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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
23/41

持久走大会1,1

「・・・持久走大会ねぇ〜。」


ある日の太陽の煌めく中、私達一年生は運動場に集まっていた。

理由はかんたん。学校行事の持久走大会だ。


「私動くの苦手だなぁ〜。」


見るからに嫌そうな顔をする梨絵。


「翆ちゃんは男の子達と同じ距離、走るんでしょ?」


この時代、女子は男子より身体能力が低いとされている。

故に男女同時に走るが、女子は男子より走行距離が少ない。

しかし私は先生に男子と同じ走行距離にしてもらった。

なぜかって?

それは久々に自分の全力を、出さないと実力ってのは衰えるからね。

他にも毎日続けている体作りがどれだけ身になっているか、完璧に測定したいってのもあるけど。


「うん、女子の中で走ると一位になるのは確実だからね。

もし男子の中でも一位になったら、からかってやろうかな?」


準備運動をしながら梨絵と雑談してると・・・


「翆さんっ!私と勝負して!」


ヅカヅカと音を立てながら近づいてくるポニーテールの娘が来た。

誰だ?この子?

頭の隅で記憶にある顔と一致作業を行うが該当する人物は出てこない。


「あれ?坂口さんも男の子達と同じ距離走るの?」

「うん、そう先生に頼んだんだ。

でもっ!聞けば翆さんっ!

あなたもそうするそうじゃないっ!」


梨絵に対しては普通の女の子の対応なのに、なぜ私の時だけそんなに敵意剥き出しなの?

私なんかした?


「まぁ、そうだけど・・・」

「なら私と勝負してっ!」


なぜそうなる?

私が多分嫌そうな表情をしていることだろう。

返事に困っていると・・・


「坂口さんは走ることが好きな子なの。

それに競争心もちょっと強いんだ。

前に翆ちゃん、お兄さんと公園で競争したことあるじゃん?

その時からライバル視してるよ。」ボソっ


知らなかった。

まさかそんなことで私の実力を見抜ける子がいたなんてっ!?

ってか、なんで私の知らないことを梨絵は知ってるんだろう?

多分梨絵のほうが、私のこと私より分かっているのではなかろうか。

・・・取り敢えずこの子の心情はわかった。

・・・受ける理由もないが断る理由もないか。


「いいよ。」


私は勝負を受けることにした。


「本当っ!?」

「あぁ、でも条件付きね・・・怪我はしないこと。」

「もちろんしないつもりだけど・・・?」

「気をつけることだけでも頭入れといて。

もし今怪我してもう走れませんじゃ、それは悲しいでしょ?」


私の今やる準備運動もそれを回避するためだしね。

何事も怪我しないのが一番さね。


「・・・分かった、怪我しそうになったらゆっくり走る事にする。」

「それが判断できるような賢い子なら何回でも勝負受けるからさ。

今日負けても自暴自棄にならないようにね。」

「〜〜ーーっ!!??!?・・・絶対一泡吹かせてやるっ!」

「頑張りなねぇ〜。」


ドスドスと今度は大きな音を鳴らしながら帰ってく。

やはり子供たちを、からかうのは反応が面白いね。


「翆ちゃん。・・・流石にど直球すぎるよ。」

「今の元気な子どもたちは煽ってあげるぐらいがちょうどいいんだよ。」


ピーーーーーっ!


笑っていると、ホイッスルが鳴り響く。


「さ、始まりだ。」




私は深く息を吸い込んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガヤガヤガヤと周りは騒がしくなる。

特に男子が元気だ。

やはり子どもたちは何かと外で思いっきり運動がしたいのだろう。

それに比べて女子はあまり乗り気ではない。

運動ができて嬉しそうなこともいれば億劫だと嫌な顔する子もいる。

どの時代でも子供は正直だ。


「じゃあ、皆さん走る場所は間違えないようにしてくださいね。」


先生が一年生全員に向かって注意事項を言う。

走る内容は運動場ではなく、この学校の敷地全体を使う内容になっている。

男子は4週、女子は2週。

距離自体何百メートルあるかは知らないが一年生には少し過酷な内容かもしれない。

ま、私にとっては楽勝だがな。


「所々に先生や水分補給できる場所があるので、ちゃんと気分が悪くなったりしたら報告すること。

わかりましたか?」


過酷でも先生たちがちゃんと安全策をとっているので問題はないだろう。

熱中症にならないようにね私も見ておこうかな。


「じゃあそろそろ始めますねぇー!

