ネクストステップ
取り敢えず今回は話を進めました。
時間は流れていく。
私は哲学者にでもなるかもしれないほどそれを思い知らされた。
どんなに退屈でも、どんなに辛い日々であっても、どんなに明日を思っても、気づけば過去の出来事になる。
それを実感させられた。
だって、多才になるよう努力していれば、いつの間にか私は幼稚園の卒業する日になっていた。
普通、卒業というのは感動する出来事なのだろう。
しかし私には、そこまでの事でもなかった。
だって小学校で別れる子がいても、実際は頑張ればいつでも会えるから。
その上、中学生にでもなればすぐに忘れるし。
そんなひねくれた思想の中、私は幼稚園を卒業した。
その日は、流石に堅物の親もお祝いごとと捉えたらしく・・・その日の夜はすき焼きとなった。
「すき焼きだねぇ〜。」
「あ!母さん!野菜そんなに入れないで!」
「全員、ここからここまでの野菜は絶対食べなさい。康は絶対に豆腐とネギは食べないといけないからね。」
「俺のだけ圧倒的に多いじゃん!」
「野菜も味ついてて美味しいよ?」
「なら兄貴が食えよ!」
「僕はお肉あるから無理〜。」
家中に父を除く、騒々しい声たちが響く。
その声に私は・・・
「・・・騒がしい。」
そう思いながら、ご飯を食べるのであった。
記憶のせいで私は、ご飯の時は少しは静かな方が好きなのだ。
子供だから仕方ないとも言えるが、精神年齢そこそこの私は我慢していた。
「そういえば父さんは?」
「仕事よ。今日は帰ってこれないみたい。
だから皆で高いお肉食べちゃうわよ。」
私の質問に帰ってくる答えは想像通りのものだったが、母の一言には驚いた。
まぁ、よく考えてみれば亭主関白であるうちの家庭の母親も一人の子供を持つ母親なのだ。
母親なら、子供の記念日にお祝いできない人に怒りを覚えても仕方あるまい。
記憶の中の奥さんも晴之にゴッドブローをしていたし・・・。
・・・今日は皿洗い手伝ってあげるか。
「・・・しかしお肉か。」
私はポツリと不満を零す。
理由は簡単。
記憶の中の高級レストランの霜降り牛肉のせいで、目の前にある赤いお肉がどうも安っぽく見えてしまうからだ。
味がわかるわけでもないが見るからに美味そうで、晴之も口に入れた瞬間、驚きで固まっていた。
晴之の奥さんも、自分の料理より美味そうな反応をする男に怒れてはいなかった。
今の私からしたら羨ましい。
・・・ま、すき焼きは美味しいから別にいいんだけどね。
これ以上考えると、不満があるのがバレそうなので、無心になり、すき焼きを楽しむ。
・・・あ、普通に美味い。
お肉を噛んでいると母が不意に・・・
「康、翆。貴方たちは今度は小学一年生になるわ。」
「「うん。」」
「一年生になるにあたってそろそろ習い事をしてもらおうと思うのよ。」
「うん。」
「・・・。」
あ、無言なのは私ね。
「それって今考えなくちゃいけないの?」
「別に今すぐ決めようってわけじゃないわ。
敬も本格的に始めたのは二年生の秋だもの。
今はとりあえず、何をしたいかを考えて頂戴。」
「・・・母さんの考えでは私達に何をしてほしいの?」
「・・・二人共、塾には必ず行ってもらうわ。
出来れば2個ほど。
その他のスポーツ系の習い事は余裕があればって感じね。」
「はいはい!俺は剣道したい!」
康が手を上げ、剣道を提案する。
・・・確か剣道って竹刀って言う武器で打ち合うものだっけ?
晴之の息子さんがやってたなぁ〜。
「何故?」
「近くの道場で見学してたことあるし、友達がやってるから!」
「康は剣道ね。他には?」
「水泳!囲碁とかもやってみたい!」
康の後先考えず提案する姿に、私は呆れる。
後々、時間が足りなくなって苦しくなるな、これ。
「・・・敬兄、どう思う?」
「いいんじゃない?僕は水泳と書道とピアノしてるけど、楽しいところだよ?」
「まぁ、今のうちは楽しいって言えるけど、康の性格上、後々になって『つまんない。』『やめる。』って言い出すよ?」
「大丈夫だとは思うよ〜。
父さんたちはそんな中途半端なこと認めないと思うし。」
いやいや、それこそ康がグレる原因になる可能性が高くなるからね?
「翆は?」
・・・今度は私の番か。
「・・・ピアノかな。梨絵ちゃんとやるって約束してるし。
その他は・・・別にいいや。」
「・・・お兄ちゃんたちがやってるんだから水泳はしなさいよ?」
「嫌だよ。私なら海ぐらい普通に泳げるし。
別に肺活量とか筋肉ぐらいなら、いつでも鍛えられる。」
流石にズバッと言い過ぎかな?
まぁ、どんなに子供っぽくなくても、こんな時ぐらい自分の意地見せ付けないと、親は子供だからってつけあがるからね。
私は母親の心境なんかは気にせず言い放ち、お肉を食べる。
「泳ぐのって簡単じゃないわよ?」
「そんなことは分かってるよ。
でも母さんたちは私、が泳げるのを知らないだけ。
この前の海だって、私は母さんがずっと側にいて泳げなかったんだから。」
「・・・そう、ならいいわ。
でも時間は空くわね、塾の数を増やしましょうか。」
不吉な言葉が聞こえてきた。
「塾も一つでいい。
たくさん行った所で、結果はその全てに出せるわけじゃないし。
それに同じ勉強するのに沢山の先生は必要ない。
一つで充分。」
「・・・勉強が大変なのは敬を見てわからない?」
「敬兄の場合は、自分を一番成長させる時間の使い方に、現状があっていないだけだよ。
人の1を育てるのに10の力は必要ない。
1には1の容量しかないのだから、無理やり詰めたところで、溢れるか容器が破裂して使い物にならなくなる。
人の1は1の力に任せて、その人が楽しむかその1に果てない好奇心を持つことによって、その1は10に変わる・・・。」
ここまで言ってハッと気づく。
この台詞は流石に子供っぽくない。
その証拠に、康はウトウトと寝ており、敬は首を傾け、母は目を大きく見開いていた。
「・・・って、図書館にある勉強はなんたるかを書いてた本に書いてあったけど違うのかな?」
「・・・あ、そういうことね。
本の内容をまんまに言ったのね。」
「ん〜?翆は相変わらず難しいこと言うね。」
「ふぅァァァァァ・・・。終わった〜?」
寝ていた康には後でお仕置きをしようり
「あ。ちなみのその本に、頭を良くするためには物事に何故と疑問を持つといいって、書いてあったよ。」
「今度、その本持ってきてくれる?
少し興味湧いてきたわ。」
「う、うん。その内に・・・ね。」
ふう、なんとか誤魔化せたぜ。
額の冷や汗を拭う。
「取り敢えず私の習い事はピアノでいいよ。
その他の時間は迷惑かけない程度に私が自由に使うから。」
「・・・分かった。父さんにはそう伝えるわ。」
「あ、敬兄、康。お肉もうそろそろなくなるよ。」
「あ、本当だ!母さん!もっと入れて!もっと入れて!」
その日、私はパソコンの日記帳にこう記入した。
『もうそろそろ習い事が始まる。
母さんは私の異常さに気づき始めたかもしれない。
どんな物事も60.70点ぐらいの実力を目指すことにしよう。
キャラとしては良くも悪くもない目立たない少女で。』
このときの私は、こんなキャラになれると信じていた。
未来の私が聞いたら即答で「ごめん、なれなかった。」と土下座するほどの人生を送るとも知らずに。
たまに幼少期の出来事をおまけで書きたいと思います。
なにかこういうのを書いてほしいと要望があればどしどしコメントしてください。