第三章 脱獄犯、阿久津玄二①
阿久津玄二は、十年前に日本で発生した猟奇的連続殺人事件の犯人である。少なくとも十五人を殺害し、死体を解剖した上でその内臓を食らっていた。彼の犯行期間中に起きた類似事件も相当数あり、実際の被害者は二十人を下らないのではないかとも言われている。殺害方法は、被害者を自宅に引き入れた後、睡眠薬で眠らせて絞殺というものが主であった。
あまりにも有名な死刑囚であるが故に、その情報はネット上にも散らばっており、調べればその家庭環境から裁判の行方まで簡単に調べることができた。
その家庭環境は極めて劣悪なものだったと言う。父親は息子に無関心。母親は兄にばかり愛情を注ぎ、阿久津には辛くあたっていた。そんな家庭で育った結果、阿久津は他人とのコミュニケーションに難のある性格に育った。学校のクラスではいつも一人きりで、友人と呼べる者はいなかった。学力は平均よりも上であったが、特別目立つほどでもなかった。
幼い阿久津少年が興味を注いだのは、生命の死であった。死にかけている生物を観察するのが、彼の唯一の趣味だった。中学生の時には野良猫を難匹も殺し、警察のお世話にもなったようだ。
高校に入る直前、両親が離婚。阿久津は父親に引き取られた。当然、父親との関係は冷え切っていた。彼はすぐに高校の寮に入所し、実質的に親元を離れたのであった。その高校でも、彼は問題行動をいくつか起こしている。恐ろしいのは、彼が高校に在学している間に複数の生徒が不審死を遂げていることである。後に阿久津の最初の殺人なのではないかと疑われたが、証拠はなく、彼の犯行とは認められなかった。
高校卒業後、阿久津は就職し、一人暮らしを始めた。その家で多くの殺人が行われた。被害者はすべて若い女性だった。阿久津はその犯行のほとんどすべてで、被害者の腹を裂き、邪魔な腸を肩にかけ、内臓だけを取り出して食らったのだ。
そんな犯行をわかっているだけで十五件も繰り返したのだ。当然家には激しい異臭が残る。最後は近所の住人の通報により家の中を調べられ、逮捕された。そして、裁判にかけられ、死刑判決が言い渡された。
以上が、俺の調べた阿久津玄二という男の歴史である。
「そんな危険な人物が、ファブラに入って来ているなんて。」
俺は医務室でヴェロニカとベルナルダに阿久津玄二について話していた。ヴェロニカはベッドに座り、顔を青くしていた。イサークは、他に任務があるとかで、すでに出て行っていた。
「今、このクエントにそいつが潜んでいるのかもしれない。確かに、死体の状態だけ見れば同じやつの犯行にも思えるけどねえ。」
考え込むベルナルダ。ヴェロニカの横に立って腕を組んでいる。
「全てが同じってわけでもないんだよ。今回の犯行は全て街中で行われている。それに対してその阿久津玄二ってのは家の中に誘い込んでから殺していたんだろう?それに、三件目の被害者は男だって言うじゃないか。この違いは一体……?」
「それは、俺にもわかりません。ですが、可能性は充分あるのではないでしょうか。」
俺は医療スタッフの手で腹に包帯を巻かれていた。傷自体は浅い、すぐに治るだろう。それよりも今は阿久津玄二だ。
「それに、阿久津じゃなかったとしても凶悪犯に変わりはないんですから、『猟犬』案件でしょう?」
「それはまあ、そうだね。」
俺としては、この犯人はどうしても捕まえたい。もしも犯人が阿久津玄二であれば、他の脱獄犯についても知っているかもしれない。少しでも賀東に近づけるのであれば、俺は怪我を押してでも犯人を探すつもりだった。
「……よし、わかった。どうせ止めても捜査しにいくんだろうからね。ソウゴにもこの事件、追ってもらおうじゃないか。ヴェロニカ、あんたも一緒に行きな。」
「はい!」
「ある程度自由にやってみるがいい。とはいえ二人だけじゃ不安だね。よし、ミアも連れて行きな。」
「ミア、ですか?」
あの情緒不安定気味な女か。どうも嫌われてしまっているようだし、一緒に捜査するには不安がある。
「そんな顔するんじゃないよ。ミアはミアで実力はあるんだ。連れて行って損はないさ。」
