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平行次元のエントランス ~平行世界グラノガード外伝~

作者: ひすいゆめ

プロフィール

 小さな青い欠片を集めた存在がある存在の前に現れた。

 「よくそこまで集めた」

 玉座に座る存在は微笑む。

 長過ぎた計画を脳裏に浮かべながら、窓の外から遠くに見える巨大な大地に刺さる剣を眺めた。


 かつて、上の次元の世界である上界の存在、運命を司るものの1柱、クラウンが禁忌とされていた下界のエジプトに手を出したことにより、数々の次元の亀裂が発生した。

 (この話、さらに派生物語は割愛する)

 それは平行世界であるグラノガードも同様であった。


 別次元からの亀裂から異次元の存在が現れる。巨人に宿った無界の存在が多数降りて来て、大きな勢力になった。

 そこで、無界より勝手な行動を取る者達がアスタロットと化すか、第3勢力の邪悪な存在にならないように無界の主はジューダス-イスカリオットの13使途の1柱であるゲラサが派遣された。

 同様に無界の存在が堕天した存在であるアスタロットも行動を起こした。アスタロットの強力な勢力であるセブンズクライムの1柱のマモンも降りて来たのだ。

 その三つ巴の争いの中で巨人は融合して巨大な金属の巨人に変化した。マモンはすぐに体制を整える為にグラノガードの海に浮かぶ小さな島に身を潜めて、そこに根城を構えて仲間を集めていた。


 ゲラサは魔神が封じられている樹木から遠ざけながら、巨人と戦った。巨大な剣を弾き飛ばしたゲラサは金属の巨人をギリギリで倒すことが出来た。

 依代の残骸はボロボロになって崩れ落ち、無界に戻った反乱者達は幽閉されることになった。


 それから数年が経った。

 クラウンがエジプトに手を出したことでそこに無界の下界に当たる空界と繋がってしまい、少数の空界の民が下界に来てしまった。その話は割愛する。

 同時にエジプトに位置に当たるグラノガードの封印の樹木のあった場所は大きく流されて東に移動し、別の世界の森が次元の穴をあけて流れて来た。

 ただ、住民のチェイサーエンドは雨の神が水を遣わした時に水で街を流してこの位置に移動させたと語り継がれていた。

 それはある次元のモンスターベルトと言われる場所であり、クリーチャーがその森の付近にはびこることになった。

 そのモンスターベルトからその魔道界からやって来た魔道族とグラノガードで呼ばれている魔道を使う一族が巨人の亡きがらというべき依代だった鎧の残骸を封印すべき力を放っていた。

 ところが、その封印の力が逆流して力を得た巨人の鎧は元の姿に戻り金属の巨人になった。立ち上がり手を上げると、ゲラサに飛ばされた大きな剣を引き寄せて掴んだ。

 全ての魔道族は逃げ惑った。バリアを掛けても拳で完全に破壊された。

 そこで、仮初の魂の巨人はマモンのいる島に視線を向けて歩き出した。荒廃した大地を歩き続けると、封印の大樹の街からチェイサーエンドと言われる創生龍グランフォーゼが大樹を守る為に生み出した人間の兵士達が現れて、鉄の巨人に行進を始めた。

 しかし、普通の人間の兵士に叶う相手ではなかった。大剣を軽く一振りするだけで20人の兵士が吹き飛ばされた。

 彼の目的が東の島から大樹の街に変わってしまった瞬間である。


 時は少し戻って、まだ巨人が復活する前のことである。町の中央の神殿に子供達が遊んでいた。

 「この神殿にある聖剣を手に入れようぜ」

 リーダー格の10歳の少年ダンは同級生のマーク、インと共に神殿の入り口に集まっていた。

 「ここに入ってはいけないって町の法律があるじゃないか」

 臆病なインがそう言うと、ダンは鼻で笑った。

 「大丈夫だって。門番の気を2人が引いていてくれれば、俺が忍び込んでくるからさ」

 そこでマークがインの肩に手を置いた。

 「ダンがこう言いだすと止められないのは知っているだろう」

 インはため息をついた。

 マークとインは門番に近付いて話し掛けた。

 「この中にはどうすれば入っていいの?」

 インがそう聞く。門番は屈んで目線を合わせて言う。

 「小僧、ここには許可をもらわないと入れないんだ。まあ、何があっても許可が下りることはないがな」

 その隙に門番の背後を忍び足でダンが素早く神殿の中に入った。

 

