないけれど。あなたは異世界からやってきた犯罪者を追ってきたのよね。」

 「はい。奴らは危険です。阿久津のような凶悪犯が最大で四名やってきているはずですから。」

 実を言うと、俺の追っている賀東は他の犯罪者と比べると単純な凶悪度では見劣りする。他の犯罪者が複数名の死亡に関わっているのに対し、賀東はわかっている限りでは一人しか殺害していない。もちろん、その時点で重罪ではあるのだが。また、奴の起こした誘拐事件の詳細がわからない以上、俺の両親の死に関わっている可能性はある。だが、他の連続・大量殺人鬼たちに比べれば、犯罪者として多少小物であることは事実だ。

 しかし、この場では決してそうは言えない。もしそんなことを言って、賀東の捜査の優先度を下げられてしまっては元も子もない。俺はあくまで、四人の凶悪犯罪者として女王に説明した。

 「そう。やはり危険ね。ありがとう。下がりなさい。」

 俺はもう一度礼をすると、元いた位置に戻った。まだ少し顔が赤い。今度はニヤニヤするミアの顔が見えた。お前の方が余程恥ずかしかったぞ!

 「ベルナルダ。さっきもソウゴが説明してくれたけど、今このファブラには厄介な危機が訪れている、そう言う認識でいいわよね。」

 「はい。対応が遅れれば、どれだけの命が危険にさらされることになるやら、わかりません。」

 ベルナルダの言葉に、女王は頷いて答えた。先ほどまでとは違う、鋭い声だった。

 「いいわ。『猟犬』に命じます。異世界からの犯罪者四名を、必ず捕まえなさい。ソウゴにはファブラでの生活の自由を与えます。その代わり、何があってもその犯罪者たちを捉えなさい。いいわね。」

 「承知いたしました。寛大な対応、感謝いたします。」

 「白々しいわね、ベルナルダ。あなたはこうなることがわかっていてソウゴを『猟犬』に入れたんでしょう?職員たちが事務手続きに追われててんてこ舞いになっていたわよ。」

 「それはそれは、ご迷惑をおかけしたものです。」

 ベルナルダが深々とお辞儀をしたが、それは実にエレガントなものであった。

 「食えない女。まあ、そんなことはどうでもいいわね。ソウゴ。」

 「はい。」

 突然名前を呼ばれたため、内心とても焦った。その焦りが外に出ていなければ良いのだが。

 「わかっていると思うけれど、あなたの滞在を許可するのはあくまで凶悪犯を捕まえるためよ。もしその活動実績が見られないようならば、許可を取り消して追放するからそのつもりで。」

 「……承知しました。」

 追放か。もしファブラから追放された場合、いったいどうなってしまうのだろうか。島流しにでもあうのだろうか。

 「話は以上よ。行きなさい。」

 「それでは、失礼します。」

 ベルナルダが立ち上がる。再び俺たちも彼女に習って立ち上がった。その時、女王の顔を見たが、彼女は何か考え込んでいるようだった。女王は見ていなかったかもしれないが、俺たちはもう一度深々とお辞儀をして、謁見室から出て行った。


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