「そうですか……。」
捜査に行けると決まった以上、指示に逆らう理由はない。きっと戦力になってくれると信じよう。
怪我の治療を終えた俺たちは、急いで本部に戻った。本部にはミア一人だけだった。
「ヴェロニカあああ!」
またしても飛んできた彼女は、またしてもヴェロニカに抱きついた。何度見ても猛烈なハグである。
「試験は終わったの?怪我はない?」
「え、ええ。大丈夫ですよ。ソウゴさんも合格しましたし。」
「ええ!合格したの?」
露骨に嫌そうな声に、俺もガックリと肩を落としてしまう。そんなに俺のことが嫌いか。俺が何をやったって言うんだ。
「それはさておき。」
さておくな。
「ミアちゃん、お仕事です。貧民街でまた殺人事件が起きました。私とミアちゃん、ソウゴさんの三人で担当します。」
「こいつも一緒かあ。」
その言葉、そっくりそのまま返してやる。
「二人とも、そんな顔してちゃダメですよ。私たちはチームなんですから。」
極めて真剣な顔をしたヴェロニカに、俺は釈明を試みる。
「いや、わかってはいるんだがな。こいつが—。」
「……まあ、いいわ。ヴェロニカがそこまで言うのなら。」
おい! そこで受け入れられると俺の方がわがまま言っているみたいになるだろうが!
「ほら、ソウゴさんも。」
ヴェロニカの諭すような視線が痛い。こいつは俺の姉かなんかか?
「わかった、わかったから。俺だって別に仲違いしたいわけじゃない。受け入れてくれてありがとうな、ミア。」
「ミア・ヒロンよ、よろしく。……これだけは言っておくけど、ヴェロニカを傷つけるようなことがあったら許さないから。」
苦笑いを浮かべるしかない。先ほどの試験での出来事は黙っておくとしよう。
「しかし、またここに来ることになるとはな。」
殺人現場に向かう道中、俺はパラグアス通りの看板を見上げながら呟いた。
「そういえば、昨日の盗難事件の時も、ここに来たのでしたっけ。」
「ああ、占い師に言われてな。あの占い師、何者だったんだろう。」
通りには、昨日と同じく覇気のない若者たちが屯していた。いや、同じではない。よく見ると彼らは怯えたり、怒ったりしているようだった。近くで殺人事件があったのだ。荒れるのも仕方のないことだろう。
「あ、あなたたちは!」
向こうからドシドシと誰かが走って来る。その姿は、俺としてはあまり見たいものではなかった。
「何となく予想はしておりましたが、あなたの担当でしたか。アーロンさん。」
「『猟犬』のヴェロニカ殿と、えー。」
「『猟犬』の鬼塚宗吾です。」
俺は『猟犬』の部分を強調しつつ、懐から手帳を取り出すとアーロンの目鼻の先に突き出した。
「何?君も『猟犬』だと?」
「今日付で配属されました。よろしくお願いします。」
「何ということだ……。」
何やらショックを受けているようだが、気にするほどのことではないだろう。ヴェロニカも俺と同じ考え(そもそも気づいていないと言う可能性もあるが)のようだ。
「アーロンさん、固まっている暇はないですよ。私たちはここで起きたと言う殺人事件の捜査に参りました。現場まで案内してくださいませんか?」
「……あ、はい。わかりました。」
我に返ったアーロンが間抜けな返事をしている間、俺は周りを伺っていた。若者たちがこっちを見ている。それも、妙に恨みがましい目だ。一体何だと言うのだろう。
「こちらです。付いて来てください。」
彼らから視線を外し、アーロンの方に戻す。アーロンはキビキビと先導し始めた。
事件現場はすぐ近くだった。暗いパラグアス通りのさらに奥、細い路地を曲がった先に、死体は転がっていた。見るも無残な姿であった。腹は裂かれ、おびただしい量の血液で血だまりができている。腸はやはり取り出され、肩にかけられていた。そして、
「内臓が、食いちぎられています。」
「……流石に堪えるな。」
あまり繊細な人間ではない俺でも、夢に出て来そうだ。ミアも顔が少し青ざめている。そして、ヴェロニカに至っては、
「う、うぅ。」
直視できないらしい。死体を見た瞬間に顔を背け、道端に蹲ってしまった。
