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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
28/41

負けの勝負

「不気味だなぁ〜。」


俺こと神無月天峰は何も変わらない帰路をたどっていると自然と言葉が出た。


「あれだけ俺の事追いかけて来たのに・・・」


今日の出来事を思い出してみる。

翆さんの狂気に染まった様な追いかけてくるときの笑みを思い出し、背筋が震えた。


あの目は獲物を狙う目だった。

別に俺が何をしたわけでもないが、翆さんにとって今日の俺は肉食動物の縄張りに一匹で入ってしまった草食動物だったに違いない。


「・・・確か待ち伏せするって言ってたんだっけ?

・・・居ないね。」


俺が怯えていると、隣で1番の親友こと江本健介が辺りを見渡しそういった。


俺達の家は坂の上にある団地。

故に歩きで団地につくには川に隣接する俺達が歩く坂しかない。

しかし、周りを見ても翆さんの気配はなかった。

今が絶好のチャンスだというのに不気味なことである。


「で、今日、一日中追われて、彼女のことどう思ったのさ?」


俺があたりを警戒していると、健介が聞いてきた。


「・・・純粋に阿呆だと思った。」


俺は続けて言う。


「あの人、全力すぎるんだよ。

俺のどこを気に入ったかは知らんけど、持てる全てを使って俺の位置を知りやがったんだから。」


近くに居たやつに俺がどこに行ったか聞くし、見失ったら手当たり次第に調べ上げるし。

妥協を知らないのかと突っ込みたかったな。

それに一々迫ってくるのに笑顔にならないでほしい。

なんか・・・怖い。


「俺なんか手に入れてもなんの得もないってのにさ。」


イマイチ、あの人の目的が分からない。

天才で、頭が良くて、実力もあり、諦めも悪く、努力もできる。

俺の上位互換すぎる人なのに・・・なぜ俺を求める?

いくら考えてもわからない。


「得がないってのは違うんじゃないの?

安心する、頼れる、味方でいてもらえるっていうメリットもあるでしょ?」

「ぶはっ!俺と一緒にいて落ち着くやつはすぐに精神科に行くべきだろっ!

少なからず心に病があるぜ。

あり得るのは底辺のやつ見て落ち着くとかな。」

「自己評価低っ!?」


そんな雑談をしながら坂を登る。


川のせせらぎ、草木のなびく音、鳥の囁き、どれもが心地よい。

本当・・・この得体のしれない恐怖さえなければスキップをしていたまであるな。


「・・・でも本当に天峰のどこに興味を持ったんだろうね?」

「・・・俺の滲み出る・・・カリスマ性かな?」

「はい、そう言うくだらない事いいから。」


いいじゃん。少しぐらいカッコつけても。

そんな素っ気ない態度だと僕ちゃん傷ついちゃう。


「ま、どんなことだろうどどうでもいいさ。

大事なのは俺がいかに平和に過ごせるか。」

「人生に刺激がほちいよぉ〜、とか言ってるのに?」

「・・・あの人の場合、刺激で済むとは思えない。」

「それには激しく同意。」


多分だが振り回されることになるだろう。

噂ではあの人は、裏番長をやってたり、毎日上級生と喧嘩してたり、先生を恐喝してたり、モデルをしていたり・・・。

なんか色々言われているのだ。


勿論全部ほぼ嘘だというのは分かっている。

しかし風の立たぬところに噂なんて流れない。

嘘であろうと近いことはしているのだろう。


ならどちらにしろ、俺があの人のものになった時にはもう・・・言葉では表せれないほどの苦労を感じることだろう。


・・・それは非常に・・・面倒くさい。


想像できる未来に俺はため息をつく。


「・・・って、何決まったように考えてんだ。

捕まらなければ俺は自由を手に入れられるんだ。

気を抜くんじゃない。」

「捕まっても退屈しなさそうだけどねぇ〜。」


まぁ、それもそうだな・・・。

毎日暇してる俺なんて、誰かに縛られるぐらいが丁度いいだろうし。

翆さんなら悪いようにはしなさそうだし・・・


「っとぉ〜!?アブねぇえー!

危うく心を許してしまいそうだったぜ・・・。」


なんて罠だ。

翆さんは人間の思考を操る力でもあるのだろうか。


「・・・楽しそうだなぁ〜。」


俺の表情の変化を読み取ってか、ケタケタとわらっている。

あー、所詮は他人事か。

気楽でいいですね。


「・・・って、もう団地前まで来ちゃったけど・・・居ないね。」

「・・・なんか学校であんだけ追われて、ここまで居ないとなるともっと怖くなるんですけど。」

「安心したらいいのに・・・もしかしたら待ちくたびれて帰ったのかもよ。」

「へっ、あんな人がそんなしょうもない根性の持ち主なわけ無いだろう?