 中は壁のキャンドルに火が入っていないので薄暗かった。先に進んでいくと、突如でっぱりを踏んでしまった。下に穴が開いて落ちていった。叫び声も誰も気づかない。

 そのまま落ちて行くと、空中の途中でふと止まった。何が起きたか分からないダンは振り返ると落とし穴の壁に描かれた魔法円からアドネル・Y・ニクドという無界の存在が現れてダンに言った。

 「お前はチェイサーエンドの小僧だな。ここに生体反応が現れるまで、この魔法円の仕掛けが発生しないのでなかなか出られなかったのだ」

 そして、ダンを引き上げながら地上に戻った。

 神殿の中を指を鳴らして小さな光の玉を発生させると、アドネルはダンに言った。

 「この世界にマモンという七つの大罪、セブンズクライムの1柱が来ているはずだ。そやつは私の邪魔ものなので、お前に力を貸してもらう」

 アドネルはダンの体に宿って依代にすると、刹那、大樹の街を囲う高い塀の上に立っていた。

 遠くには金属の巨人が見える。

 「あれをマモンにぶつければ一石二鳥か」

 アドネルは小島に誘導するようにダンの体を使って移動して、その方角から波動を放って上手く巨人を誘導できた。

 

 しかし、それが街の兵士によって目標が変わってしまい、さらに魔神の封印の危機にまで起きてしまったのだ。

 流石に動かずにいかず、ダンの体のアドネルは兵士がやられている前に現れた。

 巨人は手を前に出すと魔法円を出して、3体のドラゴンを放った。

 「さらに、強い悪災を出すか。ただの中堅のドラゴンだが、それでも我には叶わない」

 そこで、依代のダンが意思を表す。

 「じゃあ、逃げればいいじゃん」

 アドネルはそれに答える。

 「今、私が逃げたら悪災はさらに最悪の魔神を復活させてしまう。叶わなくても、止めなければならない」

 「意味が分からないよ、出来ないことをやっても無理じゃん」

 「出来る出来ないじゃない。やるんだよ、小僧」

 アドネルは凄まじい光弾を放つ。それはドラゴンの1匹に当たるが、それでもダメージは大して与えられなかった。

 「私はいつも恰好つかんな」

 自嘲してドラゴンと巨人を睨んだ。


 そこに光が飛んできてアドネルの前に止まった。

 「お前はアスタロットなり掛けのアドネルじゃないか。あんなもの相手に手こずるなんて、大分力を失ったんだな」

 「セブンズドラゴンズの力を失ったからな」

 「そもそもニクドを吸収するバカだからな」

 助っ人に来たのは無界のテルトゥリアヌスであった。

 彼は凄まじい光の剣を発生させると、ドラゴンに向かって飛んだ。

 アドネルは地に下りると、そこにいた人間に声を掛けた。

 「俺はお前の次元の2つ上の次元の存在で下界に下りて来た存在のアルド-ナホム。永遠の英雄であり、セブルンの騎士でもある。さらに…、今はいい。名はとにかく、この全次元の危機を救おう。ゲサラの尻拭いをするか」

