第三章 脱獄犯、阿久津玄二③
洞窟はさらに先へと続いていた。少しずつ、息苦しさを感じてくる。実際に酸素が少ないのかもしれない。
「ソウゴさん。別れ道です。」
見ると、確かに道が二股に分かれている。右側の道にはトロッコの線路が引いてあり、左側にはない。
「奴はどっちに行ったんだろう。」
「足跡は、さすがにわからないですね。」
地質の関係だろう、地面は足跡がつかないほどには固かった。
「ここで道を間違えたら、目も当てられないな。」
「しかし、どちらかはわかりません。二手に分かれますか?」
それが確実なんだろうが、いざ奴と出会った時に一人だけと言うのはぞっとしない。さて、どうするべきか—。
「誰か!助けてくれえ!」
その叫び声は、明らかに右側の道から聞こえてきた。
「こっちだ!」
俺たちは駆け出していた。おそらく叫んだのは『赤いトサカ』の一員だろう。ちらりと胸の中に、盗賊が襲われてもいいんじゃないかと言う考えがよぎる。しかし俺はそれを振り払った。なんて酷い。そんなことを考えるなんて、どうかしている。
それにしても、思っていたよりも道が長い。奴は今どこにいるんだ!走って走って走って!ようやく俺たちは、三度開けた場所に出た。俺たちは慎重に入り口から中を伺う。
そこは二つ目の広間と同じく、非常に暗い空間だった。幸運にも、今回も奴は僅かな松明の下にいた。その近くには、何人かの人間が転がっていた。ここからではあの人間たちの生死は判断がつかないが、どちらにしてもあの位置にいては、怪物の食料になる未来を逃れることはできないだろう。その脇には、トロッコが一台置置かれている。その中には石炭のようなものが入っていた。
「このままじゃ、被害者が増えてしまう。」
しかし、奴は転がっている人間を食らおうとはしなかった。それどころか、フラフラ反対側へと離れていく。その先にあるものは、鉄格子?
「その向こうです。ソウゴさん。」
「あ、あれは。」
鉄格子の向こうにあったもの、それは『黄金の聖女像』だった。現物を見たことのない俺でも、一目でそうだと理解できる。それだけ精巧な作りであった。暗い場所でも、その存在感は格別だった。艶のある表面に松明の炎が映り、きらきらと輝いている。他にも色々と置いてあるが、聖女像の輝きはその中でも格別であった。
「宝物庫でしょうか。」
「そうらしいな。」
奴は鉄格子に近づくと、両手で掴み、思い切り引っ張った。すると、なんと言うことだろうか。いとも簡単に鉄格子は曲がり、人一人通れる隙間ができた。
「アア、ウゥウ。」
奴は呻き声を上げながら聖女像へと近づいていく。ゆっくりと、まるで生き別れになった家族と再会するかのように肩を震わせ、一歩一歩進んでいく。
「まさか、奴の目的は聖女像だって言うのか?」
「わかりません。しかし、明らかに聖女像に惹かれているようです。」
遂に、奴は聖女像を手に取った。そして崇拝するかのように頭上へと持ち上げる。
「アウ、アァアア!」
その声は先ほどと比べて遥かに大きく、そして感動に満ち溢れていた。
どれくらいそうしていただろうか。数十秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。しかしそれは、唐突に終わりを告げた。
「アギャアア!」
突然奴は、聖女像を地面に叩きつけた。怪物の力に耐えられるほど、聖女像は頑丈にできていない。叩きつけられた聖女像は粉々に砕け散ってしまった。
