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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
21/41

透と祐作。

「これで晩飯でも食ってこい。」


体中が痛い。

ズキズキと体が悲鳴をあげている。

目眩を起こす痛み、手足に力が入らない理由の息苦しさ、まるで固められたような感覚を起こす寒気、体を治すためか酔いを起こしながら上がる体温。

痛くて苦しくて寒くて暑い。

いつも通りのことが終わり、気がつけば、それらが一気に襲ってきた。


だか今となればそれは楽な方になっている。

それは多分体を鍛え始めたおかげだろう。

俺は投げつけられた五百円を震える手で取り、力の入らない足を無理やり立たせる


「・・・・ッ!」


水のように入れた力が流れ落ちる感覚がした。

けどここで倒れればまた蹴られる。

根気で無理矢理に立たせる。


そして玄関を開け、翆と佑くんのいる外へと向かう。


仲間・・・とあっちはそう思ってはいないだろうが、いてくれるだけでも何処か安心感がある。

いつも以上に大丈夫と思えた気がする。


僕はそんな日々の違いを心に刻んだ。


「痛い・・・な・・・。」


歩くときに来る痛み。

歩かなくても続く打撲痕から感じさせる痛み。


僕は痛みを呪わない。


だって僕は痛みに感謝しているから。

嫌うべきものではあれど、これは僕が生きている証明なんだから。

生きている実感をわかせるものだから。

今では不快にはなれど、明日を生きる糧となっていることだろう。


明日、明後日、明々後日・・・来月・・・来年・・・


『この痛みを止める。』


『この痛みを変える。』


一日一日の願いを強くする感情増幅装置に・・・痛みははなってくれている。

痛みが・・・少なからず僕の未来への幸福生産工場へとなってくれている。

だから呪わない。


「また・・・痣が・・・増えちゃったな。」


服をまくりあげ、体を見る。

青紫色にところどころ変色し、腫れている。

腕の、丁度服のせいで見えづらいところに、火傷跡もある。


「・・・凄いよね・・・逆に尊敬するわ。」


本当、大人は上手いように現実を隠す。

すべての痣が服の下にあるのがすごい。

これで社会からは目立たずに済むわけだ。

・・・ここまでうまくすることに尊敬を抱くね。


「・・・まだまだ・・・だな。」


僕は傷を撫でた。

僕は思う。

この傷たちが完璧に治るまで、人生を変えよう。

僕の願いは幸せに暮らしたい。

その幸せには・・・


『嫌いな痛みを感じたくない。』


『温かいご飯を食べたい。』


『もう・・・一回しか望まないから・・・



『あの時のように母と笑いたい。』



これらが含まれているんだ。


ならそのために僕を愛してくれた母を取り戻そう。

僕だけが再婚相手の父が母をまともから異常に変えたのを知っている。

だから僕がなんとかしないといけない。


僕の願いのために・・・母の人生のために・・・


その為に父を母から引き離さなければならない。

僕に出来るのは母の関心の中にいる父を消去するだけ。

僕はすべてを利用するつもりだ。

利用して母の願っていた未来を、幸せをもう一度思い出させる。

そのためにまずは力だ。

子供でも大人に勝つための力を手に入れる。


「・・・はっ、マジ糞。」


僕は体を襲う痛みを笑い飛ばした。

笑い飛ばして痛みを我慢した。

地面に倒れて痛い痛いと泣き叫びたいのを我慢して。


出来ないのは仕方のなくない?


だって未来を思うと、これ以上の痛みを味わなければならないのがもう分かってるだよ?

翆の訓練を受けたから想像できてしまったんだよ?


弱音なんて吐けるわけ無いじゃん。

涙なんて流せるわけ無いじゃん。

叫び散らせるわけ無いじゃん。


なら・・・笑うしかないじゃん。


でもそれのおかげて救われているのかもしれない。


少しでも笑えているから、明日を思えてる。

前に進むことができている。

嘆くことをしなくて済んでいる。





多分僕は・・・











いつまでも笑うことを止めない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お疲れ様。透くん。」

「・・・。」

「やっぱり少し恥ずかしいな。」


透は自分の境遇を恥ずかしいと言う。


「ま、私達は言いふらしたりなんてしないから安心しな。

好きなようにすればいいさね。」


翆はそれを否定も肯定もせず、放置する。


「・・・まだ僕には何もできないよ。

鍛え始めたばかりだから。」


透は助けてとは言わない。

逞しく生きている。


「悲観するほどでもないぜ?

