主人公とヒロイン(男バージョン)
「で、なんでここなの?」
私は天峰君との勝負に勝ったあと、開口一番そう口にした。
理由は極単純。
少し、話そうと場を儲けようとしたら・・・天峰君は団地の屋上へと私を連れてったからだ。
普通家に招き入れてくれると期待したのに、裏切られた気分だ。
「え?屋上が邪魔も入らないから良くない?」
まぁ、屋上だってよくあるストーリー展開の場所では御座いますけれど・・・
「あ、家は止めてよ。」
私の不満が通じたのか、天峰君が真剣な顔で言う。
「俺は学校の出来事を極力!家には持って帰らない主義なの。
親に俺の学校生活がバレて何度迷惑を被ったことか・・・っ!」
「何かあったの?」
私が尋ねるとバツの悪そうに天峰君は応える。
「・・・いや、まぁ・・・俺が喧嘩して、母さんが問題やら何やら言って大げさにして相手側に迷惑をかけたってだけ・・です。」
「お義母様何一つ悪くないやん。」
優しいお義母さまではないですか。
子供のために動けるのはいい親の証拠ですよ?
「・・・だって、俺は怪我してないから・・・さ。」
「いや、怪我しなかったからって、その可能性があるだけで駄目なことだからね?
親が怒るのは当然のことだからね?」
「・・・うぅ、そうだけど・・・」
正論だからか、天峰君の背中が丸まっていく。
ついには屋上の床を、指でグリグリし始めた。
「そりぁね、俺はどっちかって言うと被害者だよ?
でもさ、あっちは怪我したんだ・・・。
泣くほどなんだよ?
・・・それでまた怒られるのは・・・なんか申し訳なくて・・・。」
す、すげぇ、この子・・・負けた相手に同情してやがる。
これを聞いたら喧嘩相手も怒るだろうなぁ〜?
私は苦笑いして・・・
「ま、君の行動が起こした結果なんだから、グチグチ行っても変わらんさ。
さっさと受け入れることだね。」
天峰君の頭を撫でた。
ふわふわの黒髪。
寝不足なのか少し黒い隈の上にあるクリッとした目が私を映す。
「・・・はぁ、どこかに催眠術でもあれば楽なのに。
そしたら・・・楽なのになぁ〜。」
そして、ちっと、私の前でわざとらしく舌打ちされた。
「お、私を見ていったな?よし、そこに立て。
サンドバッグにしてやる。」
「康君が言ってたのを真似しただけです。」
「後で締めるの決定。」
天峰君はふふふ、と笑い、立ち上がる。
そして背景を夕方に口を開いた。
優しそうな笑みを私に向けて。
「で、翆さん。本題に入ろうか。」
彼は言った。
「貴女の俺に何を望む?」
彼は諦めたように、だけどどこか嬉しそうに言う。
彼の目は私を映していた。
私の全体を捉えていた。
・・・気になった。
その優しく包み込むような目は、私にこう言ったように思えた。
『貴女の未来で自分をどう扱う?』
受け入れているようだった。
まるで、自分がどれだけ辛い目に合うかもわかっていながら、それを受け入れるようだった。
私は理解した。
彼は何でも許してしまうのだ、と。
自分の身に起こること全て許せてしまうのだ。
しかし自分のせいで他人が傷つくのはとても嫌う。
自分はいい。けど周りはだめ。
素晴らしい自己犠牲。
美しくもあるが・・・儚く情けなくもある。
でも・・・だからこそ・・・変わり者は彼に集まってしまう。
許してもらえるから、安心し、大事にしてくれるから、安堵して生きられるから。
そんな彼だから直球にたずねたのだろう。
許したいから。
事前に知って対応が取れるようにしたいから。
私は歓喜した。
『彼だ。彼だけが・・・私を支えられる。』
私はこの時だけ、感情を抑制するのをやめた。
私の言葉は、腹から空気を奪う。
「私の隣に居てもらう。」
私は笑顔なのだろうか。
それはわからない。だって鏡はないから。
「私の居場所に、私の目的に、私と対等に、私と同じに・・・」
羞恥心はこの時はなかった。
口から出る台詞は本心で、吐き出すだけで気持ちが良かった。
「君のせいだと、君のお陰だと、君のためだと、君だからと・・・」
体が軽い。溜め込んでいたのが流れ落ちたようだ。
何一つ変わっていないのに、消えてすらいないのに・・・
風が私達を揺らす。
涼しく、私達の髪を撫でる。
「そんな私の愛に・・・なってもらう。」
彼は沈黙する。
唖然としたような表情で・・・数秒、沈黙する。
次に表情が変わる。
私は驚いた。
変わる彼の表情は、私の見たことのない顔だったから。
「・・・俺で・・・いいのかな・・・?」
泣きそうだった。迷子の子供のように。
知らない地に立たされ、誰も頼れない臆病な男の子。
そんな子が目の前にいた。
加虐心が少なからず湧いた。
いつもは元気そうに振る舞っている子の本心は、とても傷つきやすい弱々しい子なのだと知った。
ギャップだろう。
泣きそうな顔がとても可愛らしく見えた。
彼に張り付く殻を壊してみたくなった。
ハ・・・・ハハハ・・・
その心に気づいた私は気づけば笑っていた。
ハハ・・・・アハハハハハハハハハハハっ!