「アアア、ウアアア!」
怪物はさらなる叫び声をあげる。その声は、まるで何かに裏切られたかのようにもの悲しかった。聞いているこちらの胸が苦しくなるほど、強い悲壮感に満ちている。
「……なぜかはわからないが、あの聖女像はお気に召さなかったようだな。」
「一体彼は、何を嘆いているのでしょうか。」
「わからない。正直、人を食べて回るような怪物に悲しみの感情があるなんて思ってもみなかった。」
奴は泣き続けている。泣きながら体を捩り、足を踏みならしている。事情を知らねば、哀れな存在なのかと錯覚してしまっていたかもしれない。しかし、奴は幾人もの命を奪った殺人犯なのだ。俺の中に同情心の類は全く生まれなかった。むしろ、まるで感情的な人間のように悲しんでいる姿を見て、警戒心が強まった。アレには人並みの知能があるのかもしれない。そうなると、危険度は限りなく高いと言える。
「……ん?」
奴が泣きながら、ひときわ強く地面を踏みしめた時だった。俺の視界の端で、倒れていた中の一人が動いたように見えた。ドシンドシンと洞窟中を反響する音の中、そいつは両手で体を起こそうとしていた。足をやられているのだろう、立ち上がることはできないようだ。
下半身を引きずりながら、そいつは怪物から離れようとしていた。少しずつ、少しずつ、怪物との間に距離ができる。しかし、すぐに限界が訪れてしまった。どうやら腕にも怪我をしているらしい。上半身を支え切ることができず、ばったりと倒れ込んでしまった。
「……ウウウ」
その音に、奴は反応した。奴はその場で振り向いた。その視界には、当然逃げようともがく人影が写ったであろう。
「ウウアアア!」
奴は又しても大声をあげると、その人影に向かって駆け始めた。
「まずい!」
俺の体は、自然と飛び出していた。すぐさま銃を構え、奴に狙いを定めた。そのまま引き金を引いて、弾丸を射出する。しかし奴は、煙のように俺の目の前から消えた。
「ソウゴさん、右です!」
反射的に言われた方へと銃を構える。しかし、それでも間に合わなかった。目にも留まらぬ速さで移動していた怪物の右手が、俺の胸に直撃した。
「うぐあ!」
衝撃で数メートル跳ね飛ばされる。奴は追撃を狙っているのか、そのまま俺に向かって走ってくる。体勢を立て直せない。ぶつかる!
「はあ!」
まるで、さっき見た光景。突然現れたオレンジ色の人影が、怪物に向かってステッキを振り回す。先ほど打たれた記憶があるからだろうか、一瞬怪物は怯み、また闇に飛び込み消えた。オレンジの少女は俺の腕を掴むと、トロッコの陰に飛び込んだ。
「あんた、何やっているのよ。見張っとけって言ったでしょう。」
「……済まない。新たな犠牲者が出そうだったものだから。」
そういえば、あの生き残りは逃げることができたのだろうか。さっきまでいた場所に目を向けるが、すでにその姿はなかった。
ミアはフンと鼻を鳴らした。
「それであんたがやられたら意味ないでしょう。」
耳に痛い。
「そんな事より、応援は?」
「こんな時に限って、本部に誰もいない!」
「そんな。」
「だから警ら隊の方にも連絡を入れておいた。すぐに部隊を編成してこっちに来てもらう手筈になっているわ。彼らがここにくるまで、何とか切り抜けないと。」
奴は俺たちを警戒しているのか、周りを高速でぐるぐると回っているようだった。その素早さと洞窟の暗さのせいで、目で捉えることは不可能に近い。その上、足音もほとんどしない。どこにいるのか把握するのは、困難であった。
