翆の目的
部屋の中でキーボードの打つ音が鳴り響く
「成功・・・したな。」
私はこの世に生を持ち始めて、初めて人の心が変化する瞬間を見た。
しかも一気に二人も。
私は感動した。
そう、それは丸で映画を見ているような感動だ。
主人公に立ち塞がる巨大な敵。
主人公に影響され、変わるライバル。
主人公が新たな仲間という力を手に入れる。
そして覚悟が決まったとわかるその表情、台詞。
理不尽な敵?超えるから視聴者は興奮するんだ。
臭い台詞?恥であっていい、それは物語を引き立たせる。
友人ではなく仲間?どんな括りでもいい。
孤独であった主人公は味方ができるだけで強くなる。
嫉妬、憤怒、驚愕、恐怖、羞恥、幸福、多くの感情からくる表情がそれらを証明する。
証明し、それらの感情は登場人物を逞しくさせている。
単純だが、視聴者はその姿に羨ましいっ!格好いいっ!目が離せないっ!そう思うから興奮するんだ。
だから私は今、目の前の物語に心踊らされている。
その上、歓喜する私に追い打ちをかけるように、この物語に美しい光景の真逆の嫌悪する、嫌な大人の姿によりBGMが奏でられた。
この世に絶望があれば希望があるように、その逆もまた然り。
この世は正常が歪みを、歪みが正常を引き立たせるんだ。
この物語もそうだ。
痛み、苦しみが望みを生み出した。
その望みに祐作が引き寄せられた。
そしてその望みを叶える強い覚悟が誕生した。
未来を思うから二人は過去の嫌悪した。
その嫌悪が覚悟を固め、二人の心を強くする。
分かるだろうか?
嫌な事が二人の心情を、行動を、美しくさせているのだ。
「あぁ、凄いよ・・・まだこの物語は続いてしまう。」
私はもう魅了されているのだろう。
だって仕方ないじゃない。
今でさえ、透の物語は祐作がいるだけで、これだけ美しく、面白く、格好よく、無様であり、恥ずかしく、それでいて感動できる作品となっている。
それなのに私が見てきたものは序章でしかないだ。
私の感は大音量で言っている。
この物語は終止符を打つには早すぎる。
まだ本編も始まっていない、と。
確かに、と、私は思った。
だってまだ物語に重要なヒロインが出ていないのだから。
ん?私?・・・私は違う。
私は物語の中にいる、力の役割をになっているのだ。
いわば師と同じ。
だから私はヒロインにはなれない。
故にまだ透の物語は終わらない。
いつ本編に入るのか。
それは分からない・・・が、私は待つ。待つしかない。
だって現実は映画のようであれど映画ではないのだから。
時間はカットもスキップも起きてはくれないのだから。
だから、今は待つしかない。
でもいいじゃないか。
一秒一秒でも時間は進んでいる。
そうあるだけで終わりが来ることが決定されている。
なら遅かれ早かれこの感動に新たな感動は重なるんだ。
この興奮にまたエネルギーが注入されるんだ。
生憎、私の記憶はどんなに時が経てど消えはしない。
それを活かせば、忘れて感動を、興奮を、無くすことはない。
だからこの映画に対する興味は消えはしない。
それに終わりまで気長に待つのも物語の一部だ。
その一部があるから物語も成り立つ。
なら待とう。
楽しみにして待とう。
ダンっ!
私はエンターキーを勢いよく押した。
「『透の物語』の始まり・・・始まり。」
私はパソコンを閉じた。
一端透の物語終了