「おい、大丈夫か?」
「すみません。こう言うのはちょっと。ただの遺体でしたら大丈夫なんですけど、まさかここまで酷いとは思わなくて。」
必死に言葉を発しているが、早くも涙声になってしまっている。すぐさまミアが背中を摩りに飛んで行った。
「ヴェロニカ殿は、一連の殺人事件の遺体を見るのは初めてなのでしょう?無理もありますまい。それに、遺体の損傷は回を追うに連れて酷くなっていますからな。」
「そうなんですか?」
「そうなんです。犯行の手段は共通しておりますが、その程度は全く違います。六日前に発見された最初の遺体は、腹の傷もここまで大きくはありませんでした。二日前に発見された二件目も同様です。それに、傷跡を見る限り、どちらも鋭利な刃物で切り裂かれたのは疑いようもありませんでした。」
「今回の事件は違うんですか?」
「はい。見てください、この傷跡を。」
アーロンは遺体の腹を指差した。
「断面がぐちゃぐちゃでしょう。無理やり引き裂いたとしか思えない。少なくとも鋭利な刃物ではあり得ません。」
「……。」
思わず言葉を失ってしまった。アーロンの言う通りなら、犯人の残虐性は大幅に上がっていることになる。
「……それで、被害者の詳細はわかっているのですか?」
恐る恐る振り返りながら、ヴェロニカが尋ねた。
「それは、まだわかっておりません。」
俺はしゃがみこんで犯人を頭の先から足先までまじまじと眺めた。何となくだが、見覚えがあるような気がしなくもない。
「ソウゴさん、どうかしましたか?」
「いや、こいつ見たことがあるような。」
死体の顔は切り裂かれていないものの、よほど恐ろしかったのか、その表情はもはや人間とは思えないほど崩れてしまっている。おかげでピンとこない。
「ん?」
よく見ると、死体の右頬に殴られたような跡があった。かなり強くやられたようだ、痛々しい痣ができている。
「ソウゴさんがこちらに来てからまだ一日しか経っていません。会ったことのある人全てを思い浮かべれば、わかるのではないですか?」
なるほど、確かにその通りである。
「賢いな。」
「いえ、そんな大したことでは。」
俺は昨日から今までのことを振り返ってみることにした。
「こっちに来て、まず警ら隊に囲まれただろ。それでベルナルダさんと出会って、クエントにやって来た。本部に向かう途中で泥棒を見つけて……。」
泥棒?そういえばあいつを追いかけている時、俺はあいつの右頬を思いっきりぶん殴ったんじゃなかったか?
「……そうだ。こいつ、昨日の泥棒だ。」
「え?あのアーロンさんが逃してしまったと言う泥棒ですか?」
その発言で一瞬アーロンは引きつった顔になったが、やはりヴェロニカは気づいてすらいないようだ。
「何?何の話?」
話に付いて来られていないミアに、俺たちは昨日の事件について説明した。
「ふうん。この人が泥棒をねえ。」
ジト目がこっちを向いている。疑わしい、そう言われないだけマシだと考えておこう。
「とにかく、こいつは昨日の泥棒だ。アーロンさん。あなただって昨日見たでしょう。どうしてわからなかったのですか?」
「いや、その、済まない。昨日はあまりちゃんと見ていなかったもので……。」
バツの悪そうな顔。大方、俺を捕まえることで頭がいっぱいだったのだろう。
「まあいいでしょう。俺だって最初は気づかなかったし。」
一瞬気づけなかった理由、それは明確だった。
「こいつ、帽子をしていないな。」
あの赤い帽子を、死体は着けていなかったのである。
「何でだ?」
当然のことだが、その疑問に答えてくれる人はいなかった。帽子を脱いだ理由なんて、いくらでも考えることができるからだ。
「死亡推定時刻はわかっているのですか?」
「死亡推定時刻?」
「いつ死んだのかと言うことです。」
「ああ、そういうことですか。ええと、遺体の状態を見るに、今日の未明であると考えられています。」
夜から朝にかけて、最も人通りの少ない時間帯だ。人を殺すには好都合な時間帯である。
「ソウゴさん。」
「うん?」
口元を抑えたヴェロニカがこちらに寄って来た。死体と向き合う覚悟がようやくできたらしい。