「まずは、あの動きを止めないと。」
「そのためには、やはりヴェロニカの鎖か。」
「そうね。でもこのままじゃ当てられない。何とか隙を作らないと。」
「だったら、俺が囮になる。あいつが俺に向かって来たところを、鎖で縛ればいい。」
「バカなことを言っているんじゃないわよ。あんたさっきからアレの動きに翻弄されっぱなしじゃない。そんなことしたら、今度は確実に死ぬわよ。」
情けないことに、俺は言い返すことができなかった。確かに、あの怪物には二度もやられかけている。能力のおかげで動体視力は上がったのかもしれないが、こうも暗くてはそれも意味を持たない。
「囮は私が行くわ。私が松明の下まで行くから、アレが来たらヴェロニカに合図を。」
「……わかった。」
ヴェロニカの方を見ると、彼女と目があった。俺はミアの方を指差し、彼女に頷きかける。何となくだが、それで伝わったらしい。ヴェロニカも頷き返してきた。
「それじゃ、行くわよ。」
ミアがトロッコの陰から飛び出した。松明の元まで走る。これで、奴が出て来てもすぐにわかるはずだ。俺はミアの周りを凝視した。一瞬の判断が勝負を分ける。俺の反応が遅れれば、ミアの身を危険に晒しかねない。
松明の灯りの下で、走り抜ける黒い影が一瞬見えた。
「ヴェロニカ!」
黒い影がミアに躍り掛かる。それが当たるか当たらないかというタイミングで、ミアの姿が消えた。そして、入れ替わるようにしてヴェロニカの鎖が怪物に襲いかかる。さすがの怪物も、それを回避することはできなかった。全身に絡みつく鎖。俺たちは、奴の拘束に成功したのだ。
「やった!」
俺のすぐ後ろに、ミアはいた。怪物の爪が掠ったのか、腕から血を流している。
「これで、何とか—。」
「ウオオオオ!」
叫び声をあげながら、奴は暴れている。それに合わせて全身の鎖があちこち引っ張られている。
「グゴガアアア!」
その力は、俺たちの想定を遥かに超えていた。ギリギリと擦れる鎖。必死でコントロールしようとするヴェロニカ。しかし、奴はそれをまるで苦にしていないようだ。
「ガア!」
「あああ!」
一本、鎖が千切れた。後は一瞬だった。奴は全身の鎖をまとめて引きちぎり、再び走り回り始めた。
「ヴェロニカ!」
ミアがヴェロニカの元へ飛んで行った。すぐに俺も追いかける。ヴェロニカは、両腕で体を抱きしめながら、震えていた。
「大丈夫?ヴェロニカ!」
「……!」
言葉も出ないようだ。当然のことだろう。朝の試験の後にヴェロニカは言っていた。鎖を千切られると、まるで体が千切れたかのような痛みを負うと。今、十本近い鎖が千切られた。その痛みは想像を絶するはずだ。
「鎖……まだ……。」
「えっ?ヴェロニカ、何?」
意識を朦朧とさせながらも、ヴェロニカは必死に言葉を紡いでいた。
「一本……残っています……。」
「どういうこと?」
こちらに振り向いたミアに対し、俺は指を口に当てた。
何かが聞こえる。何かを引きずるような音。俺たちの周りを高速で回っている。
「奴に絡みついた鎖が、まだ残っているんだ。」
イサークとの試験の時には、鎖を溶かされた後、残りの鎖は消えてしまっていた。あまりの痛みに、ヴェロニカが能力を解除してしまったのだ。しかし、今回は違う。ヴェロニカは耐えたのだ。全身を引き千切られるような痛みから。
「よくやった、ヴェロニカ!これで奴の居場所がわかる!」