俺の予想ではもう俺の家の中にまで侵入してるってのが浮かんでる。」

「それは・・・もう逃げれないじゃん。」


そうだ。もう俺の親を手玉に取っているのであれば、もう俺の勝算はなくなる。

だが、この勝負の俺の勝利条件は、俺が家に帰る事。

家の中にまちぶせていようとそれは俺の勝ちになる。


そう考えると諦めて帰ったのがあり得るか?


「ま・・・何もないならそれはそれでいいか。

明日学校行って文句言ってやるだけだし。」

「ハハッ、まあ頑張りなね。

じゃ、俺はここで。

結果どうなったか明日教えてね。」


家の団地は2つの塔3とつの塔が公園を挟んで並んでいる。

健介は一番初めなのでここで分かれる。

家までついてきて欲しいが、それを言ったらからかわれる気がしたので我慢しよう。


「お〜、まぁ、楽しみにしちょれ。

あっと驚く結果にしてやる。」

「結局本堂さんが勝つ未来が見えるわ〜。」

「見とけっ!俺が勝ってあっちを俺のものにしてやるっ!」

「白昼堂々と告白してる。」

「・・・///。」


なんてこと言いやがる。

これでは俺があの人に思い馳せているようではないか。

断じて違う!断じて違うぅぅぅぅ!


「ま、期待しないで待っとくよぉ〜。」

「友達なら友達らしく俺のみの心配しろっ!」

「ハッハッハ・・・。」


俺が文句を言うと、笑いながら健介は塔の中に入ってった。

逃げやがったし・・・


「・・・はぁ〜、行くか。」


俺はため息を付き、ランドセルを背負い直して自分の家へと足を動かした。

下のコンクリートを足で踏む。


今日の喧騒がなくなり、俺は無心となる。

考えることもなく、騒ぐこともなく、不安になることもなく、俺は一歩一歩、前へと出る。

俺はこの時間が・・・






何よりも嫌いだ。






『寂しい。』


俺は毎日思ってる。


『満たされない。』


毎日思い悩まされている。


生憎と俺に夢はない。

趣味もあるわけない。

故に何をしても心から歓喜することなど俺には出来なかった。

剣道とて、試合に勝っても『あー、勝ったな』と、負けても『あー、負けたな。』と、悔しい気持ちは出れどそれで妥協してしまうのだ。

俺には全力を出せるものはなかった。

満たされることはもうなかった。


いつも何をするにしても、それは今日のするべき事。

今日起こると決まった事。 

そうと思ってしまうのだ。


親友との会話も、学校で勉強するのも、友達と外で遊ぶのも、親と会話するのも。

ただの暇つぶしだった。

だからどんどん本当の俺の心は、孤独で満ちていく。


でも・・・それでも・・・自分の心はごまかせた。

それなりに無駄にしている時間を、有益にできていた。


それが今日・・・


初めて、俺は退屈と思わなかった。


追われているとき、全力で相手してくれている事に少なからず自分も全力を出せていた。

何度もくれるチャンスに、俺の意欲は掻き立てられた。

隠れても、つまらないと思う前に、見つけてくれた。


多分、俺は翆さんといれば人生は満たられる。


俺はそう思った。

けど・・・


「怖いん・・・だよな。」


俺は昔から感が働く。

長い目で見るべきこと全部、俺の予想通りだった。


そんな俺が初めて、依存できる存在を見つけてしまった。


翆さんだ。 


どうしようもない俺を受け入れてくれる存在に手が届いてしまう。 

今日それが分かってしまった。


けどあまりに唐突なことで、未来に予想される人生に不安が生じた。

予想に不具合が生じた。

不確定な未来にさらにノイズと砂嵐が混ざる。

俺は恐怖を覚えた。


だから俺は・・・翆さんを拒絶した。


しかし翆さんも同様か、俺を手に入れようと躍起になる。

だからか、今日の勝負を提案した。


でも・・・


「居ないよな。」


俺の視界に彼女は映らない。

美人で気怠そうで、阿呆で、天才で、笑顔が上手な女の子はいなかった。


俺はそれに・・・


「まぁ、こんなもんか。」


結局自分は満たされないまんまなのだと、思ってしまった。



・・・あとから考えれば馬鹿だった。

だって俺より優秀なやつが俺を手に入れようとしてるんだぜ?