「ソウゴさんは被害者と会っているのですよね。何か情報になりそうなことを見たり聞いたりしていませんか。」
「ええと、どうだったかな。」
この泥棒を追い詰めた時、まずぶん殴ってその後どうしたっけ。確かこいつが喚き散らして……。
「俺は『赤いトサカ』の一員」
「……そうだ、こいつは自分のことを『赤いトサカ』の一員だと言ったんだ。」
その一言で、アーロンの顔色が変わった。
「『赤いトサカ』?本当にそう言ったと!」
「あ、ああ。間違いない。」
「そうでしたか、『赤いトサカ』の。」
ヴェロニカとミアも何やら頷きあっている。状況が理解できていないのは俺だけらしい。
「ヴェロニカ、『赤いトサカ』ってのは何だ?」
「あ、ソウゴさんは知らないんでしたね。ごめんなさい。」
彼女は律儀に頭を下げる。
「そう言うのはいいから。で、『赤いトサカ』というのは?」
「はい。『赤いトサカ』はこの街の東北の森を根城にしている盗賊団です。赤い帽子がトレードマークで、団員は全員それを着けています。最近も、とあるお金持ちの家に忍び込んで高価なものを盗んでいきました。」
「高価なもの?」
「『黄金の聖女像』です。」
アーロンが話を引き取った。
「二百年ほど前に作られた、あらゆる呪いを消し去ると言われている宝物。」
「呪いを消し去る、ですか。」
アーロンは軽く頷きながら、先を続ける。
「例えば、黒魔術と言われるいかがわしいものから所有者を守る、なんて言われておりますな。もちろん、迷信に過ぎませんが。呪いなんて、オカルトでしかない。」
「そうは言いますが、ファブラには能力者がいるでしょう。呪いのような力を持ったものもいるのではないですか?」
こちらを見るアーロンの表情は、それはそれは怪訝なものであった。
「能力は人の力でしょう。呪いなんかと一緒にするなどと……。」
そういうものだろうか。ちょっと納得できない、俺は重ねて質問しようとした。しかし、
「ソウゴさん、ちょっとこっちへ。」
ヴェロニカに連れて行かれてしまった。
「ソウゴさん。地球人であるあなたにとって、能力も呪いも同じようなものに見えるかもしれません。ですが、ファブラにおいて能力とは、あくまで人類の才能であり、同時に限界のある現実なのです。超常現象とは違うのです。」
「違う、のか。俺には一緒に見えるけど。」
「そう見えてしまうこと自体は、しょうがないことだと思います。ですが、あまりその考えを外に出すべきではありません。能力は才能です。それを誇りに思っている人もいれば、磨き上げている人もいます。それを、呪いのような超常現象と同じように扱えば、どう思われるかわかるでしょう?」
なるほど、少し話が見えてきた。能力に関しては、この世界でもかなり繊細に扱うべき話題らしい。
「わかった。気をつけるよ。ありがとう。」
俺たちは死体の元に戻った。
「終わったようですな。とにかく、『黄金の聖女像』には何の力もない。ただの芸術品なのです。」
「わかりました。変なことを言って申しわけありませんでした。」
アーロンは首の後ろをポリポリと掻いている。
「謝られるようなことでもないんですが……。」
話をまとめると、この被害者は盗賊団『赤いトサカ』のメンバーであり、その『赤いトサカ』は最近『黄金の聖女像』を盗んだと言うわけだ。そして『黄金の聖女像』には呪いを防ぐと言う逸話がある。
「この死体が『赤いトサカ』のメンバーであることと、今回の事件には何か関係があるのだろうか。」
「それは、わからんです。少なくとも過去二件の被害者は、『赤いトサカ』とは一切関係なかったですからな。」
ということは、こいつが襲われたのは偶然だったのだろうか。
「阿久津が犯人だとすれば、男性を襲うとは少々考えにくい。だが、それだけで犯人候補から外すわけにもいかない。奴が男性を襲うとしたら。それはどんな時だ?」
俺は自問する。出来るだけ論理的に、頭の中で答えを組み立てる。
「それは、『男性』ではなく、『この男』を狙った場合か。」