今までは目でも耳でも奴の居場所を知ることは不可能だった。しかし、ヴェロニカの鎖が残ったおかげで、今は奴の動きが聞き取れる。完全とは言い難いが、これは大きな進歩だ。
ジャラジャラ、ジャラジャラ。金属音はぐるぐると回っている。どうやら、外すという考えは奴にはないらしい。チャンスだ。今度こそ動きを止めてやる。
俺はトロッコの陰へと再び飛び込んだ。そして、目を閉じて、集中した。奴の足音をは、左、後方、右……。拳銃を握りしめ、タイミングを計る。
金属音が俺の前方にやって来た時、俺はトロッコから体を出した。目の前には暗闇、しかし俺は躊躇せずに引き金を引いた。洞窟を反響する銃声。弾丸は闇の中に消えていった。
一瞬の静寂。そして鳴り響く怪物の悲鳴。今再び、俺の弾丸が奴を捉えたのだ。俺はトロッコの陰から飛び出した。急いで奴のいる場所まで行かなければ。
俺は闇の中を走った。すぐ近くに奴がいるはずだ。奴は動いていない。金属音は全く鳴っていなかった。きっとそこらに倒れているのだ—。
走っていた俺の顔に、何かがぶつかった。俺はその衝撃で、後ろに転びかけた。
「痛っ。何が……。」
顔に何かべっとりとしたものがついている。生暖かく、生臭い。俺は、顔をあげた。目を凝らした。それによって、ようやくそれが何かを知ることができた。
それは、痙攣する人間だった。首から大量の血液が吹き出している。そして腹には弾丸の跡。もちろんそこからも血は流れていた。その人体は、誰かに首を捕まれ、吊り下げられていた。それが誰によるものか、考えるまでもなかった。
奴が人体の右肩に噛み付いた。そして、首を激しく降りながら、人体から右肩を引き裂いた。さらに大量の血液が、噴水のように湧き上がった。そして、人体の痙攣は止まり、ただの死体と化した。
俺は何が起きているのか理解した。奴は鎖を引きちぎって逃げる時、まだ生きていた『赤いトサカ』のメンバーを攫ったのだ。それは何故か、当然盾にするためだ。奴は、自分が拳銃で撃たれたことを理解しているのだ。だから、次に撃たれた時のための盾を準備した。実際は、俺の弾丸の前に盾は意味がなかっただろう。盾を貫いた弾丸は、次に奴に当たったはずだ。そうでないとあの悲鳴の説明がつかない。しかし、それは大きなダメージにはならなかったのだ。当たりどころの問題か、能力による貫通を逃れたためか、そこまではわからない。ともかく、奴はそこまで大きなダメージを受けず、盾代わりの人間を食らうことですぐさま回復したのだ。
奴は、食いちぎった右肩を噛み砕き飲み込むと、死体を投げ捨てた。そして、ゆっくりと右腕を振り上げた。俺は拳銃を構え、奴の腹に向かって引き金を引いた。しかし、弾は出ない。さっきのが最後の一発だったのだ。
「畜生!」
俺は後ろに一歩下がる。奴の爪が、俺の髪の毛を掠った。辛うじて躱すことに成功したが、それはあまり意味がなかった。俺の足が地面に着く頃には、奴の次の攻撃が目前まで迫って来ていたからだ。俺の胸に、奴の頭が激突する。俺は、為す術もなく弾き飛ばされた。あまりの衝撃に、呼吸もできない。地面に転がって目を開くと、奴が俺の上空に飛び上がっているのが見えた。そのまま踏みつけるつもりらしい。俺は体を必死に回転させた。奴の足が、さっきまで俺の胸のあった場所を踏みつける。ドシンという音が洞窟内を反響する。明らかに最初に食らった踏みつけよりも威力が上がっている。そもそもあいつ、だんだん大きくなっていないか?