 「待て、お主達はどうやってこの次元に来たんだ?神殿の仕掛けでやっと私はここに来たというのに」

 すると、アルド-ナホムは遠くに指を指した。

 「モンスターベルトだ。あそこは魔道界につながっている。あそこの浮遊島で次元を超えて下界から来た」

 「まさか、あのどの次元をどのくらいで渡るか分からないものを頼ってきたのか…」

 彼は笑顔を見せる。

「でも、こうして今、ここにいる」

 ドラゴンをテルトゥリアヌスに任せて、アルド-ナホムは巨人を見上げて両手を向けた。

 凄まじいエネルギー波を放つ。自分の力を使っているので異世界の存在から力を借りる詠唱をしなくても技を発することが出来るのだ。

 そこに巨大な隕石が落ちて来た。巨人の攻撃のようだった。

 「ライトウォール」

 光のバリアが発生して隕石はアルド-ナホムの上空で爆発した。横目で一瞥するとそこには少年がいつの間にか立っていた。

 「おいらは魔道族のマーク。ロ・エト王国のエルス-マーサ騎士の最年少で第1勲章をもらっているんだ」

 すると、アドネルが口を開く。

 「魔道界のモンスターベルトから来たのか」

 「大きな力を感じたからね」

 「しかし、ロ・エト王国出身なら、ウッジ-ホーロウを知っているか?」

 するとマークは手を叩いて答える。

 「ああ、あの自分に魔法を掛けてフクロウになったおじさんだろう」

 「あれでもウッジ、ウッディ-フォーロウは上の次元の者も一目置く魔法使いだ」

 ドラゴンを2匹とも地に叩き付けたテルトゥリアヌスが下りてくる。

 「まだ、遊んでいるのか、アルド」

 アルド-ナホムは凄まじい波動で巨人の頭を凹ませて倒した。そして、巨人とドラゴン2匹を見て言う。

 「あいつらには呪いが掛かっている。下手に倒すと流石の俺もまずいから、お前達と同じような攻撃で時間を掛けて何とかしようとしているんだ」

 すると、マートが囁いた。

 「だったら、封印すればいいじゃん」

 そこで、アルド-ナホム、テルトゥリアヌス、アドネルは目を丸くして少年に視線を注いだ。

 「まあ、何だな。あのアドネルが嫌うマモンのいる島を封印の地にするか」

 アルド-ナホムは巨人の剣を弾くと剣を遠くにある島に刺した。次に巨人を空中に蹴り飛ばすと、そのまま波動で小島に弾いた。小島に土煙が上がるのを見て、強力な青い歪んだ玉を発生させて放った。その小島は巨人、その呪いと共に封印された。

 「これでセブンズクライムのマモンも封じられたか」

 そういうアドネルにテルトゥリアヌスが一瞥して言った。

 「その少年の体を返してこい」

 アドネルは目を閉じて息を吐くと、そのまま街の中に向かって行った。

 マートとテルトゥリアヌスにアルド-ナホムはこう言った。

 「いつか、俺があの島に見回りに行く。剣の上に行ったら集まろう」

 すると、マークがすかさず言う。

 「おいらがいくら老化と寿命の進みを遅く出来ると言っても、無界の存在より長く生きることは出来ないよ」

 「まあ、その時はその時でいいじゃないか」

 彼は微笑むと手を上げて小島に視線をやった。

 「では」

 アルド-ナホムはそのまま小島の大きな剣の柄の上に飛んで行くと、その先に青い光を宿した。小島は見えない強力なバリアで完全に閉じられた。

 「これで魔道族の巨人の復活の失態はチャラだね」

 そう言い残してマークは仲間のところに凄まじい速さで去っていった。

 残されたテルトゥリアヌスは街の門のところを見る。

 軍隊の生き残りと第2陣、そして、野次馬が顔を覗かせていた。溜息をついてテルトゥリアヌスは無界に帰っていった。

 その後、あの島は呪われた島と言われて誰も近寄ることはなかった。


                  1

 一方、残ったマモンは小さな島に居座っていた。封印されたことは予想外であったが、この島に金属の鎧と化した巨人が無力化されてこの巨人の存在の調査が出来るのだ。

 まず、それを形作った無界の巨人は検討がついていた。

…無界の黒歴史の1つの存在であると。

それが集まって作られた小島に封印されし存在の巨人は何なのか。

 現状は前回のように魔道族の魔法が切れたかのように瓦礫と化している。おそらく、魔道族の力が何か作用で仮初の命のようなものを与えてしまったようだ。

 では外角の超巨人の存在は何なのだろうか。多くの黒歴史の産物が集まって、どういうメカニズムで何を作り出したのだろうか。

 マモンにはそれが何かは解明することは出来なかった。

 ドラゴンの1匹は下界に出た空界の存在によって召喚された。下界に呼び出されたドラゴンについては別の話にて。


 それから時はかなり流れた。マモンにとっては他愛もない時間だが、1千年、否、二千年もの時が過ぎたのだ。

封印のバリアから脱する術がなくなってしまい、マモンは依代の寿命が尽きるチェーサーエンドの体から逃げると、残るドラゴンに宿ってなお封印から脱出する術と巨人の力を自分に取り込む術を考えていた。