今日ので少しの成長は感じとれんでしょ?

大きな一歩に確実になってる。」


翆は褒める。

今でも死んでしまう現状に身を投じていることを褒めている。


「それは・・・凄く・・・嬉しいな。」


その自信はどこから来る?

来るとわからない未来を何故そこまで信じれる?

安心が何故出てくるんだ?


「意味がわからねぇ。」


前を歩く二人を見て呟く。

多分ここで俺は透に負けているんだ。

逞しく生きれる彼の心に・・・俺は勝ててはいないんだ。


俺は強くなりたい。


そう思うと自然に言葉が出ていた。


「何で・・・っ!・・・そこまで真っ直ぐにいられるんだ・・・っ!」


透は立ち止まり、俺を見た。

涙目の俺を見て、微笑んだ。



「生きたいからだよ。」



透は言う。

透は俺より低け小さい体を持つ。

頭も俺より悪い。

非力・・・その言葉がとても合っていた。

なのにこの時は誰よりも大きく見えた。


「嬉しいことに僕と生きてて笑ってくれてる人がいる。」


分かっていた。


「僕の生き方に心動かされてる人がいる。」


こいつは強いわけではない。


「でもまだ、一緒にいても空ぽっで助けを求めている家族がいる。」


大人なんだ。


「せっかく死ぬならその人を助けてから死にたい。」


明確な未来を誰よりも持っている。

それに向かって、息を詰まらせてもボロボロになろうとも、歩いてる。


「それまで生きたいから前を向けるんだ。」






情けない。

とにかく自分が情けない。

誰よりも馬鹿で弱くて阿呆で子供なのは自分だった。

多分俺は初めて誰かと裸で向き合えたのだろう。

何も着飾らない本当の自分の心にこれだけ響いたのだから。

このチャンスを逃してはいけない。

これをきっかけにしなくちゃいけない。










変わるなら・・・今しかない・・・。











「・・・悪かった。」



俺は頭を下げた。

許されたいわけじゃない。

ただこうしないと変われない気がしたんだ。

自分の心に従う。


「・・・急にどうしたの?なにをあやまっているの?」


多分透はもう俺に怒りを覚えていない。

馬鹿なほど一途だから俺を許しているだろう。

だからこの言葉も本気で何に対してか分かっていないから出た言葉だろう。


「今までの俺がお前にしてきた事だ。

お前を傷つけ、お前の大切なものを侮辱した事にだ。」

「そんなもういいの・・・「それとっ!」・・・?」


俺は透に許しを乞う訳じゃない。

伝えたいのは謝罪じゃないんだ。


「有難う。」


感謝なんだ。

俺が求めてた物を見せてくれたお礼なんだ。

無意識でも俺にしてくれた事に対するお礼だけなんだ。


「お前のおかげで自分がしたい事がわかった。

見失ってたものを・・・思い出した。」


頭は上げない。

まだ伝えたいことを言えてないから。


「まだ俺は変れていないけど・・・お前はきっかけをくれた。

これから先いつでも渡れるようにと、道を教えてくれた。

俺に夢を思い出させてくれた。」


辺りは俺の声以外音がない。

元々人通りの少ないところだし、音も響かないところだ。

まるで俺たちしかいない世界のように感じた。

恥も尊厳もここにはない。


「だからこれはそれに対する恩返しだ。」


多分学校に戻っても俺は透に対する扱いを180度変えれない。

けど今はそれでいい。

変え方を俺は知らないし、透もいつも通りでいいよと笑うだろう。

でもこれだけはやるんだ。


「俺を・・・お前の願いを叶える手伝いをする。

俺はお前に生きててほしい。

生きて俺の好敵手でいてほしい。

勝手だろうけど謝罪はしない。

俺が持つのは感謝だから。


・・・本当にありがとう。」


俺は顔を上げた。

透の顔を見る。

俺は驚いた。

だって久しぶりに、透の新しい表情を見たから。

出会ってまだ一年も経っていない。

まだ数カ月の関係だ。


透は・・・


「年下に好敵手は年上として恥ずかしいんじゃね?」


嬉しそうにでも悪戯っ子ぽく笑っていた。


俺はそれに・・・










「馬鹿、俺が認めた相手に年なんて関係あるか。」











久しぶりに心から笑顔になれた。

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