位置について・・・・よ〜い・・・」


とりあえずはじめは目立たないように中間にいようかな。

私はそう思いながら心を切り替える。


「ドンっ!」


そして先生の合図と同時に駆け出した。

周りにははじめから飛ばす子、友達と笑い合いながら話す人、目のハイライトを消しながら走る人、様々な子がいた。

私はちょうどそれらの中の中間にいる。

そして隣には・・・


「・・・私、体力ないから途中からは別行動になるなぁ〜。」

「私達は男子に合わせてるから、梨絵ちゃんは自分ペース守ったほうがいいよ。」


坂口さんと梨絵がいた。


「・・・翆さん、言っとくけどわざと負けないでね。」

「な〜んでそんなに私を敵視するかなぁ〜。」


まぁ、私をライバル視するかどうかなんて、相手の勝手だけどさ。

けど・・・少しは楽しそうにして欲しいな。


「坂口さんは走るの好きなの?」

「うん、なんかスッキリしない?」

「私はあんまり走んないからわかんないなぁ〜。」


・・・やっぱり私と梨絵とでは対応に差があるな。


「あ、でもスポーツはそこそこ頑張ったりすると達成感あるよね。」

「そうっ!ゴールしたらやったぁっ!って嬉しくなるのっ!」


二人のテンションが凄い。

・・・喋りながら走るとは余裕がありますことね。


「さてと・・・ペース上げるか。」

「っ!?」

「ひぇぇぇえっ!?ついてけないよぉ〜。」


私は足の回転速度を上げた。

坂口さんは焦ったかのようについてこようとした。


(・・・この子は競争心が少し強いな。

・・・持久戦の試合じゃあ相手に乗せられやすい性格だろうね。)


私はいたずら心が発動し、後ろを見てへっ、と笑ってみせた。


「・・・っ!?・・・っ!」


そしたら予想通り私の横へと張り付いてきた。

私はアドバイスとして言う。


「自分のペース崩したら勝てる確率低くなるよ。

煽られても自分を持てるようにならないと。」

「・・・っ!・・・その通りだけど・・・っ!

けど悔しいから・・・今超える努力をするよっ!」

「そですか・・・。」


坂口さんは先へと走っていった。

私はその後ろ姿を見て溜息をつく。

多分この勝負は私が勝ったほうが、後々楽なのだろう。

負ければ下に見られるか、手を抜いただろと激怒され、勝負を申し込まれるか椅子が倍増するに違いない。

均衡した感じで勝てば、勝負はなくならないものの回数、難易度は特別難しくなく対応できるようになるだろう。


私は欠伸を噛み締め、たまに遊びで呼吸を止めたりしながら走り続けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「暑いな。」