「君でいいのかってっ!」
ここまで私のやる気を掻き立てるものがあっただろうか。
私の目的にふさわしい子がいただろうか。
否・・・いない!
私の持つ記憶の中にも、こんな子は始めた。
好奇心の湧く子は初めてだ。
知り尽くしたいと思えたのは始めたっ!
こんなに求めたのは初めてだ!
「君だからいいっ!」
私はドクドクとなる心臓を抑えて言う。
「もう決めたっ!」
早くなる鼓動を抑えても、全然収まらない。
流れる血は早くなる。
私は体を制御できない。
足が彼へと近づいていく。
「枷であったとしても君だけは手放さないっ!」
彼は怯えない。
ただ私がもとに来るまで待つ。
「気に入らないところは私が治すっ!」
泣きそうな顔は変わらない。
崩れてしまいそうなその目は・・・私の目を受け止められている。
「私色に染め続けるっ!」
私は彼の顔を両手で挟んだ。
「もう君は・・・
私のモノ。」
私と彼の唇は、重なった。
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「・・・なんて事だ。」
ある休日、親友は公園で頭を抑えつぶやいた。
「どうした?」
俺は何があったのかと聞く。
だが百聞は一見に敷かず。と言葉がある通り、一目見ている俺は、親友が何に悩んでいるかは分かっていた。
親友の手に持つのは、厚さ10センチとなる書類。
親友はそれに目を通し、内容を全部覚えようとしている。
「それって・・・本堂さんのものだよな?」
俺は尋ねる。
一昨日、天峰は本堂さんという主を手に入れたと予想される。
今日は色々聞こうと思ったのだが、一日立つと、親友の元気はかなりなくなっていた。
多分これは本堂さんのせいであるのだろう。
書類の1ページ目に本堂翆と名前が書かれているのが、何よりの証拠だ。
「あぁ・・・あの人の・・・記憶の一部。」
「へぇ〜。」
書類を覗いてみる。
そこには・・・
「ん?ギターの使い方?」
写真付きのギター使用法が書かれていた。
「あの人、芸術で食っていけるようにしたいんだとさ。
取り敢えずは音楽でってことで、俺の仕事はギターの使い方とコードやら何やらを丸暗記することらしい。」
疲れたように背もたれに背を預ける。
「え?無理じゃね?」
「・・・俺もそう思う。
それに俺は器用ってわけでもないしね。」
「いやまぁ、それもあるけど・・・普通楽器は実践して覚えるもんじゃないの?」
楽器に関わらず、ゲームもスポーツもやってなれるものだろうに?
ただ単に暗記だけじゃ何一つ技術はつかないでしょう?
そう疑問をぶつけると・・・
「俺もそう言ったよ。
そしたらな・・・『基本を覚えてないくせに実物に触れると思うな。』だってさ。」
超辛辣。
「正論と思ったから言い返せなかった。」
おう、親友の背中がなんかいつもより情けなく感じる。
「でもね・・・作るならいいんだってさ。」
「作る?」
ギターを子供が作れるわけ無いと思うけど?
そう思ってると、天峰は書類をペラペラとめくり、あるページを俺に向けてきた。
そこに書かれていたのは・・・
「ギターに似たエセダンボールギターの設計図?
・・・え?ダンボールだったら作っていいってこと?」
「おう、昨日材料取ってきた。
今日、作るんだ・・・。」
遠い目をしているっ!?
「・・・いつもみたいにサボらないの?」
天峰は嫌な事からは縛りがないなら普通に逃げる性格だ。
休めるときは寝るが基本なのを俺はしっている。
今までその様子を何度も見てきた。
なのに今回はそれがない。
珍しいことだ。
「う〜ん、あの人には逆らえないんだよね。」
少し悩んだ末、出た答えはこれ。
何とも尻に敷かれているという言葉が似合う人もこうはいまい。
「ま、もっと正確なことを言うなら・・・暇だからが一番だな。
寝てるだけの人生は勿体ないし、そろそろ将来に向けて動いてもいい頃合いだと思ってね。」
妥協が混じっているのは気のせいだろう。
でも親友に目標ができたのは素直に喜ばしい。
ここは素直に俺も喜んでおくかな。
少し気分が良くなると・・・
「本音だと・・・。」
「本音?」
親友は少しニコッと微笑みこう言った。
「翆さんといたい・・・からかな?」
今日、親友の一番楽しそうに笑う顔が初めて見えた。