セブンズクライムの第1席に返り咲くことさえ簡単な強大な力を手にすることが出来ると考えていた。


一方、無界では黒歴史である過去の天使的な存在が行った生命の創造の失敗により生まれた大鬼の異形の者が暴れた。

そもそも、アルファオメガという真理の力とさらに上の次元の絶界の存在シロにより生み出された無界の秘石を使われたのが原因であった。

すぐにそれを別の厳重な場所に移動されて封印された。周りに空間のひずみのバリアを張られてアラム、ロト、ノア、アダム、エステルの5柱の承認のアポリオを注がないと秘石のある空間に移動することが出来ないようになった。


無界の上の者は聖王山にそれを封印すると天使を罰して力を取り上げてその存在の数を減らした。

それに反旗を翻した天使的存在のジューダス-イスカリオットの13使徒の1柱のエリメンクは聖王山に侵入して大鬼から複数の自分の手下を作り出した。

これがイシュアの13悲劇の1つ、白のアスタロットが生まれた瞬間だった。

それらは複数の巨人の姿であり、山を抜け出してしまった。それがゲラサのラグノガードでの巨人討伐である。

無界の存在はその事実を黒歴史として彼らは沈黙を保っているのだ。

エリメンクは白のアスタロットを生み出した時に人間として下に転生されたのだ。人間に堕とされ空界に堕ちると最初の下界に移動していった者と共に下界に出て行った。

そこで、ミリアム率いるアドネル-Y-ニクドを神とするレビ教の存在についていき、彼らはエジプトの遺跡と共に無界の存在、アベルによってテモテという青い結晶の封印をされる。

かなりの時間を経て、ある考古学の研究者達により封印は解かれてミリアム達は倒されることになるが、それはアドネル-Y-ニクド神話の最初の話で別に語ることにする。

封印から解かれると、ミリアム達レビ教から離れてある場所に向かって旅立っていった。


白のアスタロットは再び無界で聖王山に封印されたのだ。


                  2

銀の指輪がインドの北部に村があった。そこに転生したエリメンクがエジプトから辿り着いていた。彼はその指輪が出す微弱な波動を感知しながら進む。山脈の崖の上にそれはあった。

彼はアポリオを使い崖を軽く登って指輪を手にした。指輪を左手の人差し指にはめる。すると、目の前の光景が急に空の中になった。空中を落ちながら、アポリオを使って緩やかに着地をした。

周りは草原が広がっている。エリメンクは自分のいる場所がどこなのか分からずに困惑していた。遠くに街が見えたので駆けていった。

すると、頭の中で声がした。

「大樹の街へ行け。近くの街で馬車に乗れば3日で着くだろう」

そこで、エリメンクは心の中で囁く。

「貴方は誰ですか?」

すると、バリトンの太い声でそれは言った。

「我が名はアルフォンス。大いなる者である」

とりあえず、その声に従って街に向かうことにした。

その街は植樹に囲まれた場所であり、そこの住人であるチェイサーエンドの言葉はエリメンクには理解出来なかった。聞いている内に徐々に理解できるようになってくる。

「済みません、この辺りに乗り合い馬車の乗り場はないですか?」

すると、ハットをかぶった男性が東に指を指した。

手を上げて礼をすると、東の方に歩いていく。石垣に囲まれば場所に人が集まっていた。そこに立ち止まると、すぐに馬車がやって来た。

乗り合い馬車に乗り込んだエリメンクは東に進む中、強力な力を感じた。馬車の中を見ると1人だけ東洋人のような少年が座っていた。良く見ると左手に銀色の指輪をしていて、右に金属の玉を握っていた。