季節は夏に入ってもうそろそろ秋になるかという時期。

普通なら涼しいと感じるはずなのに、今日は雲ひとつない快晴。

直射日光を体育帽子で防いで入るものの、汗は吹き出てしまう。

残り2週となった時に、改めてはぁ、はぁ、と息づかいの荒い周りと自分の汗を拭ってそう思った。


「・・・坂口さんは・・・あれから見てないな。」


坂口さんの背中は見えない。

私はペースを変えず走ってるし、水分補給なんてしてないから、坂口さんもしてないのだろう。


「う〜ん・・・適度に体調管理が出来るほどの判断力はないのかなぁ〜。

流石に限界だったら休むと思うけどさ〜。」


あと2週ほどで終わるから必要はないと、そう判断したんだろうけどね。

ま、残り一周になれば終わりに対する喜びと余力が出て来てくれるから、あの子が倒れることはないだろう。

あとは私があの子に追いついて、勝つ仕事が残ってるだけか。


「・・・はぁ〜。」


だるいなぁ〜と思い溜息をつく。

できない事はないがそろそろペースを上げないと追いつけなくなる。



じゃあ、走るか。



そう足に力を入れた瞬間・・・


バタリ・・・


隣で何かが倒れる音がした。

横に視線をやると・・・


「・・・ハァ、ハァ、ハァ。」


膝と手をつく男の子がいた。

多分熱中症になりかけてる。



「・・・・。」


私は周りを見た。

先生たちはいない。

休憩所はあと数十メートル先。

これなら戻るほうが安全だろう。

保健室も戻ったほうが近くにあり問題がない。


私は即、行動した。


倒れた男の子をお姫様、いや・・・王子様抱っこで持ち上げ、駆け出す。

鍛えている筋力のおかげてそこそこ軽く感じれている。

所々遊具が邪魔をするが、それは飛び越えるしかあるまい。

私はタイヤの遊具の上に乗り、ジャンプでどんどん遊具を超えていく。

これに関しては一切悪ふざけはない。

本気のスピードで、保健室まで向かっている。

途中にいる先生がコースアウトしている私に気づいた。

視界端で私を追おうとしている姿が確認できる。

たがここまで来たら保健室へ直接つれていくのが丁度いいだろ。

私は先生を無視し、保健室まで連れてった。


間、20秒。


抱えている少年は暑いのかそれどころではない感じがする。

私は靴も脱がす保健室へと入る。


「ど、どうしたのっ!?」


白衣の先生が驚いた声を上げ近づいてくる。


「脱水症状と熱中症になりかけです。

治療お願いします。」


私はソファーへと彼を置く。

白衣の先生は彼の容態を見て、すぐさま処置に取り掛かった。

私がひと呼吸置くと、追いかけていた先生が入ってくる。


「何事ですかっ!?」


さすが大人、視界端にほんのり映るぐらい距離が離れていたのにもう来た。

それほど全速力だったのが伺える。


「熱中症の子です。

この子が連れてきてくれました。」


説明しようとしたが、白衣の先生が簡潔にまとめてくれた。

彼を看病しながらの説明。

手際の良さが伺える。


「なるほど、翆さん、ありがとう。」


ここでお礼を言われるのは照れくさい。


「ええっと、細かな説明を・・・。」


男性教師が私に細かな説明を求めてきたのを確認し・・・


「色々と説明は後でします。この授業が終わり次第すぐにでも。

それに今はあまり騒がないほうがあの子のためにもいいでしょうし。」


男性教師は、はっと、それもそうだと納得した顔をした。


「とりあえず持久走大会を完走してきます。

その後でまた寄ります。」


私はそう言い残し、先生の返事を聞かずに保健室を飛び出そうとする。


「翆さん、行く前にアク○リアスを飲んでいきなさい。」

「了解です。・・・じゃ、あとはお願いします。」


私は言われたとおりにし、外へ飛び出した。

走りながら考える。

坂口さんに勝つには、結構なタイムロスをしてしまった。

止まったり休憩してたりしたら、もう追いつけない。

・・・人命救助を言い訳にして負ける。

それが一番禍根を残さない方法だろう。


「・・・だがあそこまで大口叩いて子供に負けるのは・・・ちょっとプライドが許さないんだよね〜。」


こんなことになるなら始まる前に挑発なんてしなければ良かった。

そう思うも時すでに遅し・・・。


これは見込みが甘かった私の責任だろう。


「・・・はぁ、気ままに行きたいな。」


毎回思うが本当に・・・プライドって客観視できる人からすれば余計なものだ。

つくづく私の一時の欲望の邪魔をする。

眠たい時も眠させてはくれないし・・・

お腹空いたときも、太るからって食べさせてくれない・・・

お金だって無駄遣いしたいのにもったいないってさせてくれない・・・

小さな幸福を余裕のない私に与えてはくれないのだ。


まぁ、余裕のないお前が悪い、と言われたらそれまでなんだけどね。





・・・だがまぁ、なくなってしまっては何も楽しめなくなるものでもある。

縛りがあるから難易度も上がり、楽しめる。

ルールをつけないルールも、自分に貸した縛りも・・・それは全部プライドに値する。

私の今の負けたくない理由もそれの一つだ。










なら・・・仕方ない・・・かな。

















「本気を・・・見せてやる。」

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