俺は急いで立ち上がった。胸は苦しいが、どうやら骨は無事だったようだ。まだ動ける。応援が来るまでなんとか耐えなければ。
奴がゆっくりとこちらを向く。やはり、最初に見たときよりも明らかに大きくなっているようだ。人肉を食らって成長した、ということか。
「あんた、無事?」
隣にオレンジ色の髪がふわりと舞い降りた。
「ああ、何とかな。ヴェロニカはどうだ。」
「今は休んでいるわ。しばらく動くのは無理ね。」
「そうか、だったら。」
「ええ、不本意だけど、二人で向かうしかなさそうね。」
ミアがステッキを奴に向けた。俺も腰を落とし構えを取る。
「残念なお知らせだ。」
「何?」
「俺の銃は弾切れだ。もう撃てない。」
「……役立たず!」
何と言われてもしょうがない。それでも今は、奴をどうにかしなければならない。
奴が俺たちの方へと駆け出した。俺とミアも迎え撃つ。ミアが奴の攻撃をステッキで受け止め、俺が懐に潜り込み一撃を加える。
「アアアウア!」
しかし、大したダメージは与えられない。体が大きくなるにつれて、皮膚も硬くなってきているらしい。俺の拳程度で出来ることは、高が知れている。
今度は、俺に向かって阿久津の攻撃が飛んで来た。左腕で俺をなぎ払おうとする。
「ミア!」
「言われなくても!」
ミアが俺の肩に触れ、俺たちは飛んだ。あの奇妙な浮遊感に包まれて、俺たちが着地したのはトロッコの陰だった。
「ガアアアア!」
俺たちが突然いなくなったことに興奮したのか、奴が叫び声をあげた。
「くそっ!大したダメージを与えられない。それにあいつ、段々強くなっているぞ。」
「そうみたいね。食べれば食べるほど強くなる能力ってことかしら。」
あいつはこの洞窟で『赤いトサカ』のメンバーを何人も食べている。ミアの言う通りだとしたらとんでもないことになっているのかもしれない。押さえこめるのだろうか、あんな怪物を。
俺は首を横に振った。何を弱気になっているのだ。諦めてはいけない。それをさっき学んだばかりではないか。
「どんな能力にも、必ず弱点や制限が存在する。そうだよな。」
「ええ。当然あいつにもね。」
考えろ、考えるんだ。あいつの能力の弱点を。人肉を食らうことで回復、強化する能力。それに一体どんな弱点があるっていうんだ?
奴の咆哮が一段と大きくなってきた。俺たちがここにいることに気づいたのだろう。鎖をジャラジャラ言わせていたかと思うと、猛烈なスピードで走り出した。
「散開!」
ミアが叫んだ。俺は左側にジャンプした。俺たちの目の前に怪物が突っ込んで来る。その勢いは衰えることなくトロッコに衝突した。粉々に砕け散るトロッコ。飛び散る石炭。躱していなかったら、俺たちもああなっていたかもしれない。
「はあ!」
ミアが両手でステッキを振り上げ、奴の頭を思いっきり殴りつけた。グワンというあまり聞きたくないような音がした。人間相手なら、最低でも昏倒していたであろう。しかし、奴にはまるで効いた様子ではない。それどころか、すぐさま振り返るとミアに右手を振り下ろした。
「ミア!」
俺は思わず叫んだ。しかし、奴の右手は空を切っていた。
「何なのあいつ。さっきはあんなに嫌がっていたのに!」
ミアは俺の後ろに飛んでいた。焦って飛んだのか、少し息が切れている。
「嫌がっていた?何のことだ?」
「あんただって見ていたでしょう。あんたがあいつに踏みつけられて、無様を晒していた時よ。私のステッキでぶん殴ったらビビって逃げ出していたのに。今度は何?まるで効いていないって?バカにするのも大概にしなさいよ!」
そうだ。確かに最初にミアの一撃をもらった時、奴は焦って逃げ出そうとしているように見えた。しかし、今回は違う。ステッキなぞ眼中にないかのような動き。この短時間で、ステッキによる攻撃が効かなくなるほど強くなったということなんだろうか。
奴が再び、広間中を駆けずり始めた。俺とミアは背中合わせになり、奴の動きを伺う。二人ならば、あいつの動きにもかろうじて対応できる。躱すこともできるし、一撃加えることだってできる。だから、ここは慎重にいかなければならない。俺は息を細く長く吐き出した。一、二、三、四……。
奴の動きが変わった。円状から一直線に。遂に狙いを定めたのだ。俺は目を見開き、腰を少し落とした。どこから来ても、対応してやる。
しかし、奴は俺たちの方には向かって来なかった。明後日の方角へまっすぐ向かっている。それは、広間の入り口の方角だった。
「逃げる気か?ここまで……。」
「ヴェロニカ!」
背後からミアの気配が消えた。そして次の瞬間、肉体を切り裂く惨たらしい音が俺の耳に届いた。