増やしたり自由に操ることが出来る三種の神器の1つである。彼が何者かを知りたいと思ったエリメンクは立ち上がって近付いた。

 すると、エリメンクの脳裏に先ほどの声が響いた。

 「その者達を滅せよ」

 彼は恐ろしくなって立ち尽くした。

 すると、その目の前の少年は口を開いた。

 「お前が悪魔だな?」

 隣に居た少年も日本刀を構えて居合のスタイルを取った。

 「悪魔?アルフォンスの声が聴こえるからか?」

 そこで、日本刀を抜いた少年は切っ先を彼の喉元に向けた。

 「アルフォンスと意思の疎通が出来るのか。敵なのは確かだね」

 そこで、金属の玉を持つ少年が思わず叫んだ。

 「真琴、アルフォンスって何なんだ?」

 すると、彼は東の方に視線をやって囁いた。

 「封印されし魔神だよ」

 2人は構えたが、敵対心の見えないエリメンクに拍子抜けになる。

 「本当に悪魔なのか?」

 エリメンクは即座に危機感を感じて馬車を飛び降りて駆け出した。

 ―――と同時に前世の意思であるペルソナが表に出た。

 「白きアスタロットの序列8番であるバルバトスよ。我が白呪法により式神として降りよ」

 すると、落雷のように空から光が落ちて、エリメンクの前に1人の鬼が現れた。

 白いアスタロットは上界、下界でいうところの鬼なのだ。別次元で同様の存在がいる事実は理解出来ない。そもそも、上界の存在がエリメンクで無界に移動して鬼=白いアスタロットを生み出したと考えた方が自然であった。


 追ってくる玉の神器使いの龍兎、刀の神器使いの真琴が追いついてバルバトスを見ると警戒した。

 金属の玉を無数に増やして放った。しかし、バルバトスは手を前に出しただけでほとんどを消し去った。残った数個は地面に落ちて行った。

 キャンセルの神器の刀を構えて真琴は駆け出すが、所詮は普通の下界の人間である。上の次元の特殊な能力のあるバルバトスに勝てる訳はなかった。

 バルバトスは刀を手で受け止めると、掴んだまま奪い取って放ってしまうとそのまま光の弾を放って真琴は光の檻に封印された。そこでグラノガードでの記憶を奪って力を封じられて女性の姿の呪いを受け、そのまま銀の指輪を取られて下界に戻されてしまった。

 次に龍兎に迫ったバルバトスの腕に剣が振り下ろされた。

断界の存在、月下の炎騎であった。

 エリメンクはさらに白きアスタロットのボティスを式神として召喚した。これだけの強敵を1柱で戦うのは不利であった。それでも炎騎は構えて引かなかった。

 戦意を失った龍兎は距離を取って様子を見出した。

 ボティスは大剣を発して炎騎と鍔迫り合いを始める。

 「大撃斬だいげきざん!」

 炎騎はクレーターが出来る程の踏み込みで凄まじい斬撃を放った。ボティスは構わず力づくで剣を下から振るう。

 炎騎の左目に一閃の鮮血が飛んだ。ボティスは剣を折られて肩を抑えて膝を地についた。

 