俺か逃げられるわけがない。


後々、俺は爆笑することになる。


ただの静けさに人生を見出そうとする俺はなんて馬鹿なことだろうと。


そんな未来、俺は思いつかずに身を襲う寂しさに、下を向くしか出来ていなかった。

自分の不運さを呪いながら歩いていると、公園の前を通る。


そこで声が聞こえた。


「やめてっ!」


女の子の声。今日何度も聞いた、聞くだけで落ち着く声。

俺はハッと、公園の方へと向く。

そこには白いワンピースを着た翆さんが・・・6年生だろうか。

背の高い男たちに囲まれていた。

翆さんは怖いのか、地面にペタリと座っている。

男たちに髪を持たれている。

それを見た瞬間・・・


「ちょっと待ったぁぁぁァァァァ!」


気づけば俺は駆け出していた。

男たちに向かって叫んだ。 

男たちは背後にいる俺へと振り向く。


「・・・。」


困った。勢いで駆け出したけど止める手立てがない。

翆さんがやられてる時点で俺に勝ち目なんてないし・・・

だがここで『やっぱなんでもないです。』と下がったらそれはそれでダサい。

これは・・・


「あー、えー・・・オンナノコ、イジメル、イクナイ。」

「「「「??」」」」

「・・・。」


おっと・・・何だその純粋な目は。

俺がいたたまれないだろう?


・・・。


あー、そんな目で見ないでぇーーーっ!

ゴメンナサイ!格好悪くてごめんなさい!

だから沈黙しないで!


「・・・・?誰だ、てめぇ?」


お、やっと質問してくれたっ!


「あー、そこの子の・・・。」


しまった。なんて言おう。

こんな所で自分の名前なんて言いたくないし、バレたくない。

う〜ん・・・。


「何だ?こいつの彼氏なんか?」


一人に睨まれる。

・・・あれ?一体俺と翆さんの関係って正確に言うと何になるんだろう?


・・・変態と一般人?


でもこんなこと言ったら関係ないやつは関わってかんなよって言われるかもだし・・・


カップル?


それは俺が嫌だ。良くも知りもしない人を彼女にはしたくない。


ん〜・・・


「・・・保護者?」

「「「「保護者?」」」」


それが一番この場を抜けられる答えかな?

っておい、翆さんまでキョトンとすんな。


「まぁ、どうでもいいや、おい、保護者。

そこで見とけ、今からこいつに制裁を加えてやる。」

「いやぁ・・・っ!」


一人が拳を振り上げる。

それに翆さんは怯える。

・・・やっぱり女の子なんだろうなぁ〜。

なら・・・弱くても男の俺が助けなきゃならんか。


「おぉいっ!分かった、OKー!!

ワイが相手になっちゃるからっ!

・・・よし!ほら来いっ!来るがいいっ!」


上級生たちの前にガバッ!と出る。

そしてジャブの構えを取る。

ダサいが見捨てないことで許してほしいところだ。


「「「「・・・。」」」」

「・・・。」


やめて。沈黙しないで。

せめて殴りに来て。

いたたまれないから・・・。


多分今の俺の顔は真っ赤のはずだ。


「・・・はぁ〜、そろそろいいんじゃないのか?」


恥ずかしさのあまり俯いていると、上級生の一人がそう呟く。


なに!?許してくれるの!?


顔を上げてみると、上級生たちは苦笑いしていた、


ん??


「つ〜かま〜えた♪」


後ろから柔らかい感触がする。

恐る恐る後ろを向くと翆さんが小悪魔のような顔で抱きついてきていた。

この表情はTVでよく見る悪役の企みが上手く行ったときの顔!


このとき理解する。


「騙したなぁっ!!」


俺はまんまと罠に嵌められたと。


「うんっ!」

「きれいな笑顔だなこの野郎っ!」


前の上級生たちを見てみると・・・


「あんたらもグルかっ!」


申し負けなさそうに笑っていた。

目を合わせないのはやましいことがあるからだろう。


「そのと〜おり♪」

「し、仕方なかったんだ!翆さんの言うことには逆らえず・・・っ!」

「年上の意地見せてっ!?」


なんで年下の女の子に従ってんの!?

年上として恥ずかしくないのっ!?


「「「じゃ!俺達は帰るっ!!」」」

「逃げるな馬鹿ァァァァァァァァ!」


上級生たちはバッと嵐のごとく逃げていく。

その背中はさながら狼に狙われる兎のようだ。

そしてその狼に捕まえられている俺は・・・さながら鼠だ。


「・・・あ、騙された・・・俺の親切が・・・。」


走り去っていく上級生の背中はどこか自分のプライドのようで・・・遠ざかって行くのと同時に俺の何かが崩れるような気がした。

背中が見えなくなると、後ろの悪魔が耳元でささやく。


「勝負・・・私の勝ち・・・だね♪」

「もう・・・好きにして・・・俺は・・・疲れたよ。」


この時、俺は本堂翆と言う女性の召使いとなることが決定した。


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