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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
転生は起こった・・・彼女は何思い何を願う
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兄、本堂敬

コンコン。

私は兄、敬の扉を叩く。

「・・・はい。」

扉のむこうから返事が聞こえる。

ドアノブを回し、音をたてないよう部屋に入る。

「よっす、敬兄。勉強お疲れ様。」

「・・・あぁ、翆?

どうしたの?何か用?」

夕方、私は遊びから帰ってきて兄の敬の元へ行った。

部屋に入れば机に突っ伏した兄が映る。

「いんや、親には内緒でプリン持ってきただけだよ。」

「あぁ〜、ありがと〜!」

私はベットに座って、兄にプリンを渡す。

そして自分の分も食べる。

兄は脳の使いすぎでか糖分が足りてないらしく、スイーツが好物だ。

ほら、その証拠に、顔が今、すっごくニヤけている。

プリンひと口でこんな嬉しそうな表情をするのは買ってきてあげる価値があるよね。

「で、どう?勉強、進んでる?」

「全くだよ。さっぱり分からない。」

机に突っ伏す兄、敬。

まぁ、それもそうだ。小2の男子に勉強漬けは流石に精神的に辛いだろう。

私が変わってやってもいいけど、親はそれを良しとしない。

「大変だねぇ〜。やっぱり長男ってだけでデメットがあるか。」

「もう・・・やめたい。」

純粋な愚痴が兄の口から溢れる。

これは絶対本音だね。

記憶の中の男の息子も同じだったな。

「まぁ、お父さんのスパルタ教育は流石にやりすぎだけど、今身に着けた知識は後々役に立つよ?」

私は空のプリン箱をスプーンで突く。

「どのように?」

「そうだねぇ〜。強いて言うなら、中学生、高校生、大学生になるときに知識が多いほど選べる学校が増える。

後は私達が20代になった時の就職の時に、頭が良いと好きな職業を選べて、お父さんの怒る顔を見れて笑える・・・かな?」

「・・・ん?」

うー、わからないか・・・。

単純に略すか。

「勉強続けて、天才になったら、大人になってお父さんを怒らせて、その顔を笑うことが出来る。

簡単に言うと大人になってお父さんを部屋に閉じ込めたり何度も罵倒できるってこと。

仕返しって言ったら分かりやすいかな。」

「・・・。」

パァァァ!と嬉しそうな顔になる敬。

そこまで父に恨みを持ってたか。

「あ、後、お父さんの暴力に屈しないために体は鍛えたほうがいいよ。

足を早くして、パンチ力を上げるぐらいはしたほうがいいね。」

前に一回、敬が勉強が嫌になって駄々をこねたことがある。

その時、母からビンタ、父からはパンチを貰ったらしい。

おかしな家族とは思ったが、今の時代、記憶のような安全で幸せな日々なんて珍しい部類だから、敬に忍耐力をつけるのには役立つだろう。

というより、子供が親に立てつけるわけがない。

私のように方法を知ってるなら別だが。

「あ、それなら大丈夫!昼休み、みんなで鬼ごっこしてるから脚力には自信あるよ!

パンチは・・・どうしたらいい?」

「今度、暇なときに技を教えるよ。」

兄、敬には大人になって頼れるように、こういう時に恩を売っておこう。

ていうか、父は厳しすぎなんだよな。

いくら自分の息子でも、自分の価値感を無理やり押し付けるのは良くないよね。

「ま、よく覚えておくことだね。

お父さんの人として好きになれるとこ、嫌いなとこ。そこの区別はちゃんとつける。

真似したくないことは今後も絶対真似しないと心に誓う。

その方が将来、敬兄は幸せに生きられるよ。」

ブリンの空箱を持ってきた袋の中に入れる。

もうそろそろこの部屋から立ち去ったほうがいいかな。

「・・・なんか翠、大人みたいだね。

僕には翆の言ってること全部は分からないや。」

分からなくていいんだよ、今は。

知らぬが仏。子供のうちは理不尽に怖いものなしで挑め。

大人になって、その経験は絶対人生の役に立つ。

ま、私の予想では敬は、我が道を行く立派な男になってるんだけどね。


パタ、パタ、パタ・・・


敬のプリンの空箱を受け取ると、ドアの外から足音が聞こえた。

これは多分、父の足音だ。

勉強してるか確かめに来たのだろう。

「敬兄、お父さんが来た。」

私のその一言ですべてを察しのか、敬は勉強している姿勢を取る。

私はバレないようにクローゼットに隠れる。


ガチャ・・・


「敬、出した課題は終わったか?」

「・・・いや・・・まだ途中・・・です。」

カリカリと書く音が聞こえる。

敬も大変だ。

「遅いぞ。何時間かかってると思っているんだ。

出来ないにしても程がある。」

「ご、ごめんなさい。」

父よ。お前は頭はいいが馬鹿だ。

まだ敬は小学二年生。

難易度の高い勉強は出来なくても仕方がないんだ。

まだ思考能力も育てていないのに、勉強ができるわけがない。

勉強するにしても順序があるだろう。

簡単なものから難しいものへ。

最初から難しいものでは、出来るものも出来ないのは当然だ。

それを出来ると勘違いして、敬に押し付けるのは愚行そのものだ。

「また夕食前に見に来る。

それまでに終わっていなかったら夕食はなしだ。」

ガチャっと、扉の開く音がする。

部屋から出たのだろう。

安心してクローゼットから出る。

敬は落ち込んでるのか机に突っ伏していた。

敬よ。お前は基本何でもできる人間だ。

はじめは苦手でも数時間でも数十分でも練習すれば出来るようになる天才だ。

だから、ゆっくりと積み上げていけばいい。

まぁ、父には見る目がないのか気づいてないが。

本当に惜しい人間だ。

目の前の子供は優秀であるのに、父よ、お前は一つの考えで全てを無にしているのだから。

「・・・頑張れ、敬兄。」

私はぽんっと敬の頭を撫でる。

「もう・・・やりたくない・・・。」

おっと、またもこの愚痴という本音が出たな?

・・・はぁー、仕方がない。

「敬兄、答えがわからず、時間に追われたなら答えを見ろ。

答えを見て、方法を知る。

そうすれば頭に知識入るし、時間も短くなるから一石二鳥だよ。」

「・・・答えっ!」

棚から今やっている問題集の答えを取り出す。

この方法は思いついていなかったのね。

「でも5分間はちゃんと考えてやるんだよ。

でないと理解してるかどうかわかんなくなって、確認テストのとき間違えたら殴られることになるからね。

そういう私だって、ちゃんと自分で考えないで、答えを写す人を好きにはならない。」

「痛いの嫌だし、嫌われたくないからそこはちゃんとするよ!

僕だってせこいことはしたくないさ!」

「それならいいんだよ。

あと一時間、頑張ってね。

私は部屋に戻るから。」

「う、うん!プリンありがとね!」

「おう。」

手をひらひらと振り、部屋から出る。

うむ、これで元気が出たのかな?

私は安心して自分の部屋に戻る。

そして、兄だけでは寂しかろうと、私は中学の勉強をし始める。

しかし、記憶の中の男・・・見るからに勉強してない。

休みもぐうたら寝るか、旅行に行っている。

それなのに頭がいい。

・・・羨ましいな、本当に。

私は記憶の中の男に嫉妬するのであった。

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