「そこまで」

 彼らは振り返ると我神棗あがみなつめ甲斐礼羽かいらいはが立っていた。棗の次元の力で移動して来たのだ。

 その少し離れた場所に神早見亜鈴かみはやみあれいがいつの間にか眺めていた。

 礼羽は歩いて行って、フルフルとの戦いで取った銀の指輪を亜鈴に渡す。

 丘の上にはさらに新参者が立っていた。

アスタロットのサタナキアであった。

隻眼となった炎騎はサタナキアを睨んだ。そこに穢れを司るゼノが風と共に姿を見せて間に入った。

「今はアスタロットと断界の刀将のいがみ合いをしている場合ではないだろう」

ゼノの言葉にサタナキアはため息をついて、エリメンクに視線を向けた。

「マモンを封印してもなお、人間として堕とされながらも白いアスタロットを生み出すのか。何が目的だ?」

彼は微笑んで言う。

「封印したのは私ではないがな。我がしもべとともにこの世界の王を目覚めさせるのだよ」

そこで亜鈴が口を挟む。

「大樹の魔神のことか?」

「アルフォンス様は次元を超えた王なる存在だ」

「白呪法の使い手だろうが、俺達には叶わないぞ」

「幼い人間のガキの分際で、周りに多少力のある味方がいるだけで気が大きくなっているようだな。勘違いするな」

亜鈴は冷静に剣を出すと叫んだ。

「転送、リトルグランフォーゼ」

そして、その剣を構えて一瞬にしてエリメンクの背後を取って背中に一撃を放った。

「グランフォーゼの力の一部も扱えるのか?」

恐怖と畏敬の念が目の色に浮かんだ。

「しかも、この世界は純粋にグランフォーゼが創った世界。力は自在だ。子供だと油断していると実存が消えるぞ」

亜鈴は明らかに上の次元の存在でさえ叶わない力を持っていた。


                    3

 亜鈴はエリメンクの銀の指輪を奪うと彼は下界に移動していった。下界に戻れば前世のペルソナは引っ込むと考えていた。

エリメンクがいなくなれば、術で召喚された式神のバルバトスとボティスは消えてしまった。

真琴の銀の指輪と神器の日本刀を拾うと亜鈴は全員に視線を注いだ。この中で一番優位なのが誰なのかは明らかであった。

サタナキアは姿を消した。ゼノは砂の上に座って頬杖をついた。

「どうする?」

ゼノの言葉に亜鈴は囁く。

「白のアスタロットを発する存在は消えた。指輪がないからもう、この世界に来ることはないだろう」

「しかし、存在がある限り、ペルソナがまた白いアスタロットを生み出すかもしれない」

「その時は俺が対応する」

礼羽と龍兎は神器を持ったまま、銀の指輪を外して下界に帰って行った。2つの指輪は地面に落ちた。亜鈴は拾って棗に視線を向けた。

「まあ、次元を操れるから僕にはいらないさ」

指輪を外して落として下界に消えて行った。

亜鈴がしている指輪を含めて7つの指輪を集めたのを見て、ゼノは囁く。

「この先の穢れを拭うつもりか?」

亜鈴は7つの指輪を掌に載せて囁く。

「この指輪をあいつら白呪法師が持ってしまったら、次元は破滅する。白のアスタロットはただの道具じゃない。その破滅の切り札だ」

そこでゼノはその指輪を見ながら言う。

「彼らが穢れなら、浄化させない為にそいつを渡すのも一興かもしれんな」

ゼノに剣を向ける。

「戦うのは別にいるぜ」

 彼は下界の人間を呼び寄せた。

 「俺は矢戦要やいくさかなめ。棗と同じSNOWCODEの血を引く者で救世主と呼ばれている存在だ」

 そして、右手を前に出すと次元断絶の刃を放った。

 亜鈴は金色の金属製の降魔の剣を出して次元の刃を避けた。

 「もう、エリメンクの力を使ったのか。一応戦闘して勝利をしているから、そいつの力を使役出来ると言う訳だな。グランセーバー等、何故、創生龍はお前に私らのだろうな」

 ゼノを無視して亜鈴は叫んだ。

 「吽!」

 すると、白のアスタロットが現れた。

 「まさか、危険な敵の道具で戦うのか?」

 流石のゼノも冷や汗を流す。

 「人間だから倫理的に、とでも?」

 亜鈴は児童らしからぬ表情でそう言った。

 「ディメンションエッジ」

 また次元の刃を要が放った。

 「ベリアル!」

 亜鈴が叫ぶと白のアスタロットは高く跳んで、刀印の手印を結んだ。

 「オン・コーシャ・ソワカ」

 すると、要の次元の刃が何か目に見えないものに包まれて消えた。

 白呪法の魔本アートマン・ヴェーダを取り出したベリアルは亜鈴に渡した。

 「マスター、その中の必要なマントラを囁いて下さい」

 彼は言われるままにそうすると、ベリアルは凄まじい光の矢を複数降らせた。

 次元を作って逃げようとした要に、既に後ろに回った亜鈴がグランセーバーで動きを止めていた。

 流石に汗を流す。リトルグランフォーゼの力はそう簡単には抜けることは出来なかった。

 光の矢は彼の周りに刺さり、封印の能力を発揮した。

 さらに、再びエリメンクの力でもう1体の白いアスタロットを召喚した。

 白衣の存在が錫杖を鳴らして現れた。

 「我が名はブラフマン。全てを統べるもの也」

 そこで、要は両手を上げた。

 「んな者が出てきて勝てる訳ないだろう」

 「では、契約をしてもらう」

 亜鈴は2柱の白いアスタロットを消すと、要と契約を結び彼を帰したゼノは亜鈴の前に立ち塞がった。

 「流石、グランフォーゼが目を掛けるだけあるな」

 彼らは睨み合ったが、すぐにゼノは背を向けた。

 「穢れはけして消えない。何をしようと無駄だ」

 そう言って姿を消した。

 穢れを司るゼノが言う亜鈴が倒そうとしている穢れという敵は何なのか疑問であった。

 エリメンクのことか。封印の島にいるマモンのことであるのか。白いアスタロットのことだろうか。

 ―――その答えはすぐに分かることになる。

 