多数存在する『男性』を狙った結果こいつが殺されたのではなく。『この男』を殺さなくてはならなかった。そうせざるを得ない理由が、あったとしたら……。そうだとすれば、大事なのは性別ではなく、やはり盗賊団の一員であると言う部分だろうか。
……いや、いけない。少し先走り過ぎている。そもそも犯人が阿久津だと決まったわけでもないのに。
「こいつの内臓、食べられちゃっているんだよね。」
それまで黙っていたミアが突然喋り出した。
「犯人が食べたんだとしたら、私の能力で犯人の近くまで飛べるかもしれない。」
「飛ぶ?」
どう言うことだ。
「なるほど、確かに遺体には内臓のかけらが残っています。それを使えば……。ですが、大丈夫ですか?内臓に触らないといけないんでしょう?」
「うん、大丈夫。ちょっと気持ち悪いけど。」
そう言いながら、ミアは死体の腹に手を突っ込んだ。死体の保存とか、そう言うことは考えないのだろうか。しかし、それ以上に俺には聞きたい疑問があった。
「さっきから何の話をしているんだ?」
「……しょうがないわね。説明してあげる。私の能力について。」
あくまで俺とは目を合わせず、死体の方を向きながらミアは話し始めた。
「私はね。触れたことのあるもののところまで『飛ぶ』ことができるの。わかる?所謂『瞬間移動』ってやつ。もちろん、限界はあるけどね。」
「つまり、その内臓のかけらに触れることで、残りの内臓を食べたやつのところまで飛べるってことか?」
「そういうこと。」
自慢げに澄ました顔でミアは言う。彼女の言う通りだとすれば、相当に便利な能力である。ベルナルダが彼女を連れて行くように言うのもわかる。
「すごいな。この死体のところにしか飛べなさそうなもんなのに。犯人のところに行けるのか。」
「そこは応用次第よ。能力はそうやって磨き上げていくものよ。」
具体的なことは正直よくわからないが、これで犯人の追跡が可能になった。しかも相手からすれば俺たちが突然現れる形である。確実に有利が取れる状況だ。
「よし、今すぐ飛ぼう。」
「待ってください。相手は危険な殺人犯です。追いかける手段があるのなら一度戻って報告した方が良いのでは?」
ヴェロニカの言うこともわからないではない。しかし、俺はこの機を逃したくなかった。
「そんなことを言っていたら、犯人が内臓を消化し終わってしまうんじゃないか?そうしたらさすがに飛べないだろう。追うべき内臓が消えてしまうんだから。追いつけるのは、今しかないと思うぞ。」
「私もそう思う。こいつの言う通り、内臓が犯人の体内に残っているうちじゃないと、追跡できないわ。それに、私がいればいざって時も帰ってこられるし。まずは攻めてみるべきだよヴェロニカ。」
俺たち二人の意見を黙って聞いていたヴェロニカは考え込んでいたが、しばらくして深く頷いた。ついに決意したようだ。
「わかりました。では急いで犯人を追いましょう。ただし、危険が迫るようであればすぐに戻ります。いいですね。」
俺とミアは同時に頷いた。それを確認すると、ヴェロニカはアーロンの方を振り返った。
「アーロンさん、お手数ですが伝言を頼まれてはいただけませんか?」
「伝言?どなたにですか?」
「ベルナルダさんです。ヴェロニカ、ミア、ソウゴの三人はミアの能力で犯人を追跡すると、伝えてください。」
「承知しました!」
アーロンに敬礼は、実に大仰なものであった。そのまま回れ右すると、アーロンは本部へと走り去って行った。
「いいのか?警ら隊を使いっ走りに使って。」
「そういう言われ方をされてしまうと、心苦しいのですが……。一応『猟犬』の捜査上の権力は警ら隊のものより上ですし、協力関係にもあるのでルール上は問題ありません。」
そう言いつつもヴェロニカは複雑そうな顔をしていた。妙な罪悪感の芽生える顔だった。
「いや、悪いな。変なことを聞いてしまって。」
「いえ、構わないです。確かに、『猟犬』と警ら隊の関係には、少し考え直した方がいいところもありますから。」
ヴェロニカはそう言うと、自分の顔を両手でパチンと叩いた。
「さあ、行きましょう。犯人のところへ。」




