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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
日常
6/41

兄、本堂康

「ふぁぁぁ〜〜・・・。」

私はある日の昼過ぎ、部屋で大あくびをする。

さっきまで腹、腕、脚、指の筋トレをしていたから体中がだるい。

筋トレは毎日続けてこそ意味がある。

けど私はこうも思う。

少しずつでいいから回数や質を上げて、日に日に上達していくからこそ自分のものになるのではないか・・・と。

つまり続けるだけでは意味がないのではないか?

最近では肺活量も鍛え始め、高い声を出せるよう発声練習もしている。

やることが増えて大変だ。

「ま、暇だからやってるみたいなものだけどね。」

深呼吸して息を整える。

・・・汗で体がべたつく。

お風呂入ろうかな・・・。

ドアに手をかける。

そしたら・・・


ガチャ・・・


「翆!俺と勝負しろ!」


長男の敬の弟であり、私の兄である次男、康が現れた。






「はぁ、ちょー暑い。」

現在、公園の入り口。

中には、梨絵などの仲の良い女の子たちと康の友達がスポーツ試合の観客のように歓声を出していた。

・・・康から出された勝負。

それは公園の出発地点から遊具を全部渡って、端まで行き、最後は入り口まで走って戻り、その間にかかった時間を競う勝負。

ま、簡単に言うと遊具アスレチック競争だ。

・・・全く、5歳児がなんでこんな運動的な遊び考えつくかな。

カードゲームとかにしろよ。

現代はネット社会なんだから子供だってゲーム大好きのはずだろ。

なんでこんな太陽きらめく日に、外で遊ぶかな。


「あっちぃ〜。」


私は苛つく心を抑えながら横で準備運動を始める康を見る。

こいつは私の見立てによれば、基本何でも出来て、頭がよく、運動神経抜群で、我儘で、生意気で、お調子者で、負けず嫌いな性格だ。

兄弟の贔屓目かもしれないけど、私は才能マンだと思う。

その才能マンは前に、私と徒競走で負けてから、ことあるごとに私に勝負を挑んでくる。

私が拒否したら地面に転んで恥ずかしげもなく暴れて、勝てば悔しがって「もう一回!もう一回!」と駄々をこね、負けてあげれば「手を抜いた!!」と怒られる。

もう、私はどうしたらいいのか分からない。

その上、康は自分の実力をちゃんとわかっているから私の口車に乗らない。

自分をちゃんと理解して、仕切ることが得意であるから、いつもリーダーシップを取っている。

公園の男の子たちがその証拠だろう。


「・・・ねぇ、家でゲームの勝負しよ。

そっちのほうが私はいいんだけど。」


私は目の前の暑苦しい子達の声援に私の精神を攻撃される。

さっきまで筋トレしてたらから余計辛い。

帰りたい。


「何言ってんの!家に面白いテレビゲームないじゃん。

それに俺は翆にボードゲームで勝てるほど強くない。」


こいつ、変なところで冷静だし、自分わかってんだよなぁ〜。

お調子者の中でも、憎めない部類だから怒るに怒れない。


「「「翆ちゃ〜ん!頑張ってぇ〜!」」」

「「「康〜!勝てぇ〜!」」」


声援が暑苦しい。

でも子どもたちの期待する表情は裏切れない。


「さっさと、始めようか。」

「おう!」


走りやすい姿勢を取る康。

なんでこんなにやる気を持てるんだよ。

逆にこの元気が羨ましい。


「行きま〜す!位置について・・・よ〜い・・・」


・・・そろそろ自分の実力確かめるか。

私はこれが丁度いい機会だと思い、足に力を入れる。


「どん!」


私達は駆け出した。

私はともかく、康は流石にちゃんとした5歳児。

故にジャングルジムやうんていを渡るのは全身を使わないと渡れていない。

私?私は右手以外使ってないよ?

いや〜利き手無しは意外に辛いね。

うんていに関しては両手同時に使ってるから、豆ができそうだよ。


まぁ、多少、スムーズに行かなくても私は圧勝した。


男の子たちはマジかよ・・・と口をあんぐり開かせて、女の子たちは凄ーい!凄ーい!と喜んでくれている。

・・・子供相手だけど気分が良くなるよね、こういうのは。


ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー。


後ろから息切れした音が聞こえる。


「康、私の勝ち・・・だね?」


私は左手で顔を多い、顎を上に上げ、安を指さして馬鹿にする。

フハハハハハハ!今まで私に迷惑をかけてきたからこうなるのだ!

私に勝とうだなんてねぇ〜・・・百年早い!


「・・・もう一回だ!」

康は私に指さし、そう怒鳴る。

「・・・よかろう!

しかし!ここで私が強者であることをお前たちに知らしめようぞ!

私は右手を使わないっ!

そして・・・健!お主も参戦するが良い!」


私は応援チームにいる見た目やんちゃボーイこと健くんにそう告げる。


「健!俺たちで翆に勝つぞ!」

「おう!任せろ!」


健は元気よく私の隣に来る。

声援もさっきの倍になる。


「じゃぁ行くよぉ〜。

位置について・・・よ〜い、ドン!」


私達はまた駆け出した。今度はて全体を使わず指を使う。

ハンデを儲けたから、私のスピードは男の子たちと同じになる。


「行けぇー!やっちまえぇー!」

「右手だ!もっと力入れろ!」

「相手は疲れているぞ!今がチャンスだ!」

男の子たちの声援が耳に聞こえる。

うん、元気でいいことだね。


「翆ちゃ〜ん!後もうちょっと頑張ってぇ〜!」

「男の子たちを蹴飛ばしちゃえ〜!」

「翆ちゃん大好き〜!抱いてぇ〜!」


うんうん、女の子達も応援してくれてる。

・・・あれ?変なの混じってなかった?


「よし!ここで!」


声援に気を取られていると、兄、康と健が大ジャンプを成功させ一つの遊具をショートカットした。


まずっ!?


私は急いで二人の後を追い、二人より高く飛ぶ。

次は砂場。

足が取られるからこれで追いつける!

私がうんていを降りて、駆け出す瞬間・・・


「「あ・・・。」」


二人が砂場を囲う、木の棒に足を取られる。

(砂場だ。怪我はしないよね。)

倒れようとする二人の体を見てそう思う。

しかしその考えは砂場を見て掻き消えた。

砂場には誰かが落とし穴を作ろうと持ってきた大きな石があった。

まずい、石は顔に当たる位置にある。

顔面直撃したら、最悪の場合鼻が折れることがある。


「ちっ!」


私は最高の力で地面を蹴った。

その勢いで前に飛ぶ。

体を180度回転させ二人の下敷きになるようにする。

両手で二人を抱き寄せ、そのまま地面に落ちる。


ザザザザザザサザザーーーガリッ!


(痛ッ!?)


首後ろに何かが擦れる感触がする。

多分首後ろ、怪我したか。

痛みで閉じた瞼を上げる。

そこには片腕を擦りむいた二人が、私の鎖骨あたりに顔を埋めていた。


「・・・起きろ、二人共、重い。」


私は両手を地面に倒れさせ、そう二人に呼びかける。

二人は顔を私の方へ向け、5秒間止まり・・・


「「・・・うわっっ!!?!?!」」


飛び起きた。

それと同時に、子供達が寄ってくる。

「大丈夫!?」と心配しながら。


「翆ちゃん!大丈夫!?」

「ん〜、平気だよ。・・・よっと!」


私は痛みを我慢し、手で飛び起きる。


「・・・梨絵ちゃん、首どうなってる?」


痛みの原因である首後ろを梨絵に見せる。

出来れば擦り傷であってほしい。


「血が出てるよ!ちょっと傷が深いよ!」


オーマイゴット。これは治療せないかんか。

首を触ると手にベッタリと血がついていた。


「翆ちゃん!私のお家へ来て!

お母さんに治してもらおう!」

「あ、待って、他に怪我してるところ探さ・・・あ、あの?梨絵さん?」


ガシッと手を掴まれる。

そして声援をくれた女の子達に向かって、親指を立てる。

それに反応し、皆は「「「お願い!」」」と叫ぶ。


「行くよ!翆ちゃん!」

「え?だからちょっと待っ・・・ちょちょいちょいちょーーーーいーーーー!?!!?!」


私は梨絵に引っ張られ早数分で梨絵家に連行された。

その速度は私を超えていて、痛みより驚愕に襲われたのは言うまでもない。








「翆だぞ?・・・妹だぞ?」

「あれ?おかしいな・・・・」

「「なんで・・・」」

「「こんなにドキドキしてるんだ?」」


公園には顔を真っ赤にした二人が残され、翆は二人に意識されるようになったことを知らずにいた。

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