                エピローグ

幽世から来た存在は彼らの様子を見て微笑んでいた。

結局、何をしても意味がないのだ。全ては決まっているのだ。

下界に戻って来た亜鈴は育ててもらっている存在の斬月に白いアスタロットの話をした。


「エリメンクも気になるが、ゼノの言う穢れが一番危険だと思うぞ」

そして、オニキス製の鍵を渡した。

「そいつはバーソロミューの鍵だ。バアルのラッパの1つで既に解放された伏魔殿の鍵でもある。アスタロットを召喚出来る副能力もあるんだ。そいつはアポリオで日本刀の形に出来るが、グランセーバーで龍を憑依されてアポリオを使えばいいんじゃないか」

「確かに2つの武具を使うのは無理じゃないが、さらに2種類の能力を一気に使うとなるとちょっと…」

「憑依召喚は厳しいんだっけ。まあ、お守りとして持っておけ」

刹那、斬月は剣を構えて中腰になった。

「どの次元の者でもない存在?」

亜鈴も構えるが、気配を感じて冷や汗を流す。

「これはゼノって奴が言っていた穢れだと思うぞ。7つの指輪を守れ」

斬月がそう言うと一瞬でアパートの窓から屋上に移動した。


無駄だ。何をしても止めることは出来ぬ。

「現世でない存在か」

斬月の言葉に動きが止まる。彼はすぐに剣で斬撃を放った。はるか上空の幽世の存在は簡単に弾いて斬月を地に突き落とした。彼は地面に激突して吐血して気を失った。

「斬月!」

亜鈴は憤怒を露にして上空に飛んだ。

グランセーバーで龍を転送して体に装備すると、バーソロミューの刀を構えた。アポリオをさらに高めていく。

「大事な存在がやられて我を忘れることで力を増したのか。しかし、上の次元の者は感情がなく、だからこそ下の次元の者より強い力を発することが出来る。強い力を発揮するなら心を無にすべきなのだよ」

「真の名を述べよ。俺が滅する」

真名まなを知っても我には勝てん」

それは巨大なドラゴンの姿に変化した。

「我が名は破滅龍ダークノヴァ。他のドラゴンであれば倒した後の呪いはドラゴン化だが、我は死の中にある存在。我を滅する者は死して魂は苦痛と共に消え去るのだ」

亜鈴は睨みながら囁く。

「自滅覚悟で倒せばいいのだな」

「封印さえ出来んから、倒すしかない。しかし、我を倒せる力を持つ者は存在しない」

しかし、亜鈴は構わず剣技を放つ。それを簡単に防ぎ、彼の持つ7つの銀の指輪を奪い取って地面に叩き付けた。

斬月を見て庇うように亜鈴はダークノヴァを見上げる。

「そこまで」

光と共に現れたのは創生龍グランフォーゼであった。流石のダークノヴァも顔をしかめる。

「彼は特異点である。滅することは私が許さない」

苦虫を噛み潰したように人間のような姿に変化して、一瞥すると鍵を握りしめて消えた。

「グランフォーゼ、俺はどうすればいい?」

彼は契約の光を亜鈴に注ぎ、グランフォーゼはそのまま去って行った。

すぐに瀕死の斬月を抱えて亜鈴は龍のところに駆けて行った。


ダークノヴァは7つの銀の指輪に力を注いで次元の操作を始めた。

1度目は近くに光が一閃走っただけで目的は失敗した。

次に、光の環が発生して次元の歪みを発生させた。

―――これから、全てが始まり全てが終わる。

ダークノヴァは微笑んでその歪みの中に身を投じた。